土地を「資産」と考えるか、「資源」と考えるかで、その見方は大きく違ってくる。資産である土地をどう利用しようが、誰にどう処分しようが所有者の勝手かもしれないが、限られた国土資源と考えれば公共性が求められる。今年7月に固定価格買取制度がスタートする再生可能エネルギーを普及できるかどうかも、突き詰めれば「土地問題」である。エネルギー資源として土地をどう有効活用できるかで、電力コストが大きく違ってくるからだ。3年前に表面化した水源林の外国資本参入問題でも、土地制度の不備が指摘された。日本の貿易収支が31年振りに赤字に転落した今、土地制度を「資産=金融商品」という側面ばかりで考えるのではなく、「資源」として議論する必要があるのではないか。

水源林問題で指摘された土地制度の不備

 東京財団の研究員である平野秀樹氏(独立行政法人森林総合研究所理事)から、1月26日に新しい政策提言「失われる国土〜グローバル時代にふさわしい「土地・水・森」の制度改革を〜」を公表したとのメールが届いた。2009年1月に公表した最初の政策提言「日本の水源林の危機〜グローバル資本の参入から「森と水の循環」を守るには〜」以降、毎年1月に水源林問題を取り上げた政策提言をまとめ、今年で4回目である。

 今回の政策提言でも、「行政の目が行き届かないところで農林地や国境離島への投資交渉が進んでいる。同時に、所有者が不明で境界もわからず徴税もできない―そうした国土の不明化、死蔵化(デッドストック化)が全国で静かに進行している」と警鐘を鳴らしている。これまでの政策提言によって、2011年に森林法の改正が実現し、2012年4月から相続時も含め、すべての林地売買に事後届出が必要となるが、外国資本による水源林や軍事用地などの土地取得は日本では規制されていないのが実情だ。

 当初、平野氏は、グローバル資本による天然資源の買収が世界中で拡大している動きに注目し、日本の水源林の調査研究を開始した。しかし、水源林の土地所有の実態を調べていくなかで、日本の土地制度そのものに不備があるとの認識を持つようになった。2010年1月にまとめた2回目の政策提言「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点〜日本の水源林の危機?〜」では、土地問題に焦点を当てた。そこで私もレポートの存在に気付き、平野氏とコンタクトを取るようになった。

土地市場を巡ってかみ合わない議論

 日本の土地市場は、戦後3回の地価高騰を経験している。東京オリンピック前の1960年前後、列島改造ブームがあった1970年代前半、そして不動産バブルの1980年代後半である。2008年のリーマンショック前も、地価の上昇は急激ではなかったが、2001年に上場したJ-REIT(不動産投資信託)市場ではミニバブル現象が起きた。

 戦後の急激な経済成長を考えれば、地価が右肩上がりで上昇したことは当然と言えるかもしれない。しかし、15〜20年ごとに投機的な地価高騰が生じたのは、土地の制度や市場に、そもそも根本的な問題があったからではないのか。自分も不動産バブルの発生から崩壊までの検証取材やJ-REIT市場の取材などを通じて、土地制度や市場の透明性に問題があるとの認識を持っていたので、平野氏の問題提起は共感できた。

 ところが、国土交通省の土地政策担当者や不動産業界など土地市場関係者からは、強い反発の声が上がった。東京財団が2010年初めに開いた第2回政策提言の記者懇談会の席でも、日本経済新聞の記者が「外国資本が日本の土地に投資して何が問題なのか?」と主張し続け、議論はほとんど噛み合わなかった。日本の土地市場に外国資本を積極的に呼び込もうとしている不動産業界の立場を代弁した格好だ。

 国交省の幹部からも「水源林問題は単に林野庁の問題であって、土地制度に問題があるとの指摘は迷惑だ」との声を聞いた。現実問題として、外国資本が水源林を買収したところで、今のところ実害が生じているわけではない。外国資本がいくら投資したところで日本の領土であるのは間違いないなのだから「なぜ大騒ぎする必要がある」というぐらいの感覚なのだろう。双方の問題認識は乖離したままである。

再生可能エネルギー普及の鍵は土地問題

 いよいよ半年後に迫った再生可能エネルギーの固定価格買取制度の取材を始めようと思い、1月中旬に同制度を担当する資源エネルギー庁新エネルギー対策課長の村上敬亮氏に会った。2001年からスタートした国家IT戦略「e-Japan戦略」で経産省のIT政策をリードしてきた優秀な官僚で、それ以来の付き合いである。地球環境室長を経て、2011年9月に新エネルギー対策課長に就任し、再生可能エネルギー普及に向けて啓蒙活動に積極的に取り組んでいる。

