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 今年に入って月刊誌FACTAで執筆した記事の第一弾が「東芝製エレベータ―『保守管理』の怪」だ。企画内容はFACTA編集部からの持ち込み。「この題材をどう料理したらよいか?」と悩んでいると、国土交通省がエレベーターの保守管理契約のトラブル防止のために16年2月に作成した「標準契約書」の存在が、マンション管理組合に周知されていないことが判った。管理組合の無知に付け込んで、高額な維持管理費を負担させられている実態にスポットを当てた。

15年前に書いたエレベーター保守管理問題

 FACTA編集部から執筆依頼があったのは2016年11月頃。「エレベーターの保守点検問題に興味がありますか?」と聞くので、「興味はあるが、しばらく追っかけていないよ」と答えた。

 実は日本工業新聞を退社した翌年に、夕刊フジでゼネコン問題の連載をしていたなかで、エレベーターの保守管理問題で下記のような記事を書いて掲載したことがあった。

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<公取委、三菱電機ビルテクノサービスに立ち入り検査(2001-05-07執筆)>

 「三菱電機ビルテクノサービスに公正取引委員会が立ち入り検査に入った件で、当社が何らかの関与しているのではないかとのウワサも聞きますが、非常に迷惑しています。三菱さんとは友好的な関係にあり、補修用部品も供給いただいています」−エレベーター保守・管理の独立系専業大手、SECエレベーターの●●専務は、こうきっぱりと言い切った。

 先月24日、三菱電機ビルテクノサービスに公取委が立ち入り検査に入った。競争関係にある他社との取引に応じないように顧客に働きかけたことや、独立系の保守・管理会社に対する補修部品の供給でも不公正な取引があったとの疑いが強まったため、とされている。

 日本のエレベーター市場は、三菱電機、日立製作所、東芝、日本オーチス・エレベータの大手四社が業務用の分野では高いシェアを獲得している。そのエレベーターの設置工事と保守管理サービスは、三菱ビルテクノサービスや日立ビルシステムなどの各子会社が直系の強みを生かして圧倒的な強さを発揮してきた。

 公取委に対して告発したのは誰か?その疑いを、SECエレベーターにかけられるのも、無理からぬ面はある。建設需要が低迷するなかで、ここ3―4年の間、同社はエレベーターの契約保守台数を年率20%増の勢いで、拡大しているのだ。

 同社は、菱電サービス(三菱電機ビルテクノサービスの前身)出身の鈴木孝夫社長が、30年以上前に設立した独立系保守・管理会社の草分け的な存在。現在では、独立系保守管理会社は450社以上に達していると言われるが、これまではメーカー直系子会社の厚い壁に阻まれて、独立系が大きく成長することは難しかった。

 「エレベーターの保守管理費は、高すぎるのではないか。他の建設関連費用が過去10年で値下がりしてきているのに、いまだに高値を維持している」(ゼネコン担当者)―以前から保守管理会社に対しては、そんな不満が多く聞かれていた。それでも「安全性が最も要求されるものだけに、メーカー直系の方が信頼感がある」(ビル管理会社)方が優先されてきたからだ。

 最近になって、不動産証券化で資産運用利回りに大きく影響するビル保守管理費への関心が高まり、風向きが変わってきた。エレベーター保守管理の過去の実績を見ながら、コスト比較をシビアに行うユーザーが増えてきたのだ。

 「メーカー系の保守管理費は、エレベーター一台当たり月額平均7万円程度ですが、当社は4万5000円で請け負っています。ユーザーさんの中には当社をダミーに使って、メーカー系の保守管理費を引き下げるところや、逆に当社が売り込みに行ったとたんに保守料を引き下げたメーカー系に不信感を持って当社に乗り換えるユーザーさんもいます」(SECエレベーター)。

 こうした傾向は、エレベーターに限ったことではない。マンション管理組合が、デベロッパー直系の管理会社から、独立系に乗り換えるケースなど、保守管理費を削減しようとする動きは急速に広がりつつあるのだ。

 ただ、エレベーターの保守管理会社にも同情すべき点はある。収益のもう一方の柱であるエレベーター設置工事の方は、ゼネコンからの厳しい値引き要求にさらされ続けている。「ゼネコンに定価の半値で見積書を作らされ、実際の納入金額はさらにその半値といったケースもあります」(メーカー系保守管理会社)。

