日本不動産ジャーナリスト会議(略称・REJA、代表幹事・阿部和義)は、2019年9月で設立30周年を迎える。これを記念して10月4日に講演会「Society5.0時代の不動産・住宅市場」を開催することになり、片山さつき氏(参議院議員・前内閣府特命担当大臣(地方創生))、原科幸彦氏(千葉商科大学学長・日本不動産学会会長)とともに、丹波廣寅氏(ソフトバンク株式会社テクノロジーユニット IoT & AI技術本部長)に登壇していただくことになった。ソフトバンクは米シェアオフィス大手のWeWorkや世界第2位に躍進したホテルチェーンのOYOと日本で合弁会社を立ち上げるなど不動産事業にも乗り出している。この先、不動産・住宅市場にどこまで関わってくるのか。今回の講演の前に、ソフトバンクと不動産・住宅・建設市場の関係を整理しておく。

ソフトバンクに講演依頼した経緯 筆者は2000年末に日本工業新聞を退社したあとREJAに参加して、05年度から幹事・事務局を務めている。現役記者時代にIT(情報技術)産業を担当したのは1985〜90年の6年間。最後の1年間だけソフトウェア業を担当した時に、パソコン用パッケージソフトの卸売業を行っていたソフトバンクの孫正義氏に単独インタビューした経験がある。

 最初に会った印象は「とても腰の低くて礼儀正しい人」というもの。ただ、インタビューの途中で筆者の方が自分より年下だと分かると、一気に打ち解けた雰囲気に変わったので驚いた。当時は、孫さんも30歳ぐらいだったから、いつも神経を使いながら人付き合いをしていたのだろう。

 その後はIT担当を外れ、ソフトバンクを直接取材する機会はなくなった。しかし、広報室長の栃原且将氏とは、自動車担当時代に彼がマツダの広報担当として知り合ってから付き合いがあり、今回の講演会で協力をお願いすると、快く引き受けてくれた。

なぜソフトバンクが不動産・建設なのか

 ソフトバンクは、2、3年前から不動産・住宅・建設分野にアプローチし始めている。日本では2020年からサービス提供が始まる5G(第5世代移動通信システム)の普及を図る狙いからだろう。最初に5Gの特徴を簡単に整理すると、次の3つが挙げられる。

〇通信速度が格段に上がる 4Gの通信速度は100Mbps〜1Gbpsだが、5Gでは10Gbps〜100Gbpsにアップ。フルハイビジョンテレビの4倍(4K)、16倍(8K)の高精細映像にも対応できるようになる。

〇遅延が小さくなる 4Gでは10ミリ秒の遅延があるが、5Gでは1ミリ秒と小さくなり、ほぼリアルタイムでデータ送信が可能に。ロボットなどの遠隔操作や車の自動運転などが実現できる。

〇同時接続数が増える 4Gに比べて5Gでは同時接続数が100倍に。センサーなどの大量のIoT(インターネット・オブ・シングス)機器をインターネットに接続して大量のデータを収集できる。

 5Gになると、パソコンやスマートフォンなどのIT機器だけでなく、道路や自動車、ビルや住宅などのインフラにIoT機器が組み込まれて様々なデータが収集できるようになる。これらのビッグデータをAI(人工知能)を使って解析することで、世界中でイノベーションが起こると予想されているわけだ。

 しかし、総合コンサルティング会社のアクセンチュアが19年7月に公表したレポートでは「日本の経営層の約7割が5Gがもたらすインパクトを理解していない」と指摘。「通信スピードが単に早くなるだけでは?」との認識が改まらないと、20年からサービス開始されても遅々としてイノベーションが進まない可能性もある。

 とくに不動産・住宅・建設業は、もともとIT化に大きく出遅れていた業界だ。いまだにIT活用には消極的な企業が少なくないだけに、5Gを活用して自力でイノベーションを起こすのは期待薄だろう。そうした業界を変革していくには、外部からの圧力が最も効果的だ。

ソフトバンクは日本の不動産・住宅市場を変えられるか

 ソフトバンクは、2000年代初めに日本政府がインターネットブロードバンド網の普及に乗り出した時、通信モデムを無償で配布する思い切った戦略で、他国より早いスピードでブロードバンド網の普及を実現させた実績がある。その後も、米アップル社のiPhoneもいち早く日本市場に導入。NTT寡占だった通信市場の構図を大きく塗り替えてきた。

