「しゃべるのは苦手」と公言している講演を久々にやらせていただいた。ちょうどタイミングよく週刊ダイヤモンドの記事も掲載されたところだったので、ネタには困らないと思ったが、パワーポイントの資料やレジメの作成などの準備作業に時間をかけた。6月17日の本番は過去の講演に比べると、少しは上達したように思えた。不思議なことに、こうした話は続くもので、9月にはNPO法人主催の住宅とエネルギー問題に関するパネルディスカッションに出演する予定で、11月には東京大学のオープンレクチャーでの講演も依頼されており、ますます苦手克服に本腰を入れる必要がありそうだ。 

久々の名古屋訪問でミッドランドタワーに上る

 「ものづくりの現場を歩く」に講演の表題を決めたのは、大会の参加者がゼネコンの現場担当者や専門工事会社の人たちだったからだ。しかも、自動車生産のメッカである名古屋という土地柄もあり、建設の話題だけでなく、自動車やIT産業など他産業のものづくりとの比較も行うことで、日本のものづくりに取り組む人たちを元気付けたいとの思いがあった。

 名古屋を訪れるのは7、8年ぶりのこと。調べてみると、ITS(高度交通情報システム)世界会議愛知・名古屋2004を取材したのが最後で、名古屋駅のJRセントラルタワーズ(1999年竣工)に上って名古屋市内を一望したのを覚えている。その後、名古屋駅周辺も再開発が進み、06年にはミッドランドスクェア、08年には名古屋モード学園スパイラルタワーが完成して駅前の雰囲気も一段と変わっていた。

トヨタ自動車元専務の神尾隆東和不動産社長に会う

 講演は16時過ぎからだったが、昼には名古屋に着いて、ミッドランドタワーの展望台に上るなど名古屋駅周辺を散策。14時にミッドランドスクェアのオーナーである東和不動産の神尾隆社長と面談。ちょうど私が自動車担当記者時代(93〜96年)にトヨタ自動車の広報部長(のちに専務)で、いろいろとお世話になった方だ。今月で、東和不動産の社長を退任して相談役になるそうだが、名古屋フィルハーモニーの理事長や地域冷暖房会社の社長は続けられるので、まだまだお忙しい様子だった。

 神尾さんと言えば、奥田碩社長(当時)就任時のメディア対応を思い出す。豊田達郎前社長が病に倒れ、事実上、空席となっていた社長をどうするかはメディアの高い関心事となっていたが、結局、どの新聞社にも社長人事のスクープを抜かせずに正式発表まで持ち込んだ。8月のお盆休みに入る直前での交代発表で、休み明け以降と予想していた私が「すっかり騙されました」と脱帽すると、「いやー、皆さんに覚られないようにするのに苦労したよ」と、神尾さんは会心の笑顔を浮かべていた。

五洋建設で札幌南高校の先輩にも遭遇

 さて今回の講演は、五洋建設名古屋支店執行役員支店長の清水琢三氏、総務部長の山下朋之氏の依頼で実現した。清水さんは、日経BP社の建設局長だった平島寛氏(現・アイ・エス・エス執行役員)と東大土木の同期で、私も同い年だったので企画部長時代から親しくさせてもらっていた。山下さんは前任の本社広報担当として10年以上の付き合い。そんなこともあって、名古屋支店の方々には温かく迎えていただいた。

 さらに、大会の主催者の一人である労務安全協議会会長の石塚蒸氏(昭和土木社長)が高校の先輩であることが判明。ちょうど1週間前の6月12日に札幌南高校の東京六華同窓会の年度総会があったばかりだったので、これも何かの縁なのではないかと驚いた。大会の会場には協力会社の方々も含めて200人以上が集っていた。

現場のものづくりをいかに守るか

 講演の内容は、私がこれまでに担当した半導体、コンピューター、自動車産業、そして建設業の分野において世界シェアトップとか、演算速度が世界最高速といった地位を達成しながらも、自動車産業を除けば、その地位を維持することができなかった背景を検証。ものづくり現場の強さを、経済成長に結びつけられなかった企業経営の問題点を指摘した。

 建設業でも、元請業者の役割は決められた予算、工期で品質の高い建設構造物を作り上げるために、現場がものづくりに専念できる環境を整えることであるはずだが、現状では安値受注を繰り返し、下請タタキや手形乱発で専門工事業者に資金繰りの苦労まで負わせる状況となっている。今後、国内建設投資が増えることは考えられないだけに、今のゼネコン経営が続けば、現場はますます疲弊していく一方だ。「ゼネコン」というビジネスモデルを捨てるのは簡単でないことは十分に承知しているが、それでも「現場のものづくりを守る」ために、営業の手法や契約のあり方などあらゆることを考えていくことが必要ではないか―との思いを伝えた。

建築=組み立て産業、土木=装置産業?

 今回、講演のレジメをまとめている時に、建設業でも建築と土木ではものづくりの方法が異なっていることに着目してビジネスモデルを考える必要があるのではないか?との考えが浮かんできた。建築は明らかに自動車や家電製品のような組み立て産業であり、私も建築出身なので組み立て産業としてビジネスモデルを考えてきた。しかし、土木は部材組み立ての要素もあるものの、化学製品や半導体生産のような装置産業の要素が強い。

 建築は市場規模に産業規模を合わせて行けば良いが、土木の場合、国土の維持保全のために、どの地域に、どの程度の重機と人材をいかに効率的に配置するかという観点から適正な産業規模を考える必要があるのかもしれない。五洋建設の清水さんも、前原国土交通大臣が静岡県の港湾視察に訪れた時に、「ハブ港湾も重要だが、地震など災害の多い日本では海の道を確保するための港湾整備も重要」と訴えたようだ。果たして市場規模(予算規模)とのバランスを取りながら、効率的で適正な産業規模を考えることは可能だろうか。

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