 「エレベーターを大幅値引きしてゼネコンに納入して、保守管理で利益を上げる」―そんなビジネスモデルに、やはり無理があると言えそうだ。――(了)――

寡占化状態が続くエレベーターの保守管理市場

 この記事を書いた2年後の2003年10月に公正取引委員会が「マンションの管理・保守をめぐる競争の実態に関する調査について」との報告書を公表した。

 この中で、主要な設備機器(エレベーター、自動ドア、機械式駐車場、宅配ボックス、給水ポンプ)を対象に主要メーカーの設置シェアと、主要メーカー系(系列)保守業者のシェアの調査。エレベーターにおける系列保守業者のシェアは81.5%。他の設備の15〜60%を大きく上回り、系列業者の寡占化が続いていることが明らかになった。

 その直後、SECエレベーターから電話がかかってきた。

 「千葉さん、エレベーター保守管理問題をまた記事に書くんですか?」との問い合わせだった。

 「なぜ、そんなことを聞くの?SECエレベーターには関係ない話でしょ」

 「いやー、千葉さんが書くかどうか、気にしているところがあって…」というので納得した。

 系列保守業者が直接、私に問い合わせるとやぶ蛇になる可能性があるので、部品供給などで便宜を図っているSECエレベーターに言って探りを入れさせたのだろう。

 この時は記事は書かなかったが、それから10年以上が経過。相変わらず寡占状態が続くエレベーターの保守管理問題を再び取材することになったわけだ。

管理組合の奮闘ぶりを記事に

 都内の築11年のマンションで、エレベーターの保守点検業者を変更したとたんにエレベーターの主要部品を交換しなければならない問題が発覚した。その交換のために管理組合が高額な費用を要求されていた。

 エレベーターの法定耐用年数は17年、計画耐用年数は25年と定められている。オフィスビルなどに比べて利用頻度が少ないマンションでは30年ぐらいは持つ。

 分譲マンションでは、築後12―15年周期で大規模修繕工事が行われ、30年間の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を積み立てている。1回目の大規模修繕でエレベータの主要部品を交換する費用は見積もっていないはずで、管理組合にとっては想定外の出費だ。

 そこで管理組合が原因究明と問題解決に向けて乗り出し、東芝エレベーター、マンション管理会社の三井不動産レジデンシャルサービスと交渉。4基のエレベーターのうち1基の無償交換を認めさせるまでの奮闘ぶりを3ページの記事にまとめた。

エレベーター保守契約の見直しは進むのか

 私がとくに気になったのが契約問題だ。国交省の標準契約書は、エレベーターの所有者(管理組合)と保守業者との直接契約が基本となっているが、このマンションではマンション管理会社と保守業者との契約となっていた。

 管理組合が、管理会社にエレベーター保守契約書の開示を要求しても、当初は守秘義務があるので見せられないと拒否。終いには契約書そのものが存在しないとして、内容を明らかにしなかった。

 今回の問題発覚するキッカケとなった保守業者の変更でも、管理組合が直接契約を求めても保守業者のほとんどが尻込みしたという。その中で直接契約に応じたジャパンエレベーターサービス(JES)が点検業務を行うようになって、管理組合に直接、情報が入るようになったわけだ。

 日本不動産ジャーナリスト会議で私と同じ幹事の川上湛永氏(朝日新聞OB)は、全国マンション管理組合連合会の会長を務めている。川上さんにエレベーターの保守管理問題を聞くと、多くの管理組合からエレベーターの大規模修繕で相談が寄せられ、深刻な問題だという。そこで、1年前に国交省がエレベーター保守に関する標準契約書を作成したことを知っているかと聞くと「初耳だ」と言うので、驚いた。

 東芝エレベーターや三井不動産レジデンシャルサービスも、個別案件の取材には応じないだろうが、国交省の標準契約書に関する質問には答えざるを得ないだろうと質問状を送付。その読み通りに、当たり障りのない内容ではあったが、両社から回答があり、記事に反映した。

 記事が掲載された後、国交省から東芝エレベーターに指導が入ったとの情報が流れた。一応、国交省に確認してみたが、そうした事実はないとの回答だった。

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