不動産物件情報サイト「ホームズ」を運営するネクストの井上高志社長は1月30日に開いた記者レクの席で、国内にある住宅約6000万戸を100%カバーする住宅データベースの構築を目指す考えを示した。創業以来20年間で全体の4割を超える約2500万戸の住宅データを蓄積しており、政府が推進するオープンデータを活用しながらデータベース化を進めていく。今後はIoT(インターネット・オブ・シングス)を活用した住宅関連サービスのための情報基盤を構築・活用する動きが活発化しそうだ。

情報基盤が未整備だった住宅市場

 政府が目指している「データ主導社会の実現」は、IoTを使ってモノ・機械・ヒトからデータを集め、それらをAI(人工知能)などで分析し、結果に基づく利活用サービスを提供することで社会的課題の解決を図ろうという取り組みだ。

 民間企業でもIoT、ビッグデータ、AIによってオープンイノベーションを実現しようという動きが活発化しており、医療、農林水産業、金融、自動走行、観光など様々な分野で取り組みが進んでいる。

 住宅分野でも既存住宅流通市場の活性化や、空き家問題などの課題解決に向けてデータ活用を進めようという動きは出ているが、住宅市場の実態を正確に把握するための情報基盤が整備されていないという弱点を抱えている。

国交省の新設住宅着工統計では実態が分からない

 国土交通省が公表している新設住宅着工統計も、建築基準法に基づいて建築確認申請を受理した戸数をカウントしているだけで、申請せずに建てている住宅もかなりの数があると言われている。多くの地方自治体が定期的に航空写真を撮るのは確認申請せずに建てている建物を調べて固定資産税を徴収するのが目的だ。

 同様に、建物を取り壊した場合も届け出が義務付けられており、その数字をまとめて「滅失戸数」として統計発表しているが、この数字も実態を正しく表していない。解体工事業界に聞くと「実態は統計数字の2倍ぐらいは取り壊しているだろう」と推測する。住宅では、解体して更地にすると固定資産税が最大6倍に上がるので、解体だけして届け出していなケースがかなりあるとみられている。

 結局、日本に住宅が何戸あるのかは、国土交通省が所管する新設住宅着工統計や滅失統計では分からない。そこで総務省の調査統計局が5年ごとに「住宅・土地統計調査」を実施しているわけだ。

 最新の2013年調査で、総住宅数は約6063万戸。うち空き家が約820万戸で全体の13.5%を占めたと大きく報道されたが、この調査は国勢調査のようにすべての住戸を調査したものではない。サンプルを抽出して調べたデータから推計した数字で、空き家かどうかの判断も外から見ただけで実際に確認できていないという。

不動産登記簿があっても増える所有者不明土地

 日本では明治時代から不動産登記法に基づく「不動産登記簿」というデータベースが整備されてきた。すでにコンピューター化は完了しているが、すべての所有者が相続手続きなどで情報を正しく更新しているという保証はない。土地の公図もかなり不正確で、位置や境界線などを確定するための地籍調査の実施率は2016年3月末で51%。大都市などの人口集中地区(DID)では24%にとどまっている。

 2011年の東日本大震災後には所有者が不明な土地が多く存在したために、震災復興工事の障害になった。国交省では2016年3月に「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」を策定して対策を講じたばかり。同年8月に国土審議会土地政策分科会企画部会で提言「土地政策の新たな方向性2016」を取りまとめ、「空き家・空き地バンク」などの情報基盤の整備を打ち出したところだ。

 民法では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」(239条2項)と明記されている。しかし、国庫帰属となれば固定資産税を徴収できなくなるうえ管理責任も生じるので、相続放棄などで所有者不明となった土地を含めて地方自治体は手続きせずに放置しているのが実態とみられている。

住宅・不動産業界が抵抗してきた共通ID導入

 ICT(情報通信技術)を活用して不動産取引を効率化するには、住宅や土地にIDを付けて管理することが不可欠である。

 国交省でも2008年に外国の企業や投資家が日本の不動産に投資しやすい環境を整備しようと、不動産IDとEDI(電子商取引)標準規約を策定する検討を行ったが、不動産業界からの強い反対でとん挫。2009年にスタートした長期優良住宅制度でも、共通IDを導入して認定住宅の履歴情報を管理しようとしたが、住宅メーカーの反対で共通IDの適用は見送られた。

 日本では共通IDに対するアレルギーが強い。国民IDも国民総背番号、住民基本台帳番号と名称を変えながら、2016年1月に「マイナンバー」制度が本格導入されたばかり。今年7月に「マイナンバーポータル」が導入され、電子認証制度の運用が始まると、各種公共サービスのネット化が進み、これまで書面で行っていた不動産の売買契約手続きもネットで行える環境が整うことになる。

「物件情報の非対称性」の解消にDB化が重要

 「2017年は不動産テック元年」と題したネクストの記者レクで、井上社長はこれまで対面で行うことが義務付けられていた重要事項説明がネットでも行える規制緩和が今年4月から実施される見通しになったことに強い期待感を示した。

 今後は欧米に比べて遅れている不動産流通市場を活性化するため「物件資産価値の不適切な評価」「情報の非対称性」「IT化の遅れ」「国内外の不動産投資の活性化」の4つの課題を解決する必要があると力説する。

 とくに消費者が安心して不動産を購入できる環境を整えるためには、物件情報を集約・一元化して「見える化」することで、消費者と不動産業者との「情報の非対称性」を解消することが重要というわけだ。

 政府は、2016年6月に策定した日本再興戦略で「政府や地方自治体のオープンデータの推進」を打ち出し、各省庁でも保有するデータを民間に開放する取り組みが動き出している。国交省でも、不動産登記情報に基づく不動産取引情報のオープンデータ化を進めており、全国約2万6000か所で行っている公示地価調査のデータを数年かけてコンピューターのファイル形式であるCSVに変換し、オープンデータ化する予定だ。

 ネクストでは、住宅データベースの完成時期を現時点では未定としているが、今後のオープンデータ化の進展で完成時期も早まることが期待できる。

住宅版マイナンバーは誰が握るのか

 日本の住宅を100%カバーするデータベースは「住宅版マイナンバー」として様々な住宅関連サービスのプラットフォームとなる可能性がある。マイナンバーと同様に、不動産に関する統一的なデータベースは公的機関が整備する方が良いとの考えもあるかもしれない。

 政府の数多くの審議会の委員を務める大学教授によると、法務省は戸籍のデータベース化は進めているが、不動産登記は手付かずの状況。EDI標準を所管する経済産業省でも不動産IDを検討しているが、ほとんど動いていないという。

 国交省の幹部も「不動産登記は法務省の管轄なのでこちらかは口出しできない」としており、「オープンデータ化は政府の方針なので、民間で活用するのであれば積極的に支援していく」としている。

 筆者の個人的な見解としては、全ての住宅に設置される予定のスマートメーター(コンピューター付き電力計)を活用して住宅のデータベースを構築する方法もある。電力使用量から空き家かどうかを正確に把握できるし、住宅が除却されたかどうかも簡単に分かるだろう。グーグルマップを作成しているグーグルでも可能かもしれない。いずれにしても6000万戸を超える日本の住宅すべてを網羅する住宅データベースは、今後の住関連ビジネスの大きな武器になることは間違いない。(了)

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