国土交通省が3月31日、「地域建設業の振興に係る緊急対策」をまとめて公表した。週刊エコノミスト3月23日発売号に掲載した記事でも大都市圏に進出した地方ゼネコンの倒産について触れたが、地域建設業を取り巻く厳しい環境を考えれば緊急避難的な措置も必要ではあるだろう。しかし、問題はその先の将来像をどう描くのか―。90年代のように公共事業が大盤振る舞いされていた時代に戻ることは考えられないだけに、ただ救済するだけで再生するのは難しいだろう。思い切った発想の転換が必要なのではあるまいか。

◆最近の「主なゼネコン倒産一覧」(2007〜2008年度)を掲載しました。

増加傾向が続くゼネコンの経営破たん

 週刊エコノミストから記事執筆の依頼があったのは3月2日のこと。昨年春頃から頻発している「中堅ゼネコンの倒産についてまとめてほしい」との依頼内容だったが、話を聞くと記事の後半では長谷工コーポレーションを取り上げてほしいという。なぜ長谷工なのかははっきりと言わないのだが、市場関係者の間で「りそな案件が要注意」との情報が流れていたらしい。

 いくら金融機関の貸し渋りが原因で資金繰りに詰まって倒産する企業が増えているとは言え、銀行も残すべき企業とそうでない企業は選別しているはずである。このブログでも07年7月に「上場ゼネコンの不良債権問題への対応(表)」で、2005年10月に三井住友建設とフジタが債務免除を受けた事例までを年表にまとめて掲載した。その後2年間、主要ゼネコンの倒産や私的整理はなかったが、2007年9月のみらい建設グループの民事再生法申請以降、ゼネコン倒産が再び増加している。

◆主なゼネコン倒産一覧(2007〜2008年度)

 年  月  企業名  支援内容  金額
 2007年  9月  みらい建設グループ(東証1部)  民事再生  162
 2008年  5月  四国開発(高知市)  民事再生   56
   6月  林建設工業(富山市)  民事再生   66
     ジェーオー建設(兵庫県)  民事再生   63
   7月  真柄建設(東証1部)(金沢市)  民事再生  348
     堀田建設(松山市)  民事再生  110
     北野組(旭川市)  自己破産  118
     三平建設(JQ)  民事再生  164
     多田建設(東京都)  会社更生  179
     肥海建設(広島市)  民事再生   40
   8月   後藤組(大分市)  民事再生   73
     志多組(宮崎市)  民事再生  278
     創建ホームズ(東証1部)(H)  民事再生  338
     りんかい日産建設(非上場)  会社更生  757
  10月  新井組(東証1部)  民事再生  427
     井上工業(東証2部)(高崎市)  自己破産  125
     山崎建設(JQ)  会社更生  200
  11月  勝村建設(東京都)  民事再生   49
     オリエンタル白石(東証1部)  会社更生  605
  12月   松本建工(JQ)北海道(H)  民事再生  135
 2009年  1月  小川建設(東京都)  民事再生  190
     東新住建(JQ)愛知県(H)  民事再生  430
     富士ハウス(浜松市)(H)  自己破産  638
     平和奥田(滋賀県)  民事再生   76
   2月  あおみ建設(東証1部)  会社更生  396
     木原建設(福井県)  民事再生  121

注)金額は負債総額、億円。 (H)は戸建住宅メーカー。

 表にまとめると、この1年半に経営破たんしたゼネコンは、大きく3つのグループの分けられることが判る。第1グループは海洋土木工事を得意とするマリコン、第2グループが地方の有力ゼネコン、第3グループが過去に法的整理、私的整理で債務免除を受けて再建したゼネコンである。商業雑誌向けの記事だったので「出稼ぎゼネコン」「出戻りゼネコン」という表現を使ってみたが、改めて実感したのはゼネコンの再建はそう簡単ではないということだ。

 97年〜05年の一覧表に掲載したゼネコンは31社だが、うち法的整理に追い込まれた上場ゼネコンは18社に達する。07年以降の一覧表で、法的整理となった上場ゼネコンは6社。上場ゼネコンの倒産数は24社になったが、破産手続きに入った井上工業を除けば、いずれも会社を再建して、現在でも建設請負業を営んでいる。この事実だけを見れば、ゼネコンの再建はそれほど難しくないようにも見える。

