日本で熱エネルギーの利活用が始まったのは、公害問題や石油危機などきっかけに1972年に熱供給事業法が制定されてから。80年代後半に入って都市再開発が活発化し、建物ごとに熱源を設けるのではなく、複数の建物に熱を融通する「地域冷暖房事業」が拡大。熱供給事業の業者数と許可地点数は、88年に39業者、68カ所だったが、2001年に91業者、149地点にまで増加した。しかし、ここ10年は、大規模な都市再開発が減り、「割高感が出ていた」(日本熱供給事業協会)こともあって、微減傾向が続いていた。
熱供給事業には、天然ガスを燃料に発電と排熱利用を行う天然ガスコジェネレーションの利用が多いが、河川水、海水、下水、地下水などの温度差を利用したシステム、ゴミ焼却場、工場廃熱、変電所廃熱、バイオマス、地中熱を利用するシステムも実用化されている。これら都市の未利用熱エネルギーを活用することで、ヒートアイランド対策、大気汚染防止、蓄熱水槽の設置による防災機能の向上、電力負荷の平準化、エネルギー多様化によるセキュリティ向上などの効果が期待できるという。
熱供給システム普及の鍵は、熱を供給する導管をどのように設置するか。大規模再開発事業のようにスケールメリットが発揮できれば導管設置も可能だが、既成市街地での事業化は難しいと考えられてきた。しかし、従来はそのまま放流していた下水処理水や下水を地域冷暖房の熱源用水として活用する試みも始まっており、下水処理施設や下水道の改修などに合わせて既存インフラを利用できる仕組みができれば熱エネルギーの有効利用が進むことも期待できる。
海外では「熱供給システムが利用できる地域にビルを建設する場合、既存システムを利用しなければ、開発許可を出さない」(村木美貴千葉大院准教授)と、行政が熱エネルギー利用を促進している国もある。日本では、河川熱、下水熱を熱源として利用することを法律で想定しておらず、下水熱の民間利用も基準が厳しいなど、熱エネルギーの有効利用に向けた環境整備が遅れていた。
第一回会合では「熱エネルギーの有効利用を促進するだけでは、エネルギー供給量を増やすだけに需要抑制にならない。省エネ対策などと合わせて、エネルギー供給全体のなかで熱エネルギーをどのように有効利用していくのかが重要」との意見が出された。原発事故をきっかけに従来の大量発電・大量供給型から、地域の需要に応じたエネルギー供給システムへの転換をどのように図っていくか?再生可能エネルギーの活用も含めて、まちづくりと一体となった地産地消型のエネルギーシステムについて議論が活発化することになりそうだ。
研究会には学識経験者7人のほか、オブザーバーとして国土交通省の関係部局から9人、環境省、東京都2人、大阪府、横浜市2人のほか、民間から東京都市サービス(東京電力の熱供給事業会社)、関西電力、東京ガス、大阪ガス、日本熱供給事業協会が参加。今後の会合では、三菱地所、森ビル、清水建設、大成建設、日建設計、日本設計などもプレゼンテーションを行ない、7月に中間報告を取りまとめる予定。