――上場まで19年。最近で10年以内の短期間で上場するIT企業も多いですね。
川端
 エイチアイ(HI)が設立した当時は、上場など全くリアリティがなかった。最初から意識していたら、上場に向けて組織体制も整えて、キレイな形で仕上げることもできただろうが、最初に野村證券さんに声をかけてもらったのが1996年。まず「経営企画室とは何か?」から始めなければならない状況だった。社歴が長いと暗黙知で経営が回っている部分も多くなる。社内手続きを明文化したり、開発工程をマニュアル化したりする必要性は判っていても、なかなか体が反応しない。そのうち社内から「上場しなくてもやっていけるのでは…」との声が上がったりして大変だった。

――創業経営者はワンマンですし…。
川端
 私は当初からワンマン的なやり方はせずに、社内で話し合って決めるスタイルを貫いてきた。もともと私より優秀な技術者が社内にたくさんいたので、任せた方が良いと考えていた。もちろん責任は自分で取るが…。回りからは「すぐにでも独立しそうな人材がゴロゴロいて不安じゃないのか?」と聞かれるが、独立できるぐらい優秀な人材がいない方がリスクは大きい。自分もかつては独立したわけで、彼らに「独立するな!」とは言えないが、そうした人材が定着して力を発揮してくれる社風を心掛けている。そうは言っても、業界にはHIから独立して起業した経営者も多い。

――これからHIとしてめざす方向は?
川端
 携帯電話ではゲーム以外にもチャットに出てくるアバターなどマスコット・カプセルの適用範囲を広げていく。さらに携帯電話以外にも、デジタルカメラ、カーナビゲーションシステム、デジタルテレビなどの家電製品にマスコット・カプセルを搭載していきたい。これまで家電製品のユーザーインターフェースは差別化しても効果が薄いと考えられてきたが、携帯電話の進化したユーザーインターフェースに慣れていくうちに、家電製品でも必ず重要になると考えている。

――2011年には地上デジタル放送も始まりますね。
川端
 テレビ放送の番組数が大幅に増えれば、使い勝手の良いインターフェースが必要になるのは間違いない。メニューから選ぶという方法は、大きく変わらないだろうが、携帯電話を見てもメニューの階層構造が驚くほど深くなっていて、選らぶのも大変だ。もっと判りやすくナビゲートしてくれるようなインターフェースが必要で、「3Dのマスコットが登場するのが良いのでは?」というのがHIの提案だ。ただ、マイクロソフトのヘルプマスコットの”いるか”はあまり心地よさを感じない。もっとユーザーが気持ちよく使えるインターフェースが求められている。

――会社としての目標は?
川端 HIブランドで消費者に売れるような商品の開発や、営業・マーケティングのスキル向上、海外比率20%をもっと高めるなど課題は多い。人員規模も現在の120人から150人に引き上げ、200人、300人と増やしていきたい。上場のために管理系の人員が増えてしまい、いまの規模では効率が悪い。今年初めて新卒を5人採用したが、来年は10人ぐらいに増やす計画だ。中途採用も引き続き進めていく。

――起業をめざす人にアドバイスを。
川端
 HIから独立した経営者に会うと「独立して社長が何を考えていたのかが判った。社長はやってみないと判らない」と必ず言われる。だから、起業した人に会うと思わず「いばらの道にようこそ!」と言ってしまう。鈍感で楽天的なところがないと企業のトップは務まらないところがあると思う。

――上場したときはいかがでしたか?
川端 よく上場日は嬉しいという話を聞くが、私自身は身が引き締まる思いだった。めまぐるしい株取引の状況を見ながら、この巨大な経済メカニズムの中に自分も組み込まれてしまったことを実感したからだ。むしろ、前年の暮れに、銀行が私の個人保証を外してくれたときの方が、何か呪いが解けたようで、すっきりした気持ちだった。経営者としてよりも、技術者時代にスケジュール管理システムを開発して受託先企業から社長賞を頂いた時の方が素直に嬉しかったかもしれない。今後とも、社会的な責任を感じながら、経営に取り組んでいきたい。

おわり

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