建設プロジェクトの発注者が、昔ながらの「施主」と、採算重視の「投資家」の大きく二つのタイプに分かれてきている。この違いは、なぜ生じてきたのか。建設プロジェクトに投入される資金の出所とその性格が、ここに来て大きく変化しようとしていることが原因だ。

 先日、野村不動産の中野淳一社長(注・2007年死去)の話を聞く機会があった。野村不動産は、ご存知のように、総合不動産会社では業界第5位の規模を誇る大手デベロッパーである。未上場会社(注・2006年10月に東証一部に上場)ではあるが、野村証券グループの一社として信用力も非常に高い。その野村不動産が、不動産投資の資金を「最近は全てノンリコースローンで調達している」という。 ◆ノンリコースローン=「非遡及型融資」という訳が付けられている金融用語。対象案件で設定した担保以上に、返済義務が発生しない融資のこと。金融機関は、金利をその分高めに設定したり、プロジェクトが成功した場合に成功報酬を受けたりする。

 「何も、高い金利を払ってノンリコースローンを利用する理由はない。通常のローンの方が、今の低金利の恩恵を十分に受けられる」―つい2年ほど前まで、三井不動産や三菱地所などの大手デベロッパーはそう口を揃えていた。まさに劇的な変化である。金融機関の担当者に聞いても「ノンリコースローンが増え始めたのは99年の秋ぐらいから」(さくら銀行)というから、つい最近の動きだと言えるだろう。

 企業が高い金利を払ってでもノンリコースローンの利用する最大のメリットは「オフバランス」にある。通常のローンだと、バランスシートの「負債の部」の短期借入金や長期借入金の欄に記載する必要がある。ノンリコースでは対象事業が失敗した場合のリスクが確定しているため、バランスシートから外すことが認められているからだ。

 いまや、企業経営にとってバランスシートの健全化は最重要課題だ。国際会計制度が導入されたことで、あらゆる業種の企業が有利子負債の圧縮を進めている。将来的に株式上場をめざしている野村不動産でも、有利子負債圧縮は当面の重要課題。手持ちの不動産を売却して有利子負債圧縮に進める一方で、ノンリコースで資金を調達し、将来の企業成長に向けての投資を行っているのだ。

 リコース(遡及型)とノンリコースでは何が違うのか。リコースで調達した資金は、個人や企業の責任でどのように使おうが、金融機関としても基本的に何も文句をいう筋合いではない。給料が下がって住宅ローンの返済が苦しくなろうが、投資した事業が失敗しようが、融資全額の返済義務は借りた側にある。

 しかし、ノンリコースでは、金融機関にもリスクが発生する。例えば、担保となっている建物に大きな欠陥があって融資した資金を全て回収できなかったとしても、不足分は金融機関の責任。そのリスクを低減するには、投資対象事業を自らチェックせざるを得ない。つまり、第三者(金融機関=投資家)が、建設プロジェクトそのものに直接関わってくるということになる。 (第3回につづく)

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