広島土砂災害の発生から1か月が経過した。8月20日の未明に降った局地的な集中豪雨で大量の土石流が住宅地に押し寄せ、死者は74人となり、被害家屋も全壊133戸、半壊122戸、一部損壊174戸の計429戸に達した。1999年にも広島では31人が死亡した土砂災害が発生しており、それを機に土砂災害防止法が制定されたが、同法に基づく土砂災害警戒区域の指定が進んでいなかった。国土交通省では近く砂防ダムの設置など緊急事業に着手する。

 自然災害が多い日本で、先人たちは土砂災害、津波、液状化、洪水などの危険が出来るだけ少ない土地を選んで住宅を建ててきた。土木・建築技術の進歩で住宅の安全性は高まったとは言え、まずは安全な立地を選ぶのが基本である。ならば先祖代々、長く住み続けられてきた土地に住宅を建てるのが良いはずだが、住宅の建て替えは減少傾向にあるのが実情だ。

 国交省が毎年9月に公表する「住宅着工統計による再建築状況の概要」によると、2013年度の新設住宅着工戸数は前年度比10.6%増の約99万戸だったが、うち既存住宅を除却した後の敷地内で着工した再建築戸数は約10万戸で、再建築率は10.5%だった。

 再建築戸数には、オフィスビルや工場などの建築物を除却して建てられた住宅や、住宅の除却後にすぐに着工しない住宅は含まれない。しばらく空き地だった住宅地に建てるケースも想定されるが、住宅を除却して空き地で放置すると土地の固定資産税が3―6倍にアップするのでギリギリまで取り壊さない場合が多い。既存の住宅地での建て替えは非常に限られていると考えて良いだろう。

 問題は1990年のバブル崩壊後に地価が大幅に下落したにも関わらず、再建築率が下がり続けてきたことだ。90年当時でも22%を超えていたが、金融機関の不良債権処理が本格化した97〜2003年に大きく低下し、05年以降は11%前後で推移している。30%を超えていた持家の再建築率も直近では15%に落ちた。

 新設着工戸数は90年当時の6割程度に減少しているので、築年数の古い住宅から一定数を建て替えれば再建築率は上がっていくはず。住宅地の地価も大幅に下落し、空き家も増え続けているのに、なぜ再建築率が上昇に転じないのか。やはり大都市への人口集中や個人所得の下落が続くなかで、既存の住宅地より割安な新規の宅地に多くの住宅が建てられていると考えざるを得ない。

 今年5月に都市再生特別措置法が改正され、8月から新たに「立地適正化計画制度」がスタートした。適正な立地に住宅や病院、商業施設を誘導してコンパクトシティを実現することで、公共交通や道路などのインフラ投資を効率化するのが狙いだ。より安全な立地へ誘導を図れば、防災投資も効率化でき、住民は安心して暮らすことができる。既存の住宅地での建て替えは進んでいない現状を打破し、コンパクトシティを絵に描いた餅にしないためにも、思い切った誘導施策が必要だろう。

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