福島第一原発事故の除染作業を行う作業員への適正な賃金支払いと健康管理を行うために開発された就労履歴管理システムが国の補助金打ち切りで、今年3月末でサービス停止に追い込まれた。昨年11月に作業員に危険手当などが適正に支払われていない問題が表面化、環境省が今年1月に対策を講じたはずだが、なぜシステムは止まってしまったのか。

 建設現場では下請け業者が重層化し、作業員に賃金がいくら支払われているのかを元請け会社でも把握できていないのが実態だ。2000年代に入って国内建設投資が急激に縮小するなかで、そのシワ寄せが労働者の賃金低下、年金や医療保険など法定3保険の未払いといった待遇悪化を招き、最近の深刻な職人不足問題の原因になったといわれる。その対策として東京大学大学院の野城智也教授らを中心に工事現場を渡り歩く建設技能労働者を一元的に管理する就労履歴管理システムの研究・開発が7年前から進めらていた。


 東日本大震災のあと、11年度補正予算で被災地域情報化推進事業に着手した総務省が野城教授の研究に注目、福島市がシステム導入に名乗りを上げたことから、学識者を中心に復興支援のために一般社団法人就労履歴登録機構を設立。昨年秋にようやく除染作業向けのシステムが完成し、雪解け後の今年春から本格運用が始まるはずだった。


 補助金打ち切りの理由を総務省は「もともとシステム開発への助成で単年度事業だった」、福島市は「周辺自治体との共同利用を見込んでいたが、他から利用したいとの声がなく、単独では負担が重かった」と説明する。しかし「いまだに中抜きが横行して末端にカネが届いていない。システム運用で作業員への賃金支払いの実態が透明化されると困るので何らかの配慮が働いたのだろう」(地元建設会社社長)との見方がもっぱらだ。


 建設コストの透明性確保のために欧米には「オープンブック方式」と呼ばれる契約があるが、日本ではゼネコンが導入に抵抗してきた。材料費や労務費などの原価(コスト)と報酬(フィー)を発注者に開示、第三者の監査法人にチェックされる仕組みで、元請けとしての裁量や旨みが得られないからだ。


 東日本大震災の復興事業で被災自治体の発注業務を支援するUR都市再生機構が昨年10月に宮城県女川町で初めてオーブンブック方式による工事契約を実施した。国土交通省でも、12月に「技能労働者の技能の『見える化』ワーキンググループ」(座長・野城教授)を設置し、職人不足対策の切り札として共通番号制度利用も視野に就労履歴管理システムの検討を進めている。民間でもマンション大規模修繕工事にオープンブック方式の普及を図る日本リノベーション・マネジメント(RM)協会が発足したばかり。「透明性が求められるマンション管理組合こそオープンブックを活用すべき」と岡廣樹RM協会会長は力説している。

(2014-05-08:未来計画新聞に再録)

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