大和(だいわ)工務店(東京・江戸川区)の後関和之会長に会った時に「まだ長期優良住宅の現場を見たことがないんですよね」と言うと、「じゃ、見においでよ」と誘っていただいた。JR新小岩駅から徒歩10分ほどの住宅地に建設中の二世帯住宅で、今年4月に行った時は、ちょうど構造材が組み上がったところだった。壁の構造などを見ることはできなかったが、「良い材料を使って丁寧な仕事をしている」というのが率直な感想。現場監督も「長期優良住宅と言っても、仕様はほとんど変らないし、違うのは写真など記録を取る手間が増えたぐらい」と笑う。国からのお墨付きが付こうが付くまいが、家づくりの本質が変るわけではない。

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家のつくり方に興味を示す人が増えてきた

 子どもの頃から散々、工事現場を見続けてきて、今でも現場の近くを通る時は、建築確認済証の表示を必ず見る。ついつい囲いの隙間を探して、中を覗いてしまう。基礎のつくり方、柱の太さや材質、外壁や屋根の構造などとともに、職人たちの仕事振りを見ている。百聞は一見にしかずで、現場を見れば、建物の違いは十分に感じ取れるはずである。

 「耐震強度偽装事件以降、家のつくり方に興味を持つ人たちが増えて、しっかりした仕事をしている工務店を紹介してほしい、という要望がむしろ増えたよ」と後関さん。私も、自宅を10年前に建てたときに、建築家に出した第一の条件は「しっかりした仕事をする工務店を連れてくること」。人生最大の買い物なのだから、信頼できるところに頼みたいのは皆同じだ。

 よい家づくりは「よい材料を使って、腕の良い職人が丁寧につくること」に尽きると思っている。間取りは住まい方の問題だし、設備機器も後から取替え可能だが、建物の土台と骨格は一度つくってしまえばやり直しがきかない。耐震強度偽装事件のあとで建築基準法が改正され、住宅瑕疵担保履行法、長期優良住宅普及促進法、住宅エコポイン制度と、次々に新しい制度がつくられ、消費者も勉強することが増えて大変と思うが、ずっと昔から家づくりは大工や左官などの職人が担ってきたのである。

住宅の性能品質レベルをいかに見分けるか

 「そもそも建築基準法が、最低限の性能をクリアすれば良いと定めているところに問題があった」―姉歯事件で建物の強度不足が表面化したことで、そのような指摘があった。知り合いの建築家に「建築主から依頼されたときに、最低限の性能で設計するの?」と聞くと、異口同音に「建築主が最低限で良いとでも言わない限り、1.5倍ぐらいの性能で設計するよ」との答え。それを建築主も“過剰品質”とは言わないと思うが、一般消費者にとっては1.5倍の性能とギリギリの性能の違いを見分けるのが難しかったということだ。

 大和工務店では、以前から九州大分の優良国産材「さいき杉」を柱や梁などに使用してきた。長期優良住宅制度に対応するために、材料を代えて、柱の太さを4寸以上にしたわけではない。ウレタン断熱パネルと機械換気システムを使った高気密高断熱仕様も、制度導入の前から採用していたという。

 よい材料を使い、職人たちが丁寧につくってきた家はいくらだってあったはず。「なぜ、国が長期優良住宅なんてお墨付きを付ける必要があるのか?」と、当初はピンと来ないところがあった。しかし、中小工務店にとっては、ブランド力を前面にアピールする大手ハウスメーカーと同じ土俵で戦うには、国のお墨付きがあった方が都合が良いという考え方もあるようだ。制度導入によって、長く住み続けられる家づくりに取り組んできた設計者や工務店が正しく評価されるのは悪いことではない。

 一方で、お上(かみ)が基準を作れば、ギリギリでクリアして、いかにコストを引き下げるか、といった競争が起こることも避けられないだろう。消費者が「良いモノをより安く」と求めるのは当然のことではあるが、行き過ぎると、長期優良住宅偽装事件なんて問題が生じるかもしれない。

 さらに、国の基準とは関係なく、価値のある家はいくらでもあるわけで、基準から外れた住宅は「長期優良住宅ではない」と評価されてしまうのではないかとも危惧する。そのうち、超長期優良住宅なんて制度もできたりなんかして…。

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