【住宅】家づくりの経済学―(6)日本の住宅の平均寿命(2003-06-27)

 「木造在来住宅なら築20年で資産価格はゼロ」―最初からそう決まっていたら、どんな家づくりをしようと思うでしょうか?

 「おカネがかかっても、自分の理想の家をつくる」という方も多いとは思います。しかし、なかには「じゃ、そんなにおカネをかけるのはもったいない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 ほとんどの方は売るときのことを考えて家づくりをしているわけではないでしょうから「20年で資産価格ゼロ」と言われても、ピンと来ないと思います。ところが、この「20年」という数字は、日本の家づくりに大きな影響を及ぼしてきたのは間違いないのです。

「日本の住宅の平均寿命は欧米に比べて極端に短い」―そんな話を、聞いたことはありませんか?英国が75年、米国が44年に対して、日本はわずか26年。地球環境問題への関心が高まる中で、そんな無駄な家づくりを続けて良いのだろうか、との反省も聞かれるようになりました。

 平均寿命26年というと、1970年代半ばに建設された住宅はもうそろそろ取り壊される時期を迎える計算です。終戦直後から昭和初期に建てられた劣悪な住宅を建て替えるのなら判りますが、高度成長期を過ぎてから建てられた住宅を取り壊すのは何とももったいない話です。

 日本の住宅寿命が短いのは、日本の高温多湿の気候や地震などの自然災害が多いことが原因であることも確かです。さらに、もともと日本の住宅は燃えやすく、江戸時代には江戸の町では3年に1度は大火事があり、庶民の住宅は「消耗品」であって「資産」という意識が希薄だったとも考えられます。

 しかし、耐火性など住宅性能が格段に進歩した現在でも、そうした状況がなかなか改善されないのです。

中古ローンにも築年数制限があります

 はっきりしているのは、金融機関です。資産価値がゼロということは、担保価値がないということ。つい最近まで、平均寿命の26年を超える古い住宅には中古住宅ローンがほとんど適用されませんでした。住宅金融公庫ですら、98年秋まで、中古住宅ローンの対象は、築15年未満のいわゆる築浅物件に限っていたほどです。このところテレビコマーシャルを盛んに流して民間銀行が力を入れている住宅ローンの融資拡大でも、中古住宅は全く蚊帳の外です。

 住宅金融公庫ですらなかなか扱わなかった築15年を過ぎた中古住宅は「古家付きの住宅用土地」という扱いがされてきました。つまり更地の売買と同じだったわけで、「古家付き」のままなら解体費用分(100万円ぐらい)を割り引くことを求められるケースもあると聞きます。

 さすがに、国土交通省も、そうした状況を改善する必要があると判断し、住宅金融公庫でも耐震診断や劣化診断などを受けることを条件に中古住宅の築年数の条件を大幅に緩和しました。民間銀行の中にも築年数を緩和するところも出ていますが、固定資産税の評価額が最低まで下がる25年が限界のようです。つまり、日本の住宅の平均寿命は、資産価格がゼロになる時期とほぼ同じだったと言えるのです。

 実は、国土交通省では、住宅金融公庫の融資基準を見直すのとほぼ同時期に、前回のコラムで紹介した不動産流通近代化センターが策定してきた価格査定マニュアルの見直しも行いました。築20年で一律に資産価値をゼロとする査定方法は変更されたのですが、実際のところ「マニュアルの改訂版はほとんど使われておらず、従来どおりの査定が行われている」(国土交通省関係者)のが実態のようです。

住宅の資産価格に無頓着だった消費者

 不動産業者にしてみれば、サッサと売れる値段で査定し、仲介手数料を稼いだ方が良いのかもしれません。それに中古住宅の状態をキチンと検査できる建築のプロとしての能力もなければ、第三者に依頼して検査する手間も面倒。インターネットで受け付けている不動産業者の査定質問項目を見ても、住宅に関する部分は築年数と面積、間取りぐらいですから、相変わらず築年数だけで住宅の資産価格が決まっていると考えて良いでしょう。

 日本人は、確かに新物好きの面が強かったとも言えます。しかし、新築住宅に1日でも入居したら2000万円の住宅が8掛けの1600万円と査定されかねない状況は明らかに異常でしょう。デフレ経済が進行するなかで、こうした状況が改善されない限り、良い家をつくり、それを維持管理していくことがますます難しくなっていく心配があります。私たちも住宅の資産価格にあまりに無頓着だったと反省する必要があると思うのです。

【解説】日本経済新聞の2003年7月7日1面の連載企画「デフレが蝕む」で、「国土交通省によると、住宅の平均寿命(全住宅数を年間新築戸数で割った数字)は日本が30年。米国96年、フランス86年、英国141年に比べ極端に短い」という記述がありました。

 国土交通省の住宅局住宅政策課に確認したところ「計算のもとになった数字は国土交通省のデータかもしれないが、国土交通省では住宅の平均寿命を日経新聞のような計算式では算出していない」との回答。国土交通省が公表している平均寿命は、実際に廃棄された住宅の寿命を調査して推計値として算出しており、日本の住宅では日経新聞の計算数値との違いは大きく出ませんが、英国の場合で75年と141年と2倍の開きが生じたのはこのためです。通常、平均寿命という場合は、今回コラムで紹介した国土交通省が公表している数値を使うのが一般的のようです。

 ただ、平均寿命の調査は、頻繁に行っているわけではなく、日本の「26年」は93年調査と10年前のもの。98年調査では「31年(暫定値)」という結果が出ていますが、確定値となっていないため、今回は「26年」を使いました。いずれにしても英国に比べて半分以下と短いのは確かです。

(つづく)