ゼネコン大手の鹿島や家電の三洋電機など上場オーナー系企業のトップ交代で予想外の人事が相次いでいる。堤義明氏による西武グループ支配などで、オーナー経営に対する社会の評価も厳しくなっていることが、同じオーナー系企業の後継者選びにも影を落としていると言えそうだ。

 「えっ、社長は渥美さんじゃないの?」―建設業界に思わず驚きの声が上がったのが、業界の盟主と言われてきた鹿島が4月8日発表した社長交代だ。昨年から建設業界紙などではオーナー家である鹿島一族の一人、渥美直紀副社長(56歳)の社長就任が既成事実として報じられてきただけに、他の大手ゼネコンも「鹿島内部で何が起こったのか?」と、情報収集に奔走させられることになった。

 次期社長に指名されたのは、中村満義専務営業本部長(62歳)。早くから営業部門で頭角を現し、梅田貞夫社長(70歳)が就任したときの広報室長、オーナー家からの信頼も厚いと言われ、以前から有力な社長候補の一人ではあった。

 しかし、渥美副社長もいつ社長に就任してもおかしくない年齢となっているだけに、「渥美社長、中村筆頭副社長の新体制は間違いない」(業界筋)と見られてきた。予想外の人事に「鹿島本家、渥美家、石川家の鹿島一族に異変でもあったのか?」(大手ゼネコン幹部)と、訝る声も聞かれたほどだ。

 しかし、記者会見の席上で、梅田社長は、渥美氏を社長に選ばなかった理由を聞かれ、思わず「まだ、若いし、引き続き企画本部長として勉強してもらおうと考えている」と本音をポロリ。次の次の社長は渥美氏であることを強く匂わせたのである。

 今回の社長交代は、梅田氏が日本建設業団体連合会の会長に就任するため業界の慣例に従い社長退任が先に決まっていた。本来なら、すんなりと創業一族である渥美氏への“大政奉還”に踏み切りたかったところだが、何らかの事情で先送りせざるを得なかったと見るのが妥当だろう。

 鹿島の大政奉還先送りに影響を及ぼしたとみられるのが、トヨタ自動車の創業家である豊田家の動きだ。日本のオーナー系企業で最も成功しているトヨタ自動車は、他のオーナー系企業としても一番気になる存在であることは間違いない。

 そのトヨタ自動車が2月に早々と、創業家への大政奉還を断念してしまったのだ。奥田碩会長(72)が社長定年を65歳に定めたこともあって、張富士夫社長(68)のあとは、一気に豊田家の嫡男である豊田章男専務(48歳)へと飛ぶとの見方が急浮上。いよいよ大政奉還か、と注目が集まっていた。

 しかし、後継に指名されたのは、下馬評で大穴とみられていた渡辺捷昭副社長(62)。「まだ、時期尚早」(業界筋)とみて、年齢的に長期政権は難しい渡辺氏が中継ぎ役となって章男氏にバトンタッチするタイミングを計る作戦に出たようだ。

 オーナー経営に対する逆風の中で、敢えて世襲を強行したのが、三洋電機だ。鹿島と同じ日に、井植敏雅副社長(42)が、社長兼最高執行責任者(COO)に昇格する人事を発表したが、何とジャーナリスト出身の野中ともよ氏(50)の会長兼最高経営責任者(CEO)起用する仰天人事で、大政奉還の話題もすっかり霞んでしまった。「世襲批判をかわすための目くらまし」との厳しい論評が出るのも仕方のないところだろう。

 その点、目立たずに事実上の世襲を果たしたのが、同じ大手ゼネコンの大林組だ。社長を経ずに副会長に“棚上げ”しておいた創業一族の大林剛郎氏(50)を二年前に会長に昇格。今月七日に発表になった向笠慎二社長(71)から脇村典夫副社長(65)への社長交代に合わせて、剛郎氏がCEOに就任したのだ。これまでは日本卓球協会会長など財界・社会活動ばかりで経営にはほとんどタッチしていない印象だったが、一気に経営の表舞台に登場してきた。

 果たして大政奉還を先送りしたトヨタ自動車、鹿島が、この先、上場企業として多くの株主からも評価されるような“世襲”を実現できるのか?それとも、三洋電機、大林組のように周囲を驚かせるような奇策を講じることになるのか?ここしばらく、上場オーナー系企業にとって後継者問題では、社会的な評価に神経を尖らせることになりそうだ。

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