【コラム】国交省人事、サプライズは技監と住宅局長?!(2018-7-30)

180217週刊東洋経済S.jpg180623週刊東洋経済S.jpg 国土交通省の7月31日付け定例人事で最も驚いたのが、菊地身智雄港湾局長の「技監」就任だ。旧運輸省出身の技術官僚が、事務次官級ポストである技監に就任するのは初めて。同時に、技監の森昌文氏が事務次官に就任することも決まったが、霞ヶ関の中央官庁の中で唯一、技官が事務次官に就任できるのが国交省だ。今回の人事で旧運輸省系技官にも事務次官への道が開けたと言えるのだろうか?今年に入って役所人事に関する記事に2度も関わったのでフォローしておく。

森技監の事務次官就任は順当?

 個人的には役所人事にそれほど興味があるわけではないのだが、ベテランになってくると、その手の原稿を依頼されることが増えてくる。今年2月13日発売の週刊東洋経済のゼネコン特集では、リニア談合疑惑に関連して建設業界人脈を解説する記事を書いてほしいとの依頼があって、建築と土木に分けて役所を含めた業界人脈図を2ページにまとめた。

 この記事では、スペースの関係もあって現役官僚は国交省初の女性局長となった伊藤明子住宅局長だけを取り上げた。掲載後、あるパーティで伊藤さんに会うと「記事は面白かったけど、なぜ森技監の名前を入れなかったのよ」との苦言があった。

 6月18日発売の週刊東洋経済の特集「官僚の掟」でも、国交省人事について取材協力した。「次の事務次官は誰か?」と聞かれたので「順当であれば技監の森さんだが、過去にはひっくり返った人事もあるから…」と言って、今年4月に京都府知事に当選した西脇隆俊氏のケースを紹介した。

 2016年の定例人事では、順当なら旧建設省系事務官僚の西脇氏が国交省事務次官に就任すると言われていたが、正式決定前に朝日新聞が次官昇格を報道。これによって国交省事務次官には旧運輸省系の武藤浩氏が就任し、西脇氏は復興庁事務次官へと、人事がひっくり返ったと言われる。

 内閣人事局の発足後、記者もうかつに役所のトップ人事を記事に書きにくくなった。2月の週刊東洋経済の人脈図で森さんの名前を外したのも、森さんにはまだ先があり、次期事務次官の最有力候補だったからだ。あまり余計なことを書いて迷惑をかけるのも本意ではないので、一応、外しておいた。

住宅局長の伊藤氏が内閣官房内閣審議官に

 「じゃあ、伊藤さんの名前を人脈図に入れたのは、先がないと言うことか」と突っ込まれそうだが、確かに「先はない」と思っていた。6月の週刊東洋経済でも、今や首相補佐官にまで昇りつめた元住宅局長の和泉洋人氏を除けば、建築系技官の最終ポストは住宅局長か官庁営繕部長止まりと解説した。和泉さんは東京大学都市工卒で、伊藤さんは京都大学建築卒の技官だ。

 住宅局長を終えた後の技官は、一般財団法人の日本建築センターかベターリビングのどちらかに天下るのが通常のコース。ただ、伊藤さんは55歳で住宅局長に就任していたので、局長を2年間務めたとしてもまだ若い。ひょっとすると先に別のルートがあるのではないかとも考えていた。

 6月20日に開催された住宅生産団体連合会の定期総会後のパーティで、伊藤さんに会ったので、こんな質問をしてみた。「伊藤さん、もう住宅局長を卒業して今度の人事で内閣あたりに出るんじゃないの?」と。その時のやり取りは書かないが、かなり強い口調で否定していたので驚いた。

 「あれ、ヤマ勘が当たったのかなあ」と思いつつ蓋を開けてみると、伊藤さんは住宅局長を1年で退任して、7月27日付けで内閣官房の内閣審議官に就任した。和泉首相補佐官が伊藤さんを内閣官房に引っ張ったんだろうが、建築系技官としては異例の出世である。

建設系と運輸系で技官人事の統合は進むのか

 6月の週刊東洋経済の記事では「技官で事務次官になれるのは、旧建設省出身に限られる」とも解説した。旧運輸省でもキャリアの技官を多く採用してきたが、技官の最終ポストは「港湾局長」か「技術総括審議官」。これまでは事務次官に昇進するルートがなかったからだ。

 2001年の中央省庁再編で、国土交通省が誕生した後も、大臣官房内には旧建設省系の「技術審議官」と旧運輸省系の「総括技術審議官」の2つのポストが残り、事務次官級の「技監」には旧建設省系技官しか就任していなかった。

 2月の週刊東洋経済の人脈図にも、土木分野には旧建設省系技官の名前ばかりを並べて、旧運輸省系の名前は入れなかった。運輸省系技官からも土木学会の会長は出しているが、過去に事務次官を輩出していないし、旧運輸省系技官から国会議員を組織的に出しているという話も聞いたこともないからだ。

 ちなみに旧建設省系技官からは、道路局と河川局(現・水管理・国土保全局)から各1人の参議院議員を送り出してきた。現在、道路系は元事務次官・技監の佐藤信秋議員、河川系は元技監の足立敏之議員。2019年の参議院選挙では、70歳を超えた佐藤信秋氏が自民党公認で3期目に挑戦することが決まっている。

 今回、旧運輸省系の菊地さんの技監就任は、これまでバラバラだった技官の人事がようやく統合されてきたことを意味するのか。国交省が発足して18年目となり、いつまでも旧建設省と旧運輸省で分かれているのも問題ではある。森、菊地のコンビで技官の融合が進むことで、国土の一体的管理も進めやすくなるかもしれない。

 先日、羽田空港跡地再開発事業を取材したときも、旧建設省系事務官から「あそこは航空局の土地だから、詳しいことはそちらで聞いて」と言われた。過去にも「あそこは港湾局の土地だから」とか、「そこは農水の土地だから」とか言われて、たらい回しになった経験がある。細かく国土を線引きばかりしても、総合的な防災対策や戦略的な国土開発はやりにくいだろう。

 今回の人事で何かが変わるのか。何も変わらないのか。最近は、首相補佐官の和泉さんばかりが目立っている印象があったが、2人の技官トップの活躍に期待したいところだ。