物事の始末を付けるのは何かと大変だ。最初はどうしても必要だからと始めるのだが、いざ不用になったときに始末に困るのは良くあること。地方の実家を出て大都市で生活基盤を築いた多くのシニア世代にとって「実家」をどう始末するかは悩ましい問題だろう。

 7月末に総務省が5年に一度実施している住宅・土地統計調査が発表され、国内の住宅総数に占める空き家の割合が2013年10月時点で過去最高の13.5%になった。前回調査では13.1%だったのであまり増えなかったとの声も聞くが、耐震強度データ偽造事件とリーマンショックの影響で新設住宅着工戸数が大幅に減少したのが原因で、地方を中心に空き家の増加傾向に変わりはない。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(12年1月公表)によると、年間死亡者数は11年の125万人から2030年には160万人と約3割も増加。その後20年間は年160万人台で推移する見通しだ。高齢者の持家率は8割を超えており、これらの持家に住まい手がいなくなれば、空き家問題がますます深刻化するのは避けられないだろう。

 空き家の始末が進まない理由として、建物を除却すると固定資産税の減額措置がなくなり、敷地面積200平方メートル以下で固定資産税が6倍にアップするため、空き家のまま放置している人が多いとの見方がある。しかし、人口減少が進むなかで余ほど立地が良くなければ、住宅地は値下がり傾向と見て良い。利用するつもりがないのなら、固定資産税をただ払い続けるよりも、売却や賃貸運用の方が得策のはず。国の住宅政策が新築優遇に偏って建て過ぎているとの指摘もあるが、新築の供給を絞れば空き家が減っていくとも考えにくい。

 「空き家率が2割を超えている京都市東山区で、実際に売家、貸家として市場に出てくるのは5%に過ぎない。空き家の増加はまさに高齢化が原因だ」と、京都市で空き家の実態調査を行ってきた京都女子大学の井上えり子准教授は指摘する。

 80歳を過ぎた親世代が自ら実家を始末する人はそう多くないだろうし、やろうと思っても手間が大変だ。実家を相続した子世代も遠く離れた実家に通って遺品を整理し、家だけでなくお墓や農地、山林を含めて始末を付けるのは一苦労である。

 「空き家が増え続けるのは、実家を処分したいと思っても、どこから、どう手を付けて良いのかが分からないからではないか」――今年4月に筆者が「実家のたたみ方」(翔泳社)と題した本を出版した理由もそこにある。8月中旬には筆者も参加して週刊東洋経済で「実家の片づけ」を特集したが、重版になるほど売れ行き。実家の始末に困っている人が多いのは間違いないないようだ。

 来年1月から相続税の基礎控除額が減額されるため相続税対策への関心が高まっている。しかし、課税対象となる相続は従来も4%程度で改正後も6%程度と見込まれる。むしろ課税対象とならない相続に限って事前準備が十分に行われず、相続でトラブルになって空き家が生じやすいと言われる。不動産・住宅業界では、大都市圏の資産家向けに節税効果の高い賃貸住宅や超高層マンションを売り込むのには熱心だが、実家の始末に困っている多くの人たちにも良い解決策を提供するべきではないだろうか。

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