【建設】建設業に求められる「透明性」とは何か?(8)―住基カードを活用したヒト情報の管理(2003-03-17)

 2002年夏、新聞、テレビで大々的に報道されて、社会的な関心を集めた住民基本台帳ネットワークシステム――。03年8月には第2段階としてICカードを使った公的個人認証サービスもスタートする予定で、また時期が近づけばマスコミが大いに騒ぎ出すことになるのだろう。ここで住基ネットの話題を持ち出したのは、個人情報問題の視点からその是非を議論するためではない。ITを活用すれば、個人レベルでの情報管理や検索も簡単に行えるようになるという象徴的な事例として、である。だからこそ個人情報保護が重要となるわけだが、これほど有効な情報発信ツールを利用しない手はないだろう。

インターネット検索で個人情報を検索してみると…

 試しにインターネット検索で、私のフルネーム『千葉利宏』を入力すると、いろいろな情報がヒットして表示される。いまや簡単に個人名で情報を検索できる時代だ。記事を提供した媒体などで私の名前が表示されるほかに、80年代後半のIT担当記者時代に出版した「コンピューターセキュリティー」と題する本が中古で入手することが可能であることが判った。さらに、その本を参考文献して書いた大学生の卒業論文がネット上にあったことには驚いた。本人が全く知らない情報さえも出ているのである。

 インターネット上には個人レベルの情報も氾濫しており、建設に関係する情報も多い。私の友人や後輩の建築家たちも、自前のホームページを開設しており、これまでに手がけた住宅の写真などを見ることができる。ここ数年、デザイナーズ住宅、デザイナーズマンションといった「デザイナーズ」ブームと呼べる現象が起こっているが、この背景にインターネットが大きく影響しているのは間違いないだろう。

 一般消費者にとって個人ベースで活動している建築家と呼ばれる人たちの情報を収集し、その中から自分に会った建築家を選ぶという作業は、インターネットの登場によって初めて可能になった。建築家たちも、インターネットを活用して積極的に情報発信を行うようになり、雑誌などのメディアも積極的に取り上げるようになったことで、一般消費者も彼らを身近に感じるようになったのではないだろうか。

600万人の建設就業者の情報管理も可能に

 もともとコンピューターとは、膨大な情報を蓄積してそれらを瞬時に検索するというのに非常に優れた道具である。しかも、1億2000万人の日本国民全ての情報を管理する住基ネットが構築される時代だ。約30万人の1級建築士の情報を蓄積することはもちろん、就業者数600万人の建設就業者の情報を蓄積して検索できるようにすることも決して不可能な話ではない。

 実際に建設関係業界団体でもインターネット上で会員名簿の検索が出来るサービスを提供しているところは少なくない。例えば東京建築士会でも、数年前から地域や設計事務所、工務店などの大まかな分類で会員検索ができるようになっている。しかし、そこで提供されている情報は単なる企業の紹介で、消費者が業者を選定するのに役立つようなレベルとは言いがたい。

入退場管理の効率化をめざす建設ICカード

 建設業界には、すでに個人情報を管理するのに有効なインフラが構築され、動き出している。業界関係者なら良くご存知の「建設ICカード」だ。97年に、鹿島などを中心に「施工情報化協議会」が設立されて、土木工事現場を中心に普及活動が始まっており、建設ICカードの仕様などもすでに標準化されている。主に建設現場への入退場管理に利用することで、作業員の労務管理を効率化するなどが目的のようだ。

 02年に日本建設情報化総合センター(JACIC)のセミナーで、施工情報化協議会事務局長の宮嶋俊和氏(鹿島機械部部長)に会ったときに「住基カードに建設ICカードのアプリケーションを載せることが可能なら、ぜひ利用できる方向で検討したい」と言った。建設ICカードは建設需要が低迷する中で残念ながらあまり普及スピードが上がっていないようであるが、2003年8月から各地方自治体から順次、発行される住基カードを利用できれば、一気に普及させることも可能ではないだろうか。

 02年暮れに総務省や、住基カードの開発に深く関わった東京工業大学の大山永昭教授を取材したが、住基カードに建設ICカードのような他のアプリケーションを載せることも不可能ではないようだ。もちろん、住基カードは希望者のみに発行される仕組みで、保持が義務付けられているわけではない。今後、いろいろな便利なアプリケーションが搭載されるようになると、かなりの数の国民が保持することが期待できる。

住基カードを活用して技術スキルの管理も

 住基カードであれば、公的個人認証などのアプリケーションも搭載され、本人確認も行いやすくなる。ただ、入退場管理に使うだけではもったいない道具である。この際、仕事の経歴や実績などに関する個人の情報を、蓄積・管理するツールとして活用してみてはどうだろう。前回のコラムで紹介したITスキル標準のような技術・営業などのスキルを評価する仕組みも組み合わせれば、発注者が仕事を発注するための客観的な判断基盤をつくることができるのではないだろうか。

 個人情報をプライバシーの問題などでそのまま利用できない場合でも、情報を上手く加工して専門工事業者を対象とした技術スキルに関するデータベースを構築できれば、発注者にとっては専門工事業者への分離発注を行いやすくなる。それだけでも、大いに役に立つ情報となるだろう。

 国土交通省では、技術と経営に優れた企業が勝ち残るような建設市場を構築する必要があると言い続けてきた。しかし、技術に優れた企業とはどのような企業なのか。戸建て住宅を注文する一般消費者を含めて、発注者が客観的に判断できるような環境が整わない限り、本当の意味で建設市場に競争原理が働くことになるとは思えないのである。
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