【建設】建設業界は自民党と運命を共にするのか?―公共事業を政治の道具にする時代に終止符を!(2009-07-28)

 「公共事業費の大幅削減を打ち出している政党と、何を話し合う必要があるのか!」―建設業界が厳しく批判してきた民主党から、8月30日の総選挙に向けたマニフェストが公表された。政治とは所詮、利権の争奪であるとは言え、公共事業費削減による経済、雇用への影響を説明しないまま、公共事業費が狙い撃ちにされた格好だ。民主党によれば今年度の国の公共事業予算7.9兆円のうち16%が無駄というわけだが、建設業界としても総選挙に向けて言うべきことを正々堂々と主張するべきだろう。同時に、国民生活に直結する公共事業を、政治献金や選挙応援の見返りといった”政治の道具”としてきたことを反省する必要があるのではないか。客観的なデータに基づいて必要な公共事業が着実に実施されることが、国民だけでなく、建設業界にとっても望ましいはずである。

選挙の結果が出るまでは民主党を相手にせず?

 「総選挙が近づくなか『民主党への働きかけはしないのか?』と聞いたのだが、『別にするつもりはない』という答えしか返ってこない。したたかな業界だから、何もやっていないわけはないと思うのだが…」―国土交通省のある幹部も、建設業界の対応ぶりに首を傾げていた。私もマニフェストが公表される前に業界団体や大手ゼネコンなどに問い合わせてみたが、どこも口を揃えて「とくに何もしていない」との答え。選挙の結果がでるまでは、民主党を相手にせずとの姿勢を貫くのだろうか。

 確かに今の民主党に対して建設業界が何を言っても無駄という印象はある。そうであれば、選挙の結果が出る前に下手に動いて、自民党の機嫌を損ねるよりも、これまで通りに信義を貫く方が、信頼が置ける業界と評価されると考えているようだ。しかし、公共工事が大幅に削減されることになって苦しむのは、公共工事比率が低い大手ゼネコンよりも、地方ゼネコンや建設業界で働く労働者たちである。国交省幹部が心配していたのも無理はない。

 建設業界のなかには、今年度予算は補正も含めて動き出しており、選挙の結果が出てから動いても遅くはないとの判断もあるのだろう。来年秋には参院選挙も控えており、地方経済の現状を考えれば、民主党もそう簡単には公共事業費を削減できないと高を括っているのかもしれない。そうは言っても、マニフェストで公共事業費の削減が書き込まれてしまった以上は、政権交代に備えて対策を練っておく必要はあるだろう。

選挙に勝ったマニフェストの重み

 岩手県知事だった増田寛也氏にインタビューしたとき、マニフェストに関して興味深いエピソードを聞いた。増田さんは、3期目の2003年の選挙で、財政再建を進めるために公共事業費の3割削減をマニフェストに掲げて当選したが、初登庁した日には指示を出す前に土木部長が公共事業費を3割削減した予算案を持ってきたというのである。

 岩手県の土木部長の対応は、役人としては当然の行為であるだろう。公共事業費3割削減とマニフェストに掲げて当選した知事のところに、3割削減しない予算案を持っていけば土木部長は罷免されるだけのことである。マニフェストに具体的な内容が書き込まれてしまうと、さすがに役所としても逃げようがなくなってしまうようだ。

 民主党のマニフェストも、政権を取れば、同様に国土交通省でも全く無視した予算案をつくるわけにもいかなくなるだろう。今年7月の首脳人事について「道路畑出身の技術官僚である谷口博昭新事務次官が民主党と衝突した場合に備えて、竹歳誠国土交通審議官を留任させた」と新聞などでも解説していたが、下手に民主党と衝突すれば、これまで技術官僚が死守してきた事務次官のポストを失うことにもなりかねない。

成長ビジョンを掲げて戦略的な公共投資の議論を!

 国内建設投資のうち公共部門の投資額は、90年代には30兆円規模を維持していたが、小泉政権の発足以降は削減され続け、2008年度には17兆円台まで減らされてしまった。すでに3分の1以上の削減が実施されているにも関わらず、公共事業に対して無駄との批判は収まらない。今年に入っても西松建設による政治献金問題や、公共工事をめぐる千葉市長などの贈収賄事件で、建設業界が相変わらず甘い汁を吸っている業界だと思われているからなのだろうか。

 建設業界としては、ひたすら自民党の勝利を信じて総選挙を戦うことになるのだろうが、請負業にとっては政権を取った方が公共工事の大事な「お施主様」である。これまでは自民党政権が続いてきたから、自民党べったりでも問題はなかったが、民主党が政権を取れば、来年秋の参院選挙ではお施主様を無視して、自民党だけを応援するわけにもいくまい。政権交代がいつでも起こりうる政治情勢が定着すると、業界が一枚岩で特定の政党だけを応援することも難しくなるように思える。

 将来の成長ビジョンを掲げて、戦略的な公共投資を選挙を通じて議論するのは国民としても歓迎するだろう。しかし、わざわざ選挙の場で、公共事業の無駄かどうかを議論しなければならない状況に、国民は失望しているのではないだろうか。選挙のたびに政治的な思惑で公共事業のあり方が左右されるのは、建設業界にとっても決して良いことではない。