 もともと建設業は参入障壁が低い。一度潰れても、工事を完成させる力量と実績にある技術者がいて、国土交通大臣または都道府県知事から建設業の許可を得られれば、再参入も可能だ。一般企業が倒産すると信用回復が容易ではないが、建設業の場合は、発注者は実績のない新規参入企業よりも、工事実績が豊富な業者の方を信頼する傾向がある。

地域の建設業をどう再生するのか

 ゼネコン大型倒産の先駆けともなった奈良県地盤の村本建設は、1993年に会社更生法を申請し、04年の会社更正手続終結まで10年がかりで会社を再建した。同社のホームページによると、ここ5年ほどは600億円程度の受注高を安定的に確保している。98年に会社更生法を申請した和歌山県地盤の淺川組も06年には更正手続終結し、やはり200億円規模の売上高を確保しているようだ。

 しかし、08年7月に3度目の法的整理に追い込まれた多田建設や、債務免除を受けたあと再び倒産した新井組、井上工業、勝村建設のように、再建したゼネコンが再び潰れる事例も出ている。他の産業なら「一度ならず二度までも…」というケースは稀だろう。2008年に入って倒産した真柄建設などの地方の有力ゼネコンも、地元に支えられて再建への道を歩むことになるのだろうが、問題は地元業者を養っていけるだけの工事量を今後も地方で確保できるかである。

 国交省が発表した緊急対策では、最初に公共工事における「適正価格での契約の推進」を打ち出した。談合防止対策の切り札として地方公共団体が推進してきた「予定価格の事前公表」を取りやめるよう指導するとともに、ダンピング(不当廉価受注)対策を充実することで、建設業者が利益を確保しやすい環境を整備するのが狙いのようだ。しかし、民間需要が激減し、公共工事の発注量も増えていない状況では、競争はむしろ激化する方向である。予定価格の事前公表を止めても、談合を容認するわけでなければ、ダンピング入札がなくなる保証はない。

建設業を複業化するのであれば…

 国交省では、08年度第二次補正予算に「建設業と地域の元気回復助成事業」35億円を計上し、事業参加の募集を3月から開始した。地域の建設業が、建設工事だけで生き残るのは難しいので、農業、林業、福祉、環境、観光などと連携して複業化を図ろうということらしい。これまでも国交省では建設業の新規分野への参入を後押ししてきたが、今回は地方公共団体とも協力して本腰を入れることになった。

 建設業者の複業化は、企業の経営基盤を強化する観点からも有効ではあるだろう。しかし、そこに踏み込むのであれば、建設業者だけでなく、行政側も複業化するべきではあるまいか。これまでも何度か指摘したことだが、公共事業費はピーク時に比べて半減しているのに、公共発注者の数が大幅に減っているという話を聞いたことがない。平成の大合併で市町村の数が減少した分は減ったが、地方整備局、都道府県、市町村別に、道路、河川、上・下水道、農業土木など分野ごとにバラバラに発注されている状況は相変わらずだ。

 電子自治体関連の取材で、年に数回は地方公共団体を取材する機会があるが、毎回感じるのは、地方の職員に縦割り意識はなくとも、中央官庁の組織に合わせて業務は縦割りにならざるを得ないということだ。先日も、人口約20万人の市を取材したが、住民記録、市県民税、軽自動車税、固定資産税などの総合行政システムで26。児童手当、こども医療、介護などその他行政システムで24。住民基本台帳などの基幹業務システムを含めると51もの情報システムを情報推進課で管理。その他に部門ごとに管理しているシステムが20近くある。しかもこれらのシステムが相互連携することなど、中央官庁は全く考慮していないので管理するだけでも大変である。

公共発注者自らが変わることの重要性

 公共工事の発注も、道路舗装工事を行うのと一緒に、下水管の取替え工事や共同講の敷設工事なども連携して行うことができれば、無駄が省けて効率化が進むと誰もが考えるだろう。自動車や家電製品のようにマスマーケティングが通用しにくい建設市場では、発注者の数や工事発注件数と、請負業者の数には相関関係があると考えられる。公共事業費は同じでも、公共発注者の数が減れば、発注業務の効率化が図られ、建設業者もそれに合わせてスケールメリットを発揮できる体制へと変化していくはずである。

 地域の元気回復事業の目玉である”林建共働”にしても、国交省と農水省(林野庁)の共働がどこまで機能するのか。関係する行政機関の数が増えた分だけ、民間業者の手間も増えるようでは”共働”の効果を最大限に発揮することも難しいだろう。地域の建設業に最も大きな影響力を持つ公共発注者が自ら変わることが、地域の建設業に将来のビジョンを示し、変革をもたらすことになると考える。

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