【不動産】オフィスビルの共用部電気料金の定額徴収は見直されるか?―横浜スマートシティプロジェクト実証実験で(2012-02-12)

 2012年秋から横浜みなとみらい地区で始まる国内初のオフィスビルを対象とした電力需要調整(デマンドレスポンス=DR)の実証実験で、オフィスビル賃貸の電気料金契約が問題となる可能性が出ている。現状では、テナント企業はビル全体の電気使用料の約4割を占める共用部分の電気料金を、共益費として定額徴収される契約が一般的で、テナントが節電努力してもメリットがなく、インセンティブが働かないからだ。中小オフィスビルではテナントの専有部分の電気料金を定額徴収しているケースも少なくない。果たしてインセンティブが働かない従来の賃貸契約で、国家プロジェクトを進めるのか。参加する三井不動産、三菱地所、丸紅の対応が注目される。

オフィスビルのCO2排出量削減が進まない本当の理由

 地球温暖化防止のためのCO2排出量削減問題では、住宅などの家庭部門と並んで、オフィスビルなどの業務部門のCO2排出量の増大が大きな課題となってきた。不動産業界では、業務部門のCO2増大はオフィスにおけるIT機器利用の増加などが原因であり、テナントに対してCO2削減の協力を求めるにも限界があると説明してきた。

 一方で、電気料金を共益費として定額で徴収する賃貸契約の慣行が、CO2削減にテナントが積極的に取り組まない大きな原因であるとも指摘されてきた。国土交通省が2009年11月に設置した「環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会」でも、電気料金に関する賃貸契約を問題視する発言が一部の委員から出された。当時、筆者も三井不動産の岩沙弘道会長などに直接、事実確認したが、「何らかの対応は必要と考えている」と述べ、今後の課題との認識を示していた。

 それから2年以上が経過したが、オフィスビルの電気料金契約見直しはほとんど進んでいない。昨年暮れに、この問題を再び記事で取り上げてた日経BPでも、共益費が「第二賃料」化してビルオーナーの既得権益となっており、賃料収入の減少につながる見直しに消極的と指摘。ビル業界団体の幹部からも「検討せざるを得ないとの認識はあるが、業界全体を説得するのは難しく、時間がかかる」との声を聞く。

昨年夏の節電対策でテナントに電気料金を還元した郵船不動産

 2011年11月に国交省が設置した「環境不動産懇談会」では、金融機関やファンドの関係者も参加し、ビルの環境性能などの情報開示によって不動産投資の活発化を図ろうと、今年4月の提言とりまとめをめざして議論を進めている。2月1日に開催された第3回懇談会では、ゲストスピーカーに日本郵船の子会社である郵船不動産が出席して、昨年夏の電力不足時への節電対策の取り組みを紹介した。

 郵船不動産では、昨年夏の緊急節電要請に対応するため、テナントの専有部分での電気使用料の見える化を実施するとともに、共用部で削減された電気料金を面積按分でテナントに還元する対策を実施した。インセンティブを付与することで、テナントの節電努力に報いたわけだ。この取り組みをサポートした外資系建設会社レンドリースジャパンの岡正信副社長も「東日本大震災後の非常事態時であっても、郵船不動産のような取り組みを行ったビル会社はほとんどなかっただろう」という。

 「これからのビルマネジメントはハード面の対策だけでなく、ソフト面でのバリューアップが必要。テナントとの関係はフェアであれ!をモットーに取り組んでいる」と、郵船不動産の村田理プロパティマネジメント(PM)グループジェネラルマネジャーは明快だ。しかし、懇談会では、座長の野城智也東京大学教授を除いて出席者した委員は誰もこの取り組みについてコメントせず、無視された印象を受けた。

デマンドレスポンスで節電・ピークカット対策に本腰を入れる経産省

 オフィスビルの電気料金の契約見直しが進まないなかで、今年秋から横浜スマートシティプロジェクトで、国内初となるオフィスビルを対象としたDR実験がスタートする。2月1日に経済産業省で開催された第14回次世代エネルギー・社会システム協議会では、2010年秋から全国4地域(横浜市、愛知県豊田市、けいはんな地区、北九州市)で始まったスマートコミュニティの国家プロジェクトの進ちょく状況と2012年度以降の計画概要が報告された。

 協議会の冒頭で経産省の担当者は、東日本大震災の後、スマートコミュニティの位置づけもCO2排出量削減に加えて、節電・ピークカット効果、災害対応の期待が高まっていると指摘。2012年度からは「デマンド・レスポンス事業展開の具体化」に取り組むとともに、その成果を地方自治体や事業者に啓蒙・普及する取り組みを強化する方針を打ち出した。

 さらに京都大学大学院の依田高典教授が、米国のガイドラインを参考に、今後のスマートコミュニティ社会実験の考え方を示し、4地域の担当者に実証実験を進めるうえでの助言を行った。

 依田教授によると、社会実証実験では、政策に興味のある参加者で構成する「トリートメントグループ」と、興味を持っていない参加者による「コントロールグループ」を必ず作り、割り振りはランダムに行うことが重要で、「この設計を誤ると、実験結果が国際的に全く通用しないものになる」という。オフィスビルのDR実験に当てはめると、インセンティブがなくても節電に積極的に協力するテナントでけではなく、節電にはあまり協力的でないテナントも加えなければ、社会実験としては客観的なデータが得られないということである。

国家プロジェクトとして社会実験の成果をあげられるか

 三井不動産が2月7日に発表した「横浜三井ビルディングが2月末に竣工」のプレスリリースに、横浜スマートシティプロジェクトで実施するDR実験の概要(図を参照)が示されていた。三井不動産は、竣工したばかりの横浜三井ビルディング、三菱地所は1993年に完成した横浜ランドマークタワー、丸紅は昨年夏に完成したMMGCTの3つのオフィスビルで実験に参加する予定だ。

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 3社に実証実験の参加テナントを確認すると、三菱地所は現時点では、ランドマークタワーに入居する三菱地所関連企業だけで参加するとしており、三井不動産と丸紅は「まだ調整中で、参加テナントは決まっていない」としている。三菱地所のように関連企業だけでの参加では、コントロールグループが含まれないことになり、果たして社会実験として客観的データが得られるかは大いに疑問があるところだろう。

 横浜スマートシティプロジェクトは、国家プロジェクトとして税金も投入されて実施されており、参加企業は当然、社会的責任を意識して取り組む必要がある。依田教授が示したガイドラインに基づいて、テナントを選び、様々なインセンティブメニューを用意したうえで実験を行うことは不可欠だ。プロジェクトを主導する立場にある経産省、横浜市、次世代エネルギー社会システム協議会でも、オフィスビルの電気料金の契約問題を理解したうえで、DR実験の成果をあげていくことが求められており、その成果をオフィス賃貸市場にフィードバックしていくことが重要だ。