【不動産】VR(仮想現実)による物件の内見で物件選びに変化も(2019-08-21:不動産ジャパン「話題の不動産キーワード51」=未来計画新聞:2020-02-01)

 公益財団法人不動産流通推進センターが運営する不動産ポータルサイト「不動産ジャパン」にVR内見の記事を提供した。日本不動産ジャーナリスト会議会員の山本久美子氏に依頼されて書いたのだが、原則として特定の企業名は出さないことが決まりになっているらしく、不動産ジャパンの記事では企業名がほとんど削られてしまった。運営母体が国土交通省所管の団体で、特定の企業名を出すと不公平になるので配慮しているのだろう。不動産会社は宅地建物取引業法などの法律に基づいて横並びで業務を行ってので特定の企業名を出さずに説明することも可能だ。しかし、会社ごとに製品・サービスが異なるIT企業の取り組みを企業名を出さずに説明する方が読者には分かりにくいと思うのだが…。未来計画新聞にはリンク先とともに元原稿を掲載しておく。

「VR内見」VR(仮想現実)による物件の内見で物件選びに変化も(2019-08-21:不動産ジャパン「話題の不動産キーワード」)

 不動産物件の内見にVR(Virtual Reality:仮想現実)を活用する不動産会社が急速に拡大している。VRの導入によって消費者の物件選びにも変化が生じ始めており、5G(第5世代移動通信システム)などICT(情報通信技術)の進化とともに不動産分野でのVR活用が一段と加速すると予想されている。

VRで消費者の負担軽減と不動産会社の業務効率化を実現

 VRとは、コンピューターグラフィックス(CG)やパノラマ写真などを使って3次元(3D)空間を作り出し、人があたかもその中にいるような疑似体験をさせる技術。2007年に米グーグルが提供開始した道路の風景をパノラマ写真で見せる「ストリートビュー」や、09年に公開された3D映画「アバター」などで注目され、コンピューターゲームを中心に活用が進んできた。不動産分野では、物件をCGやパノラマ写真で見せることで、現地で行う内見を消費者に疑似体験させることで、消費者の負担を軽減するとともに、不動産会社の業務効率化ツールとして利用され始めた。

 16年に任天堂が提供を開始したスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」では、スマホに映った実際の風景映像の上に、CGで描かれたキャラクターを映し出す技術が注目された。これはAR(Augmented Reality:拡張現実)と呼ばれる技術で、VRとは区別される。不動産分野では、室内空間などの画像の上に、様々な家具を配置してコーディネートするのにARが使われている。

デジタルテクノロジーの進化でVRを身近なツールに

 不動産分野でVR活用が始まった背景には、デジタルテクノロジーの進化がある。2000年代に入って3D建築設計技術「BIM(Building Information Modeling)」の導入が始まり、CGを使って3Dの仮想空間が作成しやすくなった。日本では09年頃からBIM導入が始まり、海外に比べて普及が遅れていたが、国土交通省は19年6月に建築・住宅・不動産の関係団体を集めて「建築BIM推進会議」を立ち上げ、本格普及に乗り出している。

 13年には、リコーイメージングがコンパクトな全天球カメラを発売し、360度パノラマ写真が簡単かつ安価に撮影できるようになった。その後、ニコン、韓国サムソンなどが全天球カメラを商品化して市場は拡大している。さらにドローンの登場で、空中撮影が簡単に行えるようになり、マンション住戸からの眺望も疑似体験できるようになった。

 VRコンテンツをパソコンやスマホの画面で見るより臨場感のある映像などで見られる専用端末「VRゴーグル/VRヘッドセット」も登場した。パソコンやスマホでは画面操作しながら映像を見るだけだが、VRゴーグルは両目の視野角の違いを利用して立体的な映像を見ることができる。スマホを厚紙で作った簡易ボックスに取り付けて立体映像が見れるようにした端末から、ゴーグルを装着した状態で首を振ったり、歩いたりすると映像が動いてリアルな体験が得られる端末まである。16年から米オキュラス社(米フェイスブックの子会社)、台湾HTC社などの製品が登場し、日本企業ではナーブが17年にVRゴーグルを発売した。

VRコンテンツのクラウドサービスが普及

 VRの利用環境が整ってきたことで、15年頃からクラウドサーバー上にVRコンテンツを登録し、インターネットを通じて誰もが手軽に閲覧できるサービスを提供する企業が出てきた。すでに建物が建っていて室内を写真撮影できる賃貸物件では、パノラマ写真があれば簡単にサービスが利用できる。全天球カメラのリコーが法人向けのクラウドサービスを開始したあと、16年からスタートアップ企業のナーブやスペースリーなどが参入。利用料金が下がり、スペースリーなどが面倒な写真撮影を代行するサービスも始まって、18年から一気に普及が進んだ。

 分譲物件では、建設前に販売を開始するので写真撮影ができず、マンションも全ての住戸のモデルルームをつれないので、設計データからCGでVRコンテンツを作成する必要がある。BIMソフト大手の米オートデスク社では、BIMで作成した3D設計図から、VRコンテンツを作成するクラウドサービスを16年9月から提供を開始。筆者はVRヘッドセットを装着して同サービスを体験したことがあるが、実際には存在しない建物の内部を歩き回りながら天井の高さや室内の広さなどを実感することができた。

 18年にスペースリーが室内をウォークスルーできるソフトを提供する安心計画と業務提携。19年にはスタートアップ企業のスタイルポートが、CGでVR内覧できるクラウドサービスを開始するなど、分譲物件でもVR活用が広がり出している。

VR内見は賃貸だけでなく分譲選びにも

 これまでにナーブが提供するVR内見サービスの導入店舗数は3000店を突破し、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の会員支援を行うハトマーク支援機構と業務提携して普及に乗り出している。スペースリーの利用事業者数も19年4月で2000事業者を超えている。

 VRの導入で、賃貸物件選びでは事前にインターネットでVRコンテンツを閲覧して物件を絞り込んでから来店する客が増えた。その結果、現地を案内して内見する件数が減り、不動産会社にとっては内見業務の負担が軽減。来店成約率もアップして業務効率の改善が進んだ。消費者にとっても、いくつもの物件を時間をかけて内見するのは大変なので、VRを利用するメリットはあるだろう。

 分譲物件選びでも、マンションなどではモデルルームで質感を確認したうえで、VRで購入したい住戸を比較したり、間取りを確認したりすることが可能になった。中古住宅選びでも、VR上でリノベーションプランを事前に検討して疑似体験できれば、消費者にとって選びやすくなる。

5Gサービス開始でさらなる変化

 日本では、2020年から5Gサービスの提供が始まる。すでに4K・8Kテレビが発売され、全天球カメラでも4K対応の機種が登場しており、5Gが加わることで高精細映像をリアルタイムに送受信できるようになる。わざわざ現地に行って内見しに行かなくても、VRで十分という消費者が増えることも考えられる。

 ナーブでは、VR内見サービスに電話オペレーターによるコンシェルジェサービスを加えて賃貸物件選びのサポートを行い、ほぼ100%の成約見込み客だけを不動産会社に送客する新サービスを開始する。最近では、スマートロックを使って不動産会社が立ち会わずに消費者が勝手に内見できる仕組みが提供されたり、19年10月から重要事項説明書や契約書を紙ではなく電子データで交付するための実証実験が始まる。

 VRなどのテクノロジーを活用することで、不動産会社の営業手法やビジネスモデルが今後、大きく変わっていく可能性がある。