日本マイクロソフト(社長・平野拓也氏)は、2011年からテレワーク勤務制度を導入し、これまでに1人当たりのオフィススペースを4割削減した。引き続き在席率などのデータに基づき効率的なオフィスの活用を進めていく。政府は2020年の東京オリンピック開幕式の開幕予定日である7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、テレワークの導入に向けた国民運動プロジェクトに着手したが、テレワークの本格普及が今後のオフィス市場にどのような影響を及ぼすかを注視する必要がありそうだ。

ロンドン五輪では市内企業の約8割がテレワークを導入

  安倍政権は、一億総活躍社会の実現に向けて2016年から「働き方改革」への取り組みに着手した。これを受けて、総務省、国土交通省、厚生労働省などの関係省庁でも、ICT(情報通信技術)を活用したテレワークの普及に力を入れ始め、昨年から11月を「テレワーク月間」として啓発活動を始めている。

  2012年に開催されたロンドン・オリンピックでは、開催期間中に交通混雑によってロンドン市内での通勤に支障が生じるとの予測から市内の企業の約8割がテレワークを導入した。その成功事例を参考に日本でも「2020年に向けたテレワーク国民運動プロジェクト」を実施し、今年から予行演習として多くの企業・団体の職員にテレワークを一斉に実施するよう呼びかけていく。

  ポイントは、今回の国民運動プロジェクトが一過性の取り組みで終わるのか、日本企業にテレワークが定着する契機になるかである。

 ビジネスのデジタル化でテレワーク環境の整備が進む

  最近では、日本企業でもパブリッククラウドを会社の基幹業務システムに利用することへの抵抗感が薄れ、テレワーク環境を整えやすくなっている。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によると、IoTやAIなどによる「ビジネスのデジタル化」に取り組んでいる企業の約2割はパブリッククラウド化を実施済み。部分的な実施や取り組み中を含めると半数を超える結果となった。

  日本マイクロソフトによると、業務ソフト「オフィス365」とパブリッククラウドサービスを導入している企業は、三井住友銀行、あいおいニッセイ同和損保、エーザイ、大成建設、東京海上日動コミュニケーションズなど様々な業種に拡大。大手ゼネコンの大成建設では、昨年5月に「オフィス365」を導入し、半年後の社内アンケート調査では、現場とオフィスの移動時間などで平均月8時間削減するなどの成果を得ている。

  一方、日本企業では、上司が直接、社員の働き振りを見て業務成績を査定する人事評価制度が定着しており、テレワーク普及の障害とされてきた。日本マイクロソフトは、パソコンのログなどを分析し、AIによって業務改善を助言する「働き方の見える化」ツール「MyAnalytics」の提供を開始。「MyAnalytics」を使って人事、ファイナンスなど4部門41人を対象とした社内検証実験を実施したところ、無駄な会議時間の27%削減、集中して作業する時間の50%増加などの成果を得た。

  日本マイクロソフトのワークスタイル改革は、在宅勤務制度からスタートし、出張先でのモバイルワークやサテライトオフィス勤務へと拡大。導入前の2010年と2015年を比較して事業生産性が26%向上する一方、女性離職率は40%低下。都内に分散していたオフィスも品川本社に集約し、社員1人当たりのオフィススペースは4割縮小した。今後、企業のテレワーク導入によって、オフィススペースの縮小が進む可能性を示した事例と言えるだろう。

 2020年に向けて東京ではオフィスビル新築ラッシュが続くが…

  東京のオフィスビルは、2020年に向けて新築ラッシュが続いている。森ビルが東京23区で事務所延床面積1万?以上のオフィスビル(自社ビルを含む)を対象に行っている大規模オフィスビル市場動向調査によると、18―20年の3年間の新規供給量は、過去約30年間の年平均供給量103万平方メートルを約3割上回る年133万平方メートルとなる見通しだ。建設業界の人手不足問題もあってオフィスビルの竣工時期が遅れる傾向が出ており、2020年には163万平方メートルの大量供給が見込まれている。

  調査対象オフィスの空室率は2016年末で3.2%と、前年に比べて0.7ポイント改善した。17年も供給量が73万平方メートルと例年に比べて少ないため、空室率は5年連続の改善となり、大量供給が始まる18年も、企業のオフィスニーズは堅調なことから小幅悪化に止まると予想している。

  日本企業のワークスタイル改革はまだ緒に就いたばかりで、今後テレワークの普及がどう進むのかも現時点で予測は難しい。森ビルの発表でも、テレワークを始めワークスタイル改革の影響について全く言及がなかった。しかし、ここに来て不動産業界でもサテライトオフィスやシェアオフィスを整備する動きも出始めており、「テレワークの普及が進めば、オフィス需要が縮小する可能性は高いだろう」(大手不動産若手幹部)との指摘も聞く。2020年に向けてオフィス市場の構造変革が始まる可能性もありそうだ。

(了)

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