 5Gでも、自らリスクを取って様々な戦略をしかけ始めている。2年前にデジタルトランスフォーメーション(DX)本部を設置し、モビリティ、小売・流通、健康・医療、不動産・建設の4つを重点分野を設定。モビリティ分野では、18年10月にトヨタ自動車と共同出資会社MONET Technologiesを設立することで合意。小売・流通では、19年6月にヤフーを連結子会社化し、9月にヤフーがファッション通販サイトZOZOの株式公開買い付けを発表した。

 不動産・建設分野でも、日本最大の建築設計事務所である日建設計、土木コンサルタント会社大手のパシフィックコンサルタント、2020年に移転する予定の竹芝新本社を再開発した東急不動産などと業務提携。さらにソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて、海外の不動産・建設分野のユニコーン企業にも積極的に投資している。

 ソフトバンクの親会社であるソフトバンク・グループでは、2017年12月に買収を完了した米ファンド会社「フォートレス・インベストメント・グループ」を通じて間接的に日本で不動産を保有している。ビジネスホテルチェーンの「マイステイズ・ホテル」(97店舗、1万6223室=19年7月時点)や、厚生労働省の旧雇用促進住宅を買い取った低価格賃貸住宅「ビレッジハウス」(10万4687戸=全国賃貸住宅新聞調べ2019年管理戸数ランキングで9位)などがある。現在も、ビジネスホテルチェーンを展開するユニゾホールディングスへの株式公開買い付けを進めているところだ。

 もちろんソフトバンクが、フォートレスの投資戦略に直接的な影響力を行使することはできないが、ソフトバンクG本体でも2019年1月に「リアルアセット投資部」を新設した。まだ具体的な投資戦略は明らかにしていないが、5Gの普及促進に必要な不動産・インフラ投資には積極的に投資していく可能性はあるだろう。

 日本の不動産・住宅市場は、駅前の不動産屋を回って行っていた物件探しが、インターネットを使って検索できるようになった以外、昔と大して変わっていない。いまだに地面師などの詐術的な営業手法がまかり通る市場に、どのように関わっていくのか。興味津々で注目している。

