政権交代前から自民党が取り組んできた国土強靭化を推進する「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が先の国会で成立し、政府は17日に「国土強靭化政策大綱」を決定した。来年5月に国土強靭化のための基本計画を策定し具体的な施策を展開することになったが、国土強靭化に対しては相変わらず「公共事業のバラマキ」との批判が根強い。

 最初に選挙対策向けに10年間で投資額200兆円という数字が独り歩きしたからだろう。国土強靭化という言葉も国土をコンクリートでガチガチに固めるイメージで、従来からの防災対策との違いが判りにくい。しかし、今年3月に内閣府に設置されたナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会では、「国土の強靭化」の基本的な考え方から大規模自然災害に対する脆弱性の評価まで従来とは一線を画した中身の濃い議論が展開された。

 「重要なポイントはインフラ間の相互依存性が高まったこと。これまでは分野ごとで防災対策を講じれば良かったが、これからは社会システム全体で対策を考えなければ強靭化の実現は難しい」―懇談会の委員を務めたNTTデータ取締役相談役の山下徹氏はそう語る。かつての黒電話時代は、通信会社が電力線も一緒に通信線に組み込んでいたので停電でも通話が可能だったが、電力会社に依存するようになって使えなくなった。そうした相互依存関係が様々な分野で複雑に絡み合って、一企業だけで事業継続性を確保するのが難しくなっている。

 「サプライチェーンがストップした時に代替品を確保する観点からは標準化が重要になる」―トヨタ自動車相談役・技監の佐々木眞一氏もそう指摘した。国土強靭化を実現するためには、公共事業などのハード対策だけでなく、情報共有化や相互連携などのソフト対策にもっと力を入れていく必要があるのは間違いない。

 政策大綱では、一部委員からの強い要望で「国土強靭化の推進を通じた国際貢献」という考え方を強く打ち出した。近年、日本企業が積極的に取り組んでいる発展途上国などへのインフラ輸出に、これまで蓄積してきた防災・減災などの技術を積極的に活用していくのが狙いだ。今後、一斉に老朽化するインフラを戦略的・効率的に維持管理する技術も、日本が世界をリードできる有望な分野になる可能性がある。

 日本のインフラ産業は国内市場ばかりに目を向けて、つい最近まで世界市場に打って出るという意識が希薄だった。インフラ整備は税金や補助金を使って行うもので、自ら稼いで自ら投資するという発想が育たなかったのも当然である。いくら日本の経済成長をインフラが支えていると言っても非収益事業はコストカットの対象になりやすい。

 しかし、日本で培った技術で世界でビジネスを展開し、そこで稼いだ資金で日本で戦略的なインフラ投資を行い、再び世界に日本モデルを売り込んでいく。そうした好循環が生まれれば、日本のインフラ産業が本当の意味で新たな成長産業に飛躍できるかもしれない。その時には、公共投資に対するバラマキ批判も自然と消えているかも。果たして、その日は訪れるだろうか。(2014-08-12転載)

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