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 東京都は東京オリンピック開催による「見本市中止問題」を解決するつもりがないのだろうか――。今年4月に月刊誌FACTAに「『東京ビックサイト』五輪転用で展示会が悲鳴」と題した記事を執筆した。それから半年が経過したが、有効な対策は打ち出されていない。日本展示会協会(会長・石積忠夫氏)では、見本市中止によって2兆円の売り上げが失われるとの新たな試算を公表し、日本経済新聞に9月26日付けで意見広告を掲載した。東京ビックサイトの使用制限が始まる2019年4月まで残された時間はわずか1年半だ。

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幻となった羽田空港跡地の展示場建設計画

 筆者は展示会業界とあまり付き合いがなかったのだが、2017年1月26日に開かれた日本展示会協会など関連3団体の記者会見の案内がPR会社を通じて私にも届いたので出席した。なぜ、展示会問題が切迫した状況になっているのか、その理由を知りたかったからだ。

 2013年9月に東京オリンピック2020の招致が決まったあと、東京の都市再開発問題への注目が高まると予想して、古巣のフジサンケイビジネスアイ(旧・日本工業新聞)で「東京2020−国際都市への挑戦」と題する連載を2か月後の11月からスタートした。

 東京オリンピックの招致が決まる前に、東京で進行中の主な再開発プロジェクトの一覧表(67件、開発面積約240ヘクタール)を独自にまとめていたのだ。フジサンケイビジネスアイから相談を受けたときに、その資料を見せたら連載開始がすぐに決定。15年7月まで不定期にタブロイド紙1〜2ページ分の記事を21回執筆した。

 この連載で、14年8月に羽田空港周辺を取り上げたとき、羽田空港跡地約20ヘクタールの開発計画も取材した。開発面積では都内でも最大規模となる再開発であり、ここに新たに展示場を建設するという構想があった。まだ具体的な計画が決まっていなかったので、記事には書かなかったが、東京オリンピック開催中は東京ビックサイトがメディアセンターとして使用できなくなるので、羽田空港跡地の展示場構想は実現するだろうと考えていた。

 だから日本展示会協会の記者会見の案内が来た時に「あれ、羽田空港跡地の開発はどうなったのかな?」との疑問が湧いたのだ。ネットで調べると、いつの間にか羽田空港跡地から展示場計画が消えていた。

展示会問題には冷淡なメディアの対応

 日本展示会協会の記者会見の様子は、同協会のホームページで詳しく紹介している。http://www.nittenkyo.ne.jp/article/15593621.html

 かなり力の入った記者会見で、出席者の数も多かった。

 記者会見に出席して分かったことがいくつかあった。

 第一に、記者会見が盛況だったわりには、この問題を直後に大きく取り上げたメディアがほとんど見当たらなかったことだ。

 問題の発端が、東京ビックサイトをメディアセンターとして使用されることであり、ある意味、メディア自身が“加害者”なので、この問題には「冷たい」のだろう。

 東京ビックサイトを展示会業界から無理やり奪うのではなく、東京五輪で美味しい商売をするメディア業界がメディアセンターぐらい自前で用意するのが当たり前のはず。そこを突っ込まれると困るから、この問題にメディアは触れたがらないのではないか。

 第二に、見本市中止によって発生する経済損失などの影響を、東京都がきちんと試算した形跡がなかったことだ。

 会見後に、東京都にも確認したが、回答がなかった。もし事前に経済損失を試算したうえで、十分な対策が講じられずに損失が発生した場合、東京都は損害賠償を求められると考えたのだろう。ある程度の規模の代替施設を用意して「東京五輪を成功させるためだ。まあ、何とかこれで我慢してくれ」と言えば、展示会業界が納得してくれると思っていたとしたら見通しが甘かった。

 第三に、羽田空港跡地の展示場建設計画がかなり早い段階で潰されていたことだ。

 会見後のぶら下がりで質問すると、日本展示会協会としても大田区からヒアリングを受けて羽田空港跡地での計画にはかなり期待していた。しかし「もともと展示会場として確保できるスペースが限られていた」(大田区)こともあって、計画を断念。東京都も、東京五輪後の展示場需要を考慮して、東京ビックサイト以外に新たな展示場を建設することには消極的だったようだ。

経済損失による損害賠償請求の可能性は?

 半年前の記事には、移転計画がとん挫していた豊洲新市場をメディアセンターとして活用するアイデアを書いた。あれだけ問題だと言っていた豊洲新市場への移転があっさり決まってしまったのでアイデアはボツとなったが、抜本的な解決策がないわけではない。

 9月26日に掲載した日本展示会協会の意見広告では、ビックサイトと同規模の仮設会場を建設する方法と、放送施設をビックサイト以外に建設する方法を示し、いずれも工期1年での建設が可能としている。あと半年以内に場所さえ確保できれば、ギリギリ間に合うというのだ。

 日本展示会協会では、見本市中止による経済損失の試算も改めて行った。1月の記者会見では経済損失は1兆2000億円としていたが、今回の試算では20か月間で232本相当の見本市が中止に追い込まれ、中小企業を中心に7万8000社の出展社が2兆円の売り上げを失うとの結果に。今後、抜本的な解決策が講じられず、試算通りの経済損失が発生すれば、「損害賠償を請求するのは当然の権利」との指摘もある。

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