【コラム】自民党政権時代に埋もれていた情報をいかに発掘するか―メディアにも求められる変革(2009-09-12)

昔から「二者択一を迫られる」のが苦手だった。「賛成か反対か、手を挙げなさい!」と学校の先生に言われても、どちらにも手を挙げないことが多かった。何も考えていないわけではない。与えられた情報だけですぐに判断するのが何となく怖かったからだ。じっくりと調べて納得したうえで賛否を決めたいのに、「さあ、どっち。ぐずぐずしないで、早く決めなさい」と言われると、嫌悪感すら覚えてしまう。8月30日の衆院選挙で、国民は政権交代は選択したが、メディアも成果を焦る必要はない。まずは自民党政権時代の政策と予算を徹底的に解析し、まずは国民に出来るだけ多くの情報を提供することである。

選択」に必要な情報をいかに提供するか?

 賛成か反対か―多数決で決めることが民主主義であると教えられてきた。結果的にどちらが正しいかどうかは別として、「多数決で決まったことだから…」と言えば、反対している人たちも説得しやすい。これを逆手に取って、人を説得するときの常套手段が「二者択一を迫る」というやり方である。

 テレビの街頭インタビューでも、AとBのどちらかにシールを貼り付けさせて画面に映せば、一目瞭然。女性アナウンサーがニコッと笑いながら「街の声を聞くと、こういう結果になりました」と言えば、思わず納得してしまいそうになる。どこでも一般的に使われている手法だ。

 世の中の様々な事象について、誰もが詳しい情報を持っているわけではない。それでも五感で得られる情報をベースに、その場その場で判断しながら人間は生きている。与えられた情報だけで二者択一に迫られることは、普段からもよくある。

 しかし、その結果は、与えられた情報の内容や質によって簡単に変わってしまう。新聞記者は、与えられている情報が正しい判断を下すのに十分なものであるかどうか、何か不都合な情報が隠されていないのか―などを調べるのが商売だ。たとえ相手が総理大臣でも、情報を得るためなら失礼な質問を行うのが仕事である。

「教えてください」で得られる情報とは?

 長年、自民党政権が続いたのも、メディアの情報発掘力が脆弱だったからかもしれない。最近、某大手新聞が、取材相手にしつこく食い下がって「教えてください」を連発するテレビコマーシャルを放映しているが、「教えてください」と言って、不都合な情報までしゃべってくれる相手など、私が知る限りでは皆無である。

 元上司だった自動車ジャーナリストの池原照雄氏も、最近の記者会見で連発される記者の「教えてください」を問題視する記事を08年10月に日経ビジネスオンラインで執筆していた。全く同感である。別に記者会見で偉そうに質問する必要もないが、相手から何とか本音を引き出そうとするなら、「教えてください」は記者の口から出てこないのではあるまいか。

 ただ、いくら記者が鋭い質問をぶつけても、当事者にとって不都合な情報を引き出すのは容易ではない。都合の悪い質問には「ノーコメント」。それでも、ライバル企業だったり、下請け業者だったり、そして内部告発者だったりする人から情報を得ながら、地下に隠れた情報鉱脈を探り当てる。そうした地道な作業に明け暮れても、何ら権力や権限のない記者が発掘できる情報は限られている。

政権交代によるビックチャンスをメディアはどう生かすか?

 大きな地殻変動が起きて、地面が隆起したりすると地下に眠っていた遺跡や化石が地表に出てきて思わぬ大発見が生まれることがある。50年以上も自民党政権が続き、権力構造の地殻変動がなかったために、埋もれたままの情報もかなり多いはず。今回の政権交代で最も期待するのは、埋もれていた情報が地表に浮かび上がってくることだ。

 半世紀振りに訪れたビックチャンスに、現役記者諸氏には、埋もれていた情報を徹底的に発掘することを期待したい。それらの情報がきちんと提供されることで、国民も政策の転換を行うべきかどうかを、冷静にかつ客観的に判断できるようになるはずだ。

 衆院選挙の結果が出た後、正式に民主党を中心とした連立政権が発足する前から、民主党のマニフェストに書かれた政策に対する反対運動があちらこちらで始まっている。政権交代が行われて、前政権の政策が無条件に継続されることなどあり得ないと思うのだが、”お上”意識の強い日本人にとって政権が代わっても国は国であるらしい。しかし、国民にとっては八ツ場ダムの建設問題も、高速道路建設問題も判らないことだらけである。

 今の段階で、高速道路無料化の是非を国民に問えば、無料化反対が過半数を超えるたのは当然の結果かもしれない。私自身も、いま与えられた情報だけで判断すれば、無料化は「ちょっと無理があるなあ…」と思ってしまうが、上手い実現方法があるのなら、別に反対はしない。むしろ高速道路の無料化議論を突破口に、航空・海運、鉄道・バスも含めて日本の交通・物流コストの低減、公共交通機関のあり方などを抜本的に見直すというのであれば、大賛成である。

 八ツ場ダムの建設中止問題では、ダム計画に翻弄されてきた地元住民の姿をテレビなどが盛んに報道し始めている。そうした声を聞けば気の毒だとは思うが、なぜ50年以上もかかってダムが完成しなかったのかである。工事もかなり進んで中止した方が無駄との声も聞くが、それを鵜呑みにするわけにもいかないだろう。

 さて、日本のメディアは、今回の政権交代によってどう変わっていくだろうか。自民党政権時代と同じように政局中心の取材姿勢を続けていたら、自民党と同様に国民から見放されてしまうかもしれない。国民が政権交代を選択したのは、日本という国を本気で変えようという意思表示のはずである。政局よりも、政策。その一歩として、自民党政権時代の政策や予算を徹底的に解析して、どこに問題があったのか、何をどう変えるべきなのかを、国民に判りやすく示していくことが重要だと思うのである。