建設業者の淘汰による社会的混乱を緩和するために、公的な受け皿機関は必要か。建設業者の再編支援と、消費者と下請け業者保護のための方策として検討する価値はある。
※初出表題「私見・ゼネコン再編論(21)―「機能再編」の基盤作り(3)」

受け皿機関は必要か?

 建設業者の淘汰を進める上で、何らかの受け皿機関がやはり必要なのだろうか?ゼネコンの再編・淘汰について検討するなか、思いあぐねてきた論点がここである。

 かつて住宅専門金融会社の不良債権を処理し、淘汰するときにも、“整理回収機構”という受け皿機関が設立された。金融機関と建設業者を淘汰するのでは社会的な影響度が大きく違うかもしれないが、いまや地方経済において建設業が占めている比重は大きい。そう考えれば、何らかの公的な受け皿機関があっても良いのではないか?

 いや、待て、待て…。

 それでなくても、建設業界はお上(政治や役所)頼みの体質が根深い。談合体質を脱却して市場競争原理が働く業界に転換するためにも、あくまでも再編・淘汰は市場原理に委ね、公的な受け皿機関みたいなものの設置は慎重にすべきではないか?

 そんなことを自問自答している間に、樋口廣太郎・内閣特別顧問(アサヒビール名誉会長)が「企業再生委員会」という受け皿機関構想を打ち出した。いまの経済情勢において企業再生をスムーズに進めるには公的な受け皿機関が必要との認識を、住友銀行から乗り込んでアサヒビールを見事に再生した樋口氏が示したという点で興味深い。

建設業の受け皿機関が果たす役割とは?

 もし、建設業者を対象に公的な受け皿機関を作るとなった場合、その目的は何になるだろうか。不良債権を移すための受け皿機関としては整理回収機構がすでにあるわけで、建設業者の何を移すための受け皿にするか。その目的は2つ考えられる。

 ひとつは、不良債権を処理したあとの建設業者の健全な「機能」を一時的に移して、再編を推進するための調整役を果たすことだ。先に全国銀行協会と経団連が取りまとめた企業の私的整理(債権放棄)に関するガイドラインでも、金融機関が不良債権を放棄する場合は、再編などを伴った抜本的な経営再建を求めることが条件として打ち出された。

 しかし、現実問題としてゼネコンの再編相手を探すことは容易ではない。金融機関が主導権を取る場合、住友銀行(現・三井住友銀行)が熊谷組のスポンサーを、同じく住友銀行がメーンの鹿島に打診したように、花婿探しの範囲も限られてしまう。

 また、ゼネコン丸ごとの引き取り先が見つからない場合は、一度ゼネコンを解体してから花婿を探すという手法を提案した。そうした複雑な調整作業が必要になれば、金融機関だけではますます、ゼネコンの再編を支援することは難しくなる。“結婚相談所”のように、建設業者の再編を支援する受け皿があれば、金融機関としても私的整理のガイドラインを使った債権放棄を実施して、不良債権の最終処理を進めやすくなるかもしれない。

消費者と下請け業者をどう保護するか

 受け皿機関のもうひとつの目的は、消費者(発注者)保護と下請け業者保護の観点から、工事代金の保全や未完成工事の継続調整、既存建設構造物の保守・管理のための情報管理などを行うことだ。建設業界では、前渡し金の保護や、工事完成保証など発注者を保護するための制度が整備されている。しかし、今後、建設業者の淘汰が頻繁に起こるようになれば混乱が拡大する可能性は高い。

 また、会社更生法など法的整理を行うことを決断した建設業者が、実際に法的手続きに入る1〜2カ月間に、架空発注などで納入させた資材を換金したといった犯罪に近い行為が起こっているというウワサも聞かれる。

 建設業者が保有している図面や施工記録などの施工情報は、既存ストックを保守管理していくためには不可欠な情報だが、こうした情報が建設業者の淘汰によって散逸しないような対策も必要だろう。淘汰によって起こる混乱が拡大しないためにも、未完成工事や施工情報を一時的に預かって、工事を継続してくれる次の建設業者にスムーズに引き継ぐための受け皿が必要かもしれない。

 今回は、受け皿機関の設置を肯定する側面からストーリーを展開してみた。しかし、必ずしも受け皿機関がなくてはならないというわけでもないだろう。建設業者の淘汰がどのように進むか。その動向を見てからでも受け皿機関の話は遅くないかもしれない。

おわり

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