東急不動産ホールディングス(社長・大隈郁仁氏)が、国連が提唱する「グローバル・コンパクト」に参加した(1月17日付け発表)。グローバル・コンパクトがめざす「人権・労働・環境・腐敗防止に関する10原則」を民間企業として国連にコミットしたことは重要な決断であり、同社のCSR(企業の社会的責任)に対する積極姿勢を示した。日本ではこれまでにグローバル・コンパクトに239の企業・団体が参加しているが、不動産業ではダイビルに次いで東急不動産HDが2社目となる。
不動産・建設系企業の参加は10社以下
グローバル・コンパクトは、1999年に当時のコフィ―・アナン国連事務総長が提唱し、2000年7月に正式発足した。企業は責任ある創造的なリーダーシップを発揮することで、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みに参加する自発的な取り組みである。世界では1万4000を超える企業・団体が参加している。
日本でも2003年12月にローカルネットワークとして「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)」が発足。これまでの参加企業・団体は製造業が中心で、不動産業は不動産投資会社を加えても3社のみ。建設業は、清水建設、大林組、住友林業など6社、製造業の中に旭化成、積水化学工業、LIXILグループ、TOTOなど住宅系企業の名前もあるが、不動産・建設関連の企業の参加は少なかった。
人権・労働・環境・腐敗防止の10原則とは?
グローバル・コンパクトは、あくまでも自主的な活動であり、原則に反した行為によって罰則があるわけではない。しかし、企業が組織決定し、トップが国連に対して署名したという事実は重い。その原則とは下記の通りだ。
【人権】
原則1:企業は、国際的に宣言されている人権の保護を支持、尊重し、
原則2:自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである。
【労働基準】
原則3:企業は、結社の自由と団体交渉の実効的な承認を支持し、
原則4:あらゆる形態の強制労働の撤廃を支持し、
原則5:児童労働の実効的な廃止を支持し、
原則6:雇用と職業における差別の撤廃を支持すべきである。
【環境】
原則7:企業は環境上の課題に対する予防原則的アプローチを支持し、
原則8:環境に関するより大きな責任を率先して引き受け、
原則9:環境に優しい技術の開発と普及を奨励すべきである。
【腐敗防止】
原則10:企業は、強要と贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗の防止に取り組むべきである。
CSRの取り組みが遅れている不動産業界
日本では2000年代に入ってCSR(企業の社会的責任)が注目されるようになり、2005年から日本経済団体連合会でもCSRへの取り組みをスタート。筆者も2008年頃に経団連の主要企業のCSR活動を取材したことがあるが、当時から不動産業界のCSRに対する意識はかなり低いという印象があった。
経団連が2010年に企業行動憲章を6年振りに改定したことで、ようやく不動産業界でもCSRへの取り組みが始まった。その中で、東急不動産HDはCSRに積極的な企業として評価されてきた。
2012年には、日本不動産ジャーナリスト会議主催の「第3回日本不動産ジャーナリスト会議賞」で、東急不動産は「CSR活動の一環として組織的に取り組んだ『大震災復興支援活動』」によってプロジェクト賞を受賞した。
同年9月には社会的責任投資(SRI)の株価指標として世界的に認知度の高い「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・アジア・パシフィック・インデックス(DJSI Asia Pacific)」の構成銘柄に初めて選定されており、その後も選ばれ続けている。
今回のグローバル・コンパクトへの参加も、CSRへの取り組みを継続的に進めていることを示したもので、同社ではCSRを重要な経営課題として位置付けていく考えだ。
ESG投資でも注目される社会的責任
国連では、グローバル・コンパクトを補完する投資イニシアチブとして2006年にPRI(投資責任原則)を提唱した。そこでは6つの原則を定めている。
原則1:私たちは投資分析と意思決定のプロセスにESG(環境・社会・ガバナンス)課題を組み込みます。
原則2:私たちは活動的な(株式の)所有者となり、(株式)所有方針と(株式)所有習慣にESG問題を組み入れます。
原則3:私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます。
原則4:私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
原則5:私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
原則6:私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
日本でも2015年9月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESG投資推進の一環としてPRIに署名したことで注目が高まり、16年7月には国内株式を対象としてESG投資指数の公募を行った。16年12月には日本政策投資銀行もPRIに署名している。
省エネ推進など社会的課題が山積する不動産業界
東急不動産HDは、グローバル・コンパクトに参加したのを機に今後はESG投資への取り組みも進めていくだろう。16年8月に東洋経済新報社が初のESG企業ランキングを作成して公表したが、上位100社の中に不動産会社は85位のヒューリックが含まれるだけ。このランキングには、清水建設17位、大林組21位、住友林業70位と、先にグローバル・コンパクトに参加した建設系企業は入っている。
今年4月からは環境問題への取り組みを強化するために「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」で、適合義務や届出等の規制的措置が施行される。16年5月のG7伊勢志摩サミットに合わせ、外国からの批判が大きかった不法伐採木材利用問題に対応するため議員立法化された「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」も今年5月から施行される。
日本ビルヂング協会連合会によると、建築物省エネ法で新たに導入された「省エネ性能表示制度」に対して不動産業界では後ろ向きなビルオーナーが多いと聞く。相変わらず他業界に比べてCSRやESG投資で存在感の薄い不動産業界の意識向上が進むのか。東急不動産HDがその牽引役になるかどうかを注目したい。(了)