【住宅】太陽光発電、再始動!―不動産協会広報誌「FORE」2008年9月号掲載(2008-09-10)

 北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の開催を控えた2008年6月、福田康夫前首相は「低炭素社会・日本をめざして」と題して、2050年までにCO2排出量を現状の60〜80%に削減する長期目標を掲げた福田ビジョンを発表した。

福田ビジョンが掲げた太陽光発電の導入目標

 この長期目標の実現に向けて、2020年までの中期目標として14%削減を目指し、太陽光、風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーや原子力などの「ゼロエミッション電源」の比率を50%以上に引き上げる。太陽光発電は、日本のお家芸であった普及率がドイツに抜かれたことに言及し、太陽光発電世界一の座を奪還するため、導入量を2020年までに現状の10倍、2030年には40倍に引き上げる目標を掲げた。

 日本の太陽光発電の導入量は2006年度で170万キロワット。うち住宅用が137万キロワットと全体の約8割を占める。戸数ベースでは新築・既存住宅合わせて6万2544戸(2006年度実績)だった。もし住宅用の比率も現状のままで10倍にするなら年60万戸以上に、40倍だと年250万戸以上に設置しなければならない計算だ。

 経済産業省が策定した長期エネルギー需給見通しの中では、福田ビジョンの目標を達成するには、2020年に新築持家住宅の7割以上、30年には新築戸建住宅の約8割が太陽光発電を採用する必要があると試算している。2006年度の新設住宅着工戸数は年128万戸で、うち持家は35万戸、戸建分譲が14万戸。全ての新築戸建住宅に設置されたとしても60万戸に達しない。今後は少子高齢化の進展で新設住宅着工戸数の年100万戸割れも考慮すると、目標達成のためには全ての新築住宅に太陽光発電が標準装備されるぐらいの状況を実現し、かつ既存住宅への普及を加速していく必要がある。

太陽光発電世界一の座を明け渡す

 日本は2004年度までは太陽光発電の累計導入量で世界トップ、太陽光発電システムの生産量も世界シェアの50%を占め、福田ビジョンで言及したように生産、導入ともに世界一の座に君臨してきた。「第1次石油ショック後の1974年に発足したサンシャイン計画以降、官民挙げて太陽光発電の技術開発、普及導入に積極的に取り組んできた成果」と、太陽光発電協会の岡林義一事務局長は振り返る。

 最も貢献したのが、1994年度から導入された住宅用システム導入への補助金制度である。戸建住宅に設置される太陽光発電システムの容量は3〜4キロワット程度だが、当時の1キロワット当たりの単位価格は370万円。1キロワット当たりの単位発電コストは260円で、火力発電コストの30倍以上。とても一般家庭が導入できる価格ではなかったため、補助金制度によって導入普及が図られてきた。

 当初は高かった単位価格も94年度には200万円に急低下した後、順調に下がって2003年度には70万円を切る水準となった。経済産業省では補助金制度の役割は終わったと判断、05年度末で補助金制度を終了。12年間に投入した補助金の累計額は1322億円に達し、毎年100億円規模の支援を実施してきた。

 しかし、価格が下がったとは言え、現在の単位発電コストは47円。一般家庭用電気料金約20円の2倍以上で、常識的に考えても補助金無しでは普及はまだまだ難しい。2005年度には住宅の設置戸数が過去最高の7万2825戸を記録したが、急増してきたドイツに累積導入量で追い抜かれた。06年度に入ると補助金廃止の影響で設置戸数は減少に転じ、ドイツとの差は拡大している。

日本のRPS制度vsドイツの固定価格買取制度

 日本では、補助金制度が廃止に向かうなか、太陽光や風力などの新エネルギーの利用を促進するため2003年4月に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が施行された。その1年遅れでドイツでは改正GEE法がスタートして、固定価格買取制度(フィード・イン・タリフ)が大幅に強化された。

■RPS制度とは
 電気事業者に対して、毎年、その販売電力量 に応じた一定割合以上の新エネルギー等から発電される電気 の利用を義務付ける制度。政府が新エネルギーの利用目標量を設定し、それに応じて電気事業者に義務量が割り当てられる。
 2006年度の利用目標量は電気事業者36社に対して総量60億6784万キロワット。全ての事業者が義務を履行し、実績値は74億6053万キロワットとなった。

■固定価格買取制度とは
 電気事業者が、太陽光など再生可能エネルギーによる電気を買い上げる制度。ドイツでは、通常の電気料金の約3倍の価格で、20年間買い上げる。電力事業者は高く買い取った負担を電気料金に上乗せして回収する。

 ドイツでは太陽光発電システムの電気は、日本のように自家利用せず、全て電力会社に買い取ってもらう。高値買取によって10年程度で初期費用が回収でき、残りの期間で収益が見込めるため、利殖狙いの投資として一気に導入が進んだ。ドイツ以外にも、スペインなどの欧州や韓国などで導入されている。

 固定価格買取制度について経済産業省は現時点で、どのように考えているのか?資源江エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の栗原晃雄課長補佐(太陽エネルギー担当)に聞くと、次のような見解だった。

 「ドイツでは、電力会社が負担を電力料金にそのまま転嫁しており、一家庭当たり月500円程度を負担している。高値買取が保証されているのでコスト低減のインセンティブが働きにくい。国際エネルギー機関(IEA)でも、非常に高い固定価格買取制度は見直すべきで、より市場ベースの移行すべきと勧告している」

福田ビジョン実現に向けた緊急提言

 福田ビジョンが発表された2週間後、経済産業省の審議会である総合資源エネルギー調査会の新エネルギー部会から緊急提言が発表された。太陽光発電システムについては、住宅用太陽光発電システムの普及に向けて国の大胆な支援措置を求めるとともに、官民挙げた取り組みで、約230万円のシステム価格を「3〜5年以内に半額程度まで低減することをめざす」と明記した。