 固定価格買取制度は、従来の太陽光に加えて、風力、水力、地熱、バイオマスを使って発電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける制度で、再生可能エネルギー普及の起爆剤になると期待されている。最大のポイントは、再生可能エネルギー源ごとに設定される買取価格がいくらになるかであるが、問題は設定された買取価格で採算に合う発電事業ができるかどうかである。

 買取価格を政策的に高く設定すれば、再生可能エネルギーの普及は一気に進むだろうが、将来に渡って安定的に再生可能エネルギーを供給できる競争力のある電力事業者を育成することも重要な課題だ。いずれは競争原理が働いて再編淘汰が進むことになるだろうが、むやみに新規参入を促進しても、不良債権化しそうな再生可能エネルギー発電所ばかりが増えてしまっては、補助金など税金の無駄遣いである。

「風力発電にしても、風車を立てるのに適した場所は限られる。農地に太陽光パネルを設置するのにも現状では障壁が大きい。再生可能エネルギー普及の鍵は土地問題だ」と、エネ庁の村上氏も言い切る。

 1月28日付けの朝日新聞一面に掲載されていた「屋根貸し太陽光発電」の話も聞いたが、まだ国土交通省や区分所有法を所管する法務省とも調整は進んでいないという話だった。アイデアとしては私も以前に記事に書いたことがあるが、現実問題として所有権が強い日本の土地制度の上で、土地・建物の所有者に場所だけ借りて電力事業を行うのは容易ではないだろう。

投機をが繰り返されてきた日本の土地市場

 日本では、列島改造ブームによる地価高騰のあとの1974年に国土利用計画法が制定され、不動産バブルの地価高騰のあとの1989年に土地基本法が制定された。いずれも、土地が投機対象となった反省を踏まえて、土地は「国民のための限られた資源」であり、「公共の福祉が優先」されることが明記された。しかし、実際に土地制度や土地市場の仕組みまで抜本的に見直されることはなかった。

 国土利用計画法では、国土利用計画を定める地域として?都市地域?農業地域?森林地域?自然公園地域?自然保護地域―の5つに区分して利用や取引の規制をかけている。土地が、水やエネルギーを生み出す重要な資源であるという視点はほとんど欠落している。土地市場関係者にとって、土地は資産=金融商品であるのだから、収益が最大化するように運用する。最も高く買ってくれるところに売る。所有者側の論理ばかりが優先されてきたのである。

 日本の土地利用の歴史について著書を出している財団法人リバーフロント整備センター理事長(国交省元河川局長)の竹村公太郎氏によると、江戸時代まで日本の人口が3000万人台で推移してきた最大の理由は、エネルギー問題であった。主要なエネルギー資源でである薪や炭を得るために森林が伐採され、江戸時代末期には最大の都市である江戸の周辺では森林が枯渇状態にあったという。

 そうした状況は、明治になって産業革命が始まると一変した。石炭の大量生産が始まり、石油も海外から大量に輸入できるようになって、エネルギーは土地がなくても簡単に手に入れられる資源になったからだ。水も、上下水道やダムの整備が進み、首都圏では断水寸前まで追い込まれた1964年の東京五輪大渇水以降、深刻な水不足を経験していない。戦後、急速な経済発展によって、あらゆる資源を世界中から手に入れられるようになった日本で、土地が貴重な国土資源との考え方が希薄になっていたのは確かだろう。

再生可能エネルギーで土地投機が起きる懸念はないのか

 いま、日本経済が大きな転換期を迎えているのは間違いない。バブル崩壊後の失われた20年と新興国の台頭によって、日本企業の国際競争力は低下し、最近の急激な円高で国内生産の空洞化が加速、2011年の貿易収支はついに赤字に転落した。EUの財政危機などで世界経済は失速し、日本の景気や財政問題への悪影響が懸念されている。原発事故の影響で電力コストの上昇が避けられないなかで、今年に入ってイランの核疑惑問題を引き金にホルムズ海峡封鎖の危機も浮上している。

 国民生活にとって水もエネルギーもなくてはならない資源であり、安定供給を継続していくことは国の責任である。その責任をどのように果たしていくのか。

 最も心配されるのは、再生可能エネルギーの発電に適した土地が投機の対象とされることだ。エネルギーの安定供給のために国民の税金を投入してまで普及を図ろうとしている時に、外国資本までも入って投機目的での土地売買が始まることが果たして公共の福祉に適うことなのか。そうした問題が生じてから対策を講じても遅い。「想定外」だったと言って済まされない問題である。

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