【ソフトバンクの不動産関連ビジネス】

2012-06 米投資会社のフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)が、ウィークリーマンション東京を買収――運営管理会社を「マイステイズ・ホテル・マネジメント」に社名変更(2014-07)。
2015-07 ヤフーとソニー不動産が業務提携・資本提携で合意=ヤフーが18億円を出資、出資比率はソニー約56.3%、ヤフー約43.7%。
2015-11 ソニー不動産、ヤフーが、新しい不動産売買プラットフォーム「おうちダイレクト」を開始
2016-10 ソフトバンクグループが、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンドとの戦略的提携し、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立
<2017年>
2017-01 米フォートレス関係会社の全国民間賃貸サービス合同会社が、高齢・障害・求職者雇用支援機構から西日本27府県の旧雇用促進住宅626か所、1638棟、5万9904戸を366億2200万円で取得。
2017-02 全国民間賃貸サービス合同会社が、アパマンサブリースに入居者募集業務を委託。
2017-02 ソフトバンクGが、米フォートレス・インベストメント・グループの買収で合意=買収金額は33億ドル(約3752億円)。
2017-05 ソフトバンク・ビジョン・ファンドが初回クロージングを完了し、930億米ドル超(10.4兆円)の出資コミットメントを取得。
2017-07 ソフトバンクと米WeWorkが、日本の合弁会社設立を発表=出資比率はソフトバンクとソフトバンクGの子会社合わせて50%、WeWorkが50%。
2017-07 フォートレス関係会社の東日本民間賃貸サービス合同会社が、高齢・障害・求職者雇用支援機構から東日本エリアの旧雇用促進住宅523物件を248億2482万円で落札。 フォートレスは、旧雇用促進住宅を低価格賃貸住宅「ビレッジハウス」としてリブランドし、管理運営会社「ビレッジハウス・マネジメント」は約10万戸の賃貸住宅を管理運営している。
2017-08 ソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンク C&S)が、不動産賃貸契約専用の電子契約サービス「IMAoS(イマオス)」を9月1日から提供開始。2年前から東急住宅リースの協力を得て商品化を実現。GMOクラウドの電子契約サービス「GMO電子契約サービスAgree」を採用。
2017-11 ヤフーが、オプトHDからクラシファイドの全株式を取得し連結子会社化=「Yahoo!不動産」の物件情報の販売代理店であるクラシファイドを連結子会社化して不動産会社への物件情報の掲載提案・販売を強化。株式譲渡日は12月26日。
2017-11 ソフトバンクが、日建設計と次世代スマートビルの設計開発で業務提携。
2017-12 ソフトバンク・ビジョン・ファンドが、米不動産テック企業「Compass(コンパス)」に4億5000万ドルを出資。コンパスは、不動産エージェントの生産性向上をITによって実現して成長したユニコーン企業。
2017-12 ソフトバンクが、パシフィックコンサルタンツとIoTやAIを活用した最適な公共インフラの設計・開発で業務提携。
2017-12 ソフトバンクGが、米フォートレス・インベストメント・グループの買収を完了。
<2018年>
2018-01 ソフトバンク・ビジョン・ファンドが、米建設テック企業のTATERRA(カテラ)に出資。
2018-02 WeWork Japanが、アークヒルズに第1号オフィスを開設。
2018-07 ソフトバンクが、ワークスタイルの変革を目的に、1000人規模でWeWork「日比谷パークフロント」拠点の利用開始。
2018-07 オカムラ、ソフトバンク、ダイキン工業、東京海上日動火災保険、三井物産、ライオンが、ダイキン工業の協創プラットフォーム「CRESNECT」の第一弾プロジェクトとして「未来のオフィス空間」づくりの取り組みで合意。
2018-09 ソフトバンク・ビジョン・ファンドが、米不動産テック企業のOpendoor(オープンドア)に4億ドルを出資。2013年に創業したオープンドアは、オンライン買取再販のプラットフォームを提供して急成長しているiBuyerと呼ばれる企業。
2018-10 ソフトバンクC&Sが、中国Tuya Global Inc.とパートナー契約を締結。家電製品をIoT化するソリューション「Tuya Smart」の国内提供を開始。
<2019年>
2019-01 ソフトバンクG、業務執行体制強化のため、リアルアセット投資部を新設―不動産やインフラなどへの投資対象を拡大、ゴールドマン・サックス出身の佐護勝紀副社長が管轄するリアルアセット投資部の責任者には同じくゴールドマン・サックス証券出身の木本啓紀氏(41)が就任。
2019-01 米WeWorkが、ソフトバンクGが追加で20億ドル(約2170億円)を出資すると発表。社名もThe We Companyに変更し、コワーキングのWeWork、賃貸住宅のWeLive、学校運営のWeGrowの3事業を展開していく。
2019-01 ソフトバンクが「竹芝地区開発計画」のスマートビルに本社移転を発表。オフィスフロアはWeWorkがデザイン―ビル竣工は2020年5月の予定で、20年度中に本社を移転する計画。ソフトバンクはスマートビル構築や新しいワークスタイルの提案を進めるほか、東急不動産もスマートビルを他の物件に展開。
2019-02 ヤフーが、インドのホテル運営会社OYO(オヨ)Hotels&Homesと合弁会社を設立し、日本の賃貸住宅事業に参入。3月上旬からアパートメント(賃貸)サービス「OYO LIFE」を開始。運営会社はOYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN、CEOは勝瀬博則氏。
2019-04 ソフトバンクが、OYO Hotels&Homesと合弁会社「OYO Hotels Japan合同会社」を設立し、ホテル事業を開始。
2019-05 ソフトバンクが、ヤフーの第三者割当増資を引き受けて連結子会社化を決定―新株発行を4565億円で取得し、持ち株比率は44.64%となり、役員派遣も行うことで連結子会社化。ソフトバンクの売上高は2019年3月期で3兆7463億円だが、ヤフーを連結することで2020年3月期は4兆8000億円となる見込み。
2019-05 ソニー不動産が、6月1日付けで「SREホールディングス」に社名変更すると発表。
2019-07 東急不動産とソフトバンクは、竹芝地区(東京都港区)において都市再生への貢献や産業振興の加速などに向けて、共同で街づくりに取り組むことに合意。最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティの共創を目指す。
2019-07 ソフトバンクGは、私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」の設立を公表。ソフトバンクGの出資額は380億米ドル(4.1兆円)となる予定で、米アップル、米マイクロソフト、みずほ銀行、三井住友銀行などの出資を加えると総額は1080億米ドル(11.7兆円)となる見通し。

2019-09 レオパレス21の創業者が設立した賃貸住宅開発会社のMDIは、ソフトバンクグループとOYO Hotels&Homesと出資する合弁会社を通じて資本提携した。

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