【建設】リニア工事の談合疑惑で問われるJR東海の発注能力(2018-01-05)

 JR東海が発注するリニア中央新幹線の建設工事の入札で、大林組、大成建設などゼネコン大手4社が受注調整などの談合を行ったとして東京地検特捜部の捜査が進んでいる。違法行為があったのかどうかは今後の捜査状況を見るしかないが、果たしてゼネコンだけが悪者なのか。巨額の工事費をエサに価格競争を強要するような発注方法がもはや時代遅れではないのか。

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競争原理を働かせつつ、コストダウンを図る?

 リニア工事の談合疑惑をめぐる捜査が始まったのは約1か月前の12月8日。新聞報道によれば、大林組、大成建設、鹿島、清水建設のゼネコン大手4社に家宅捜索が入り、4社で事前に受注調整などの協議を行った証拠も出ているようだ。

 当初は、地検特捜部が乗り出したからには、談合疑惑から政治家を巻き込んだ贈収賄事件まで広がると予想する人も多かっただろう。しかし、その後も大手ゼネコン4社による談合疑惑の域をなかなか出ない。このまま尻つぼみで終わる可能性もありそうだが、現時点で昨年暮れまでの動きをまとめておく。

 リニア中央新幹線は、東京・品川―大阪間を約1時間で結ぶ総工費約9兆円のビックプロジェクト。2027年までに品川―名古屋間、45年までに品川―大阪間を開業する計画で、JR東海では15年3月から入札参加ゼネコンの公募を開始し、これまでに工区を分けて22件の工事契約を結んでいる。

 工事入札には、幅広く競争参加者を公募する「公募競争見積方式」や、競争参加者を発注者側が指名する「指名競争見積方式」などが採用された。競争参加者は価格を含めた提案書を提出し、総合評価で順位が付けられ、発注者が協議を行って契約者を決定する。

 JR東海では工事契約手続きについて「公正であることはもちろんのこと、安全を確保した上で、競争原理を働かせつつ、工事費全般のコストダウンを図るよう、努めてきたところ」とのコメントを12月25日に公表。発注業務が適正に行われていたことを強調したが、発注者側に何ら問題はなかったのか。

受注調整の目的が何であれ、談合は談合?

 「リニア新幹線の工事はリスクが大きいので、無理に取りにいくつもりはない」―工事発注が始まる前に、大手ゼネコンからはそんな慎重な声が聞かれていた。

 工事の大半を占める地下トンネルは、事前に綿密な調査を行っても、実際に掘ってみなければ地質や地下水の状態が分からないことが多い。想定外の問題が発生すれば、予算オーバーのリスクが少なくないからだ。

 建設工事の一括請負契約は片務性が高く、予算オーバーのリスクは原則として請負業者であるゼネコンが負担することになる。かつては赤字工事を他で穴埋めしてでも受注量の確保を優先していた時期もあったが、今では工事ごとの利益確保がかなり徹底されている。

 「もともとJR系の工事は利幅は薄いうえに、JRの天下り先である系列ゼネコンとジョイントベンチャー(共同企業体)を組まされるので、おいしい工事ではない」(業界関係者)

 JR東海は民間企業なので、予算が合わなければ入札を断れば良いだけではあるが、リニア中央新幹線の建設は国も3兆円の低利融資を投入する事実上の国家プロジェクト。大手ゼネコンも立場上、入札を辞退するわけにいかない。そこで大手ゼネコンによる受注調整が行われたとしても、その目的が不当な利益を得るためなのか、厳しい値下げ圧力に対抗するためなのかは判断は難しい。

 しかし、今回、捜査が入ったことで、その目的が何であれであれ、事前に受注調整が行われれば「談合」と認定される可能性があるというわけだ。

供給過剰が解消されても競争原理は働くのか

 そもそも入札制度は、一定数以上の競争参加者を確保できることが前提になっている仕組みである。需要に対して供給過剰状態にあれば、適切に機能することが期待できるが、需要と供給が逆転すれば競争原理が働きにくくなる。

 かつて筆者もゼネコンの談合を厳しく批判してきたが、建設業界が供給過剰構造を是正することなく、談合による高値受注で生き残りを図ろうとしてきたからだ。しかし、2005年暮れの脱談合宣言から08年のリーマンショックを経てゼネコンの再編淘汰が進み、供給過剰構造は改善が進んできた。

