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 従軍慰安婦問題を取り上げて話題となった映画「主戦場」の映画評らしきもの(?)を書いた。フェイスブックに映画を見に行ったことを書き込んだら、IT記者会のメンバーである奥平等氏から映画評を800字程度で書いてほしいとの依頼があった。掲載先は「緑の党」の広報紙だったので読んだ人は少ないかもしれない。私自身、従軍慰安婦問題について論じられる知見は持ち合わせていないが、最近のジャーナリズムのあり方について考えていたことを重ね合わせて原稿を書いたので、転載しておく。

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■映画「主戦場」とジャーナリズム■
 GW明けの2019年5月9日に映画「主戦場」を見た。100席ある劇場は満席で、平日昼間なので高齢者の姿が目立った。テレビでほとんど紹介していないので、筆者と同じネットで知って見にきた人たちなのだろう。

 内容は、従軍慰安婦問題について論争を展開している日本、米国、韓国の中心人物へのインタビューとニュース映像で構成している。登場人物を分かりやすく説明するためにナレーションに多少の脚色を加えているが、登場人物はいつも通りの主張をそのまま話している。異なる主張をテンポよく対比させることで、何を感じ取るのかは観客次第である。

 経済記者の筆者から見て「主戦場」はジャーナリスティックな視点で作られた映画だと感じた。記者の取材も最初からシナリオが決まっているわけではない。日頃の問題意識や疑問を取材対象にぶつけて得られた証言と客観的データに基づいて、自らの視点で記事を仕上げていく。書きあがった記事は事前に取材先に見せないのが原則だ。

 監督のミキ・デザキ氏は、当時は上智大学大学院生だった。映画が公開された後、映画に登場した右派論客から「騙された」との抗議が噴出したが、当初から映画化する可能性も伝えて、公開承諾の署名も得ていたという。

 確かにインタビューを受ける側にとって取材者がどのような立ち位置の人間かは分かりにくかったかもしれない。しかし、普段から自分に都合の良い記事を書く相手しか取材を受けないわけではないだろう。映画を見た限り、登場人物はリラックスして普段通りにインタビューに答えている。最後に登場した右派団体「日本会議」代表委員の加瀬英明氏は本音でしゃべっている印象だった。

 筆者も取材先から猛烈な抗議を受けた記事を書いた経験がある。ただ、抗議と言っても事実関係の間違いよりも「配慮に欠けている」とか「失礼だ」といった理由がほとんどで、そうした記事に限って良く読まれた。

 映画「主戦場」に対して、なぜ右派論客からの抗議が噴出しているのか。その理由を知るには映画を見てもらうしかない。

(おわり)

記事にクレームは付きモノ

 記者という商売をやっていれば、記事に対して取材先などから抗議を受けることは珍しくはない。駆け出し記者時代は、思わずビビッて取り繕ろうとすることもあったが、場数を踏んで慣れてくると落ち着いて対応できるようになる。むしろ相手の本音が聞ける良いチャンスとなることが多い。

 経済記事は、当事者から話を聞いて記事を書くことがほとんどで、情報のウラも可能な限り取って書いているので、基本的に事実関係で間違った記事を書くことはほとんどない。事実関係が間違っていないからと言って、クレームが来ないというわけではない。その時に取材先との関係をこじらせるわけにもいかないので、どう対応するかである。

 フリーランスの場合は、記者クラブには入会できないので、記者クラブ主催の記者会見にはオブザーバー申請して記者クラブに認めてもらわなければ出席できない。オブザーバーの立場では質問もできないのが一般的だ。企業の記者会見でも、事前には開催情報が入るように根回ししておく必要があるし、記者会見に呼んでくれるところも限られる。

取材を断られる理由は?

 記者会見がダメなら個別取材しかないわけだが、依頼しても断られることは良くあることだ。取材を断る理由を説明してくれる相手は良い方で、理由が分からないまま断られることもあれば、「連絡します」と言って全く連絡が来ないこともしばしばだ。

 権力や富を持っていて周りからチヤホヤされている人間の中には、いつも自分に都合の良い記事を書いてくれるお気に入りの記者には会うが、そうではない記者には会わない人もいる。いろいろと理由を付けて記者を選別しているわけで、私も「記者クラブに入っていないこと」を理由に取材を断られた経験がある。

 最初から門前払いされてしまっては仕事にならないし、目的も果たせない。取材の目的や狙いを聞かれたら、中立的な立場で取材していることを伝えて理解してもらうようにしている。実際に取材してみなければ、どんな話が出てくるのかは分からない。別にウソをついているわけではなく、中立的な立場で話を聞くというのは本気だ。

 映画「主戦場」の監督ミキ・デザキ氏も取材を依頼した時点では、素朴な疑問を持っていただけで、どちらかの立場に偏って映画をつくろうと思っていたわけではないだろう。それが相手に伝わったからこそ、多くの人たちが取材に応じたのではないだろうか。

クレームをオープンにして記事に

 記者としても、相手が自分に都合が良いように記事を書いてくれることを期待していると十分に承知している。大手企業の経営者の中には「良い記事を書くように」と露骨に圧力をかけてくる人もいる。しかし、記者が記事を書くのは、取材先のためではなく、読者のためだ。取材先に忖度して記事を書かなかったからと言って憤慨されても困る。

 最近の新聞・テレビを見ていても、取材先に忖度しながら情報発信していることが伝わってくる。今ではSNSが普及して記事に対するクレームが増えて大変なのかもしれない。とは言え、そうしたクレームを恐れて忖度しても根本的な問題解決にはならない。むしろ状況は悪化するだけだろう。

 新聞社時代に大手企業から記事に対するクレームがあったので、そのクレームを題材にして記事を書いたことがある。その結果、半年ほどは取材依頼しても受けてもらえなかったが、さほど困ったという記憶はない。後から知ったことだが、私の記事で問題点がオープンになり、企業がその問題に取り組む契機になったようだ。

 かんぽ保険の不正販売問題では、日本郵政がNHKの報道に対して圧力をかけていたことが明らかになった。その時にNHKが内々で処理しようとせずに、最初から日本郵政の圧力をオープンにしていればよかったのだ。その方が、むしろ不正販売問題の解決を早めただろう。

 何かの記事で、安倍総理自ら新聞社やテレビ局に直接、電話してクレームを言っているという話が出ていたが、本当なのだろうか。もし本当ならクレームが来るたびに記事を書く。それが記者という商売だ。ミキ・デザキ氏にもぜひ「主戦場」の続編を製作することを期待したい。

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