 具体的な施策として、RPS制度による電気の利用義務付けに加えて、グリーン電力証書による証券化手法を使って市場に流通できる仕組みを導入する。家庭で発電して余った電気を電力会社に買い取ってもらう時に、電気の逆流によって生じる電力系統の不具合への安定化対策の実施などが盛り込まれた。

 太陽光発電システムが半額程度まで下がると発電コストは23円程度となる。一般家庭用電気料金とほぼ同等で、補助金無しでも普及する環境が整ってくるとの計算だ。しかし、それまでの間に何もしなければ買い控えが起こり、普及にブレーキがかかる。経済産業省では、8月末に公表した来年度予算の概算要求で、住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金として新規に237億5000万円を要求した。

 「具体的な補助率など制度設計は今後詰めていく」(栗原氏)としているが、補助率2分の1としても、概算要求の規模は年間20万戸に相当する。かなり思い切った要求だ。

動き出した太陽電池メーカー

 太陽電池生産の国別勢力図も、わずか4年で激変した。2004年末の時点では日本勢が世界シェアの50%を占めていたが、ドイツQセルズや中国サンテック社などの台頭で、2007年末には世界シェアが25%まで低下。辛うじて世界トップの座を守っているが、メーカー別シェアではシャープがQセルズに抜かれて2位となった。メーカー各社の生産が急拡大したことで、材料のシリコンの品薄状態が続いており、日本勢が材料調達で苦戦して世界シェアを落とす原因ともなっている。

 海外勢に対抗して、日本勢の巻き返しが始まっている。現在、販売されている太陽電池は、単結晶シリコン、多結晶シリコンを使用してエネルギー変換効率10〜15%を実現した第1世代と呼ばれるものが主流だが、2007年以降、京セラ、三洋電機などが多結晶シリコン太陽電池の増産を相次いで発表している。

 シャープも2008年3月、低コスト化が可能な第2世代の薄膜シリコン太陽電池を生産する新工場(大阪・堺市)の建設に着手した。同社は1963年の生産開始から2007年末で太陽電池生産量が累計2ギガワットを達成したところだが、新工場の規模は年間1ギガワット。生産量の拡大でコスト低減も一段と進むことが期待される。

 さらに経済産業省では、第3世代の革新型太陽電池の実現に向けて、東京大学と産業技術総合研究所の2拠点で国家プロジェクトをスタートしている。2040年〜2050年をメドに変換効率40%超、発電コストが1キロワット当たり7円と、火力発電コスト並みを実現するのが目標だ。まだ基礎的な段階で、従来のシリコンや化合物半導体に代わる新素材や新構造の研究が進められている。

住宅分野への普及に向けた取り組み

 越谷レイクタウン―独立行政法人都市再生機構(UR)が1999年度から埼玉県越谷市で土地区画整理事業に着手、今年3月にオープンしたばかりの新しい街だ。洪水による浸水被害から地域を守る大規模な河川調整池の水辺空間と、JR武蔵野線の新駅越谷レイクタウン駅を中心としたまちづくりが進められてきたが、最大の特徴は「環境共生先導都市」のモデルが行くに位置づけられていること。民間事業者への分譲に当たって、募集対象が街区全体で発生CO2を20%以上削減する条件を付加した。

 「地球温暖化防止に向けた取り組みを検討しているなかで、立地条件の良い越谷レイクタウンであれば条件を付けても民間事業者の応募があるだろうと考えた」(UR広報室)
 URの狙い通りに、大和ハウス工業が分譲マンション500戸と分譲戸建住宅132戸で構成する街区で事業をスタート。環境省の2006年度新規モデル事業「街区まるごとCO2削減事業」の第一号に採択された。大和ハウスの事業では、太陽光発電システムは戸建住宅にオプションとして設置されるだけだが、駅前の大規模商業施設に進出するイオンでは、国内商業施設最大の約4000平方メートルの太陽光パネルを設置し、年間約41万キロワットの発電を行う。

集合住宅への普及をどうするか?

 太陽光発電の普及に向けた施策もほとんどが戸建住宅を対象としたものばかりで、分譲マンションは蚊帳の外に置かれたままの状況が続いている。賃貸マンションであれば、オーナーが共用部分に太陽光パネルを設置して各住戸に電気を分配することも可能で、福岡県北九州市にある芝浦特機が、太陽光発電付き賃貸マンション「ニューガイア」シリーズを積極的に展開している。

 しかし、分譲マンションでは、賃貸マンションのような手法を使うことは制度的な制約があって難しいという。ネックとなっているのが、家庭向け電力の自由化問題である。わが国の電力自由化は2000年から産業用、業務用の特別高圧、高圧分野から順次、自由化が行われ、最後に家庭向けなどの低圧電灯分野の自由化が残っている。2007年4月をメドに検討が行われたが、自由化は見送られて5年後をメドに再び検討することになっている。

 分譲マンションに太陽光発電システムを導入する場合、オーナーはマンション管理組合となってしまう。分譲マンションで各住戸に太陽光発電の電気を分配しようとすると、管理組合が各家庭に電気を売ることになり、家庭向け電力が自由化されていない現状では認められないことになる。太陽光発電の電気を各住戸に配るのではなく、電力会社にまとめて売ることができれば、その収益を長期修繕積立金に組み入れるなどでマンションの新たな収益源になると期待できるが、そのためには日本にもフィード・イン・タリフを導入する必要が出てくる。

 すでに分譲マンションのストックは500万戸を突破している。集合住宅への太陽光発電システムの普及に向けて不動産業界としても知恵を絞る必要があるだろう。