 2011年の東日本大震災では、復旧・復興工事による急激な需要増加で、建設業界の施工能力不足が表面化。この時点で国内建設市場の需給アンバランスがかなり解消されたと見てよいだろう。その後、建設技能労働者などの人手不足問題などを理由に、建設業界では以前のような激しい価格競争はすっかり影を潜めている。

 大手ゼネコンの国内土木事業の完成工事高(売上高)は、17年3月期単体決算で鹿島と大成建設が約3000億円、大林組と清水建設が約2600億円。過去10年間をみても、大成建設と大林組が談合問題の影響などで2000億円を割り込んだ時期もあったが、ほぼ安定して推移している。

 準大手クラスを見ても、海洋土木の五洋建設が約1400億円、前田建設工業と安藤ハザマが約1300億円、戸田建設、西松建設、熊谷組、三井住友建設の4社が約1000億円で横並びという状況だ。

 公共工事主体の国内土木市場の先行きを考えれば、リニアのようなビックプロジェクトがいくつも出てこない限り、ゼネコンが施工能力の強化に動くとは考えにくい。発注者にとっては競争原理を働かせにくい環境になっているのだ。

競争原理を働かせる発注方法をどう工夫するか

 では、発注者は、ゼネコンの言い値で建設工事を発注するしかないのか―。

 建設工事の発注方法は、競争入札だけに限られているわけではない。発注者側が競争原理が働くように工夫することを考えれば良い。それが「発注責任を果たす」という意味だろう。

 JR東海では、談合疑惑の報道を受けて「今後の工事契約手続きの際には、独占禁止法等に違反しないよう競争参加者に誓約書の提出を義務付ける」措置を取ることを表明した。ことわざに「馬を水辺に連れて行くことはできても水を飲ませることはできない」というのがあるが、それで競争参加者が本気で価格競争を始めるだろうか。

 発注者として考えるべきことは、まず競争原理が働くように競争参加者を選ぶことだ。大手4社や準大手だけでダメなら、欧米や中国、韓国などの海外ゼネコンを加えるのが最も有効な方法だろう。これまで国内の発注者は、海外ゼネコンを活用する努力を怠ってきたので、日本のゼネコンによる受注調整を簡単に許すという事態を生んでいるのだ。

 すぐに海外ゼネコンの起用が難しければ、国交省が東日本大震災の復興工事で本格的に導入したオープンブック(価格開示)方式を採用するという方法がある。発注者は工事費を適切に管理できるコンストラクション・マネージメント(CM=施工管理)会社を入れて、実際にかかった工事費をチェックしながら、施工方法の変更や無駄な費用の削減などでコスト削減を図っていく。

 CM会社の起用は、海外では一般的な方法だが、日本ではほとんど活用されてこなかった。しかし、最近では民間建築工事でも、株主への説明責任を果たすために、ゼネコンに設計・施工を一括発注する場合はCM会社を入れてコスト管理させるのが当たり前になりつつある。

 さらに土木分野でも、3D(三次元)設計技術のCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の導入が進みつつある。設計の3D化によってコンピューター上で施工シミュレーションが可能になり、将来的には設計や工程の変更に伴う工事費の増減も簡単に試算できるようになるだろう。それを実現するには、発注者が見積価格を比較しやすいように積算方式の標準化などをゼネコンに働きかけていくことも重要になる。

27年の開業に向けて談合疑惑はどう影響するのか

 すでにゼネコンの供給過剰構造が解消されつつある市場環境において、JR東海は競争入札によって「競争原理を働かせつつ、コストダウンが図れる」と考えていたのだろうか。もし、そう考えていたのだとしたら、JR東海の「発注能力」を疑わざるを得ない。

 また、入札制度の大前提は、入札への参加と受注の自由が完全に担保されていることだ。現状ではリニア工事は、2027年の開業の向けて大手4社で受注せざるを得ない状況にあるのは間違いない。事前に受注調整が行われたとしても、それだけで談合と認定するのはそもそも無理があるのではないか。

 もし談合が認定されれば、今後のリニア工事にも影響を及ぼす可能性があるし、大規模災害の復旧・復興など業界全体で取り組まなければならない工事でも慎重な対応が求められるだろう。

 建設市場の環境変化に応じて、いかに建設工事の発注で競争原理を働かせつつ、コストダウンを図っていくのか―。まさに発注者側の「発注能力」が問われているのである。