【MKS】気象庁が「竜巻注意情報」の提供を開始―竜巻やダウンバーストの発生を予報(2008-03-26=フジサンケイビジネスアイ掲載)

 気象庁は2008年3月26日、竜巻やダウンバーストなど激しい突風から身の安全の確保に役立ててもらう目的で新しい気象情報「竜巻注意情報」の公表をスタートした。竜巻被害は、2006年9月に宮崎県延岡市で発生した列車脱線事故で3人、12月に北海道佐呂間町で建設現場を襲った事故で9人の死者が発生。今月も14日に静岡県袋井市で発生した突風で民家や店舗など計83棟に屋根瓦や窓ガラスが破損するなどの被害が出たばかり。竜巻注意情報を防災に役立てていくためにも、竜巻注意情報の基本的な仕組みを理解しておく必要がある。
■2012年5月6日に茨城県つくば市などで竜巻が発生し、大きな被害が出ました。被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げるとともに、竜巻対策の参考に、竜巻注意情報の記事をMKSアーカイブとして掲載します。詳しい対応策は、気象庁のリーフレット「竜巻から身を守る〜竜巻注意情報〜」をご覧ください。

 気象庁が竜巻注意情報の提供に向けてプロジェクトを立ち上げたのは2年前の06年4月ここと。きっかけは05年12月に山形県で突風が原因で発生し、5人が死亡したJR羽越線脱線事故だった。

 「以前から竜巻や突風などの短時間予測情報の検討は進められていたが、事故のあと私が所属していた降水短時間予測チームが中心となって実用化に向けたプロジェクトに着手した」

 特命を受けた気象庁予報部の海老原智予報官(当時)は、竜巻予報の先進国である米国など、これまでに蓄積されてきた予測手法の調査からスタート。日本の実情に適した予測手法の確立に取り組んできた。

 竜巻は、積雲や積乱雲によって発生する激しい渦巻きだ。現在の技術では竜巻そのものを観測するのは困難だが、竜巻の原因となる積乱雲内に発生する「メソサイクロン」と呼ばれる巨大な空気の渦は、最新鋭の気象ドップラーレーダーを使うことで技術的に可能となっている。気象庁でも全国20か所に設置している気象レーダーを数年前から順次、ドップラーレーダーに切り替える計画に着手していた。

メソサイクロンの検出だけでは予報は空振りに―突風危険指数と組み合わせ

 「ドップラーレーダーを使ったメソサイクロンの自動検出は、キレイな構造の渦ばかりではないので簡単ではない。以前から気象研究所で開発していた技術を導入し、さらに精度を高めて実用化のメドをつけた」

 しかし、メソサイクロンが観測されたら必ず竜巻が発生するわけではない。竜巻が多い米国でもメソサイクロンから竜巻が発生する割合は二割程度で、日本では統計データの整備もこれから。「メソサイクロンの自動検出だけで竜巻注意情報を出すと”空振り”が多くなってしまう」ことが懸念された。

 そこでドップラーレーダーを補完する予測手法を並行して開発することになり、新たに「突風危険指数」と名付けられた指標を導入することにした。竜巻を引き起こす活発な積乱雲の発生を予測するために、天気予報で実績のある数値予報の手法を使用。加えて、気象レーダーエコーを使って積乱雲の強さや高さを観測。両者を組み合わせることで予測精度を向上したのが突風危険指数だ。

 「06年9月に発生した延岡市の竜巻に突風危険指数を適用すると見事に一致した」

 プロジェクトチームが活動を始めた1年目に、大きな竜巻事故が2件も発生したことで、急きょ補正予算でドップラーレーダー7台の設置が決定。当初は2010年を予定していた情報提供が2年前倒しになり、急ピッチで体制整備が進められてきた。

竜巻注意情報をどのように活用すれば良いのか?

 気象庁が竜巻注意情報の提供に当たって最も力を入れているのが、竜巻注意情報に対する国民の理解を深めてもらい、情報を上手く活用するノウハウを提供するすることだ。

 竜巻はかなり狭い地域で短時間に発生する気象現象だけに、発生を予想するのが非常に難しい。竜巻の発生が多い米国でも、事前予測よりも、発生した巨大な竜巻を早期に発見して周辺地域に注意を喚起するのが中心。気象庁の竜巻注意情報も、的中率の数字だけに着目するとかなり低いだけに、一般的な天気予報と同じ感覚で情報が受け取られると、誤解を生じて有効に活用されない懸念がある。

 気象庁では、気象ドップラーレーダーが先行して設置されていた地域を対象に竜巻注意情報の的中率を検証した。結果は「10回の注意情報を出して1回当たるというぐらい確率で、そう簡単には当たらない」と、海老原智予報官も認めるほど。しかも「実際に発生する竜巻の7割は見逃してしまう」というのが実情だ。

 つまり竜巻が実際に100個発生した場合でも、70個は見逃してしまい、注意情報でカバーできるのは30個。その30個の竜巻も270回の空振りがあって的中するという精度だ。数字だけを見るとなぜ気象庁が注意情報を出すのかと疑問に感じざるを得ないが、海老原さんは「注意情報が出されたときは、普段のときに比べて格段に危険であるのは間違いない」と強調する。

竜巻注意情報の有効期間は1時間―身の安全を守る危険回避行動を!

 竜巻は、万一遭遇した場合には大きな被害をもたらす危険があるだけに、注意情報の的中率が低くても上手に活用することで十分にメリットがあるという判断だ。海老原さんにとっても、予報技術を開発する段階だけでなく、本格運用が始まったこれからが国民に定着させるまでに苦労が多いかもしれない。

 竜巻注意情報は、都道府県単位に発表され、有効期間も発表からわずか1時間という短時間予報である。1時間が経過したあとも危険が状態が続いている場合には再度、注意情報を発表する。少なくとも一時間は、いつ竜巻が発生してもおかしくない状況だと認識して警戒しながら行動することが重要となるわけだ。

 「竜巻注意情報が発表された時には、人が大勢集まる屋外行事や建設現場などでは、早めの避難を誘導するとか、一時、作業を中断するなど、普段に比べて一歩踏み込んだ危険回避行動を取ってほしい」と、海老原さんは呼びかける。

 従来の天気予報でも、半日前までには突風などの情報を発表していたが、今後は数値予報の手法を使って竜巻が発生する危険が高い場合には「竜巻など激しい突風のおそれ」があると発表。さらに数時間前に発表している雷注意報でも、竜巻の危険がある場合には今後は「竜巻」を明記され、直前の1時間前に竜巻注意情報と、段階的に情報が発表されるようになる。

 「今後も的中率が上がるように予測精度の向上に取り組んで行きたい」と海老原さん。情報を受け取る側も、これからは「竜巻」という言葉に十分に注意し、効果的に情報を利用する体制を整えていく必要があるだろう。