「不動産ファンドが果たしてきた役割は、80年代バブル期の土地転がしと同じだったのではないか?」―サブプライム問題をきっかけに急激に収縮した日本の不動産投資市場に対して、そんな厳しい意見が出ている。不動産証券化も本来は、より良い”まちづくり”を支援する道具であるはず。ところが、投資利回りばかりに目を奪われて、かつての土地転がしと同じカネ儲けの道具になっていたとの見方だ。「日本の不動産市場のファンダメンタルズは悪くない。J-REITも底を打って回復する」(大手不動産幹部)との声も聞こえてくるが、不動産ファンドが果たすべき役割を改めて考えることが先決ではあるまいか。
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不動産ファンドの急成長はいつまで続くのか
」(2005-09-29:日経BPnet)
米国住宅の価格安定化政策が不可欠―国際土地政策フォーラムで米ウィスコンシン大教授が講演
」(2008-10-29:REJAニュース)

不動産投資市場から投資マネーが逃げ出した

 11月3日付けに日本経済新聞の1面に、サブプライム問題に端を発した金融危機によって世界のREIT(不動産投資信託)市場の時価総額が2007年5月末のピーク時に比べて7割近く減少したとの記事が掲載された。金融危機による信用収縮で投資家の換金売りが相次いでいることが原因と分析している。REITの下落は、日本のJ-REITだけの現象ではないようだ。

 もともと不動産証券化は、個人投資家などが手を出しにくい不動産に対する投資を呼び込むための手法として開発された。日本への導入も、バブル崩壊で冷え込んだ不動産投資を活性化させて、金融機関が抱える不良債権処理を促進することが最大の狙いだった。

 証券化によって投資しやすくなった分、逆に換金もしやすくなったのは間違いない。今回のような金融危機が生じれば、株式市場と同様に一気に不動産市場からも資金が流出するリスクはあったと言える。いずれ金融不安が解消されれば、不動産投資市場にも投資マネーは戻ってくるだろうが、問題はいつになるかである。

不動産という資産をどう位置づけるべきか?

 不動産はこれまでインフレヘッジのための長期保有目的の資産であると言わてきた。日本にJ-REITが登場したときもミドルリスクミドルリターンの金融商品との触れ込みだったはずである。しかし、現状では、不動産も株式と同じように金融情勢の変化によって価格が乱高下するような資産に変貌してしまったように見える。石油など天然資源も投機の対象となる時代ではあるが、果たして不動産という資産をそのように扱って良いのだろうか?

 80年代バブル期の地価高騰では、一般サラリーマンの年収ではとても購入できないほど住宅価格が上昇して大きな社会問題となった。その後、バブル崩壊で地価が下落し、90年代後半にはマンションブームが到来したが、一方で住宅の含み損を抱えて苦労したサラリーマン世帯も少なくなかったはずである。

 そのマンションブームも、再び地価上昇によって消費者が手が出せないほどに販売価格がアップして、2007年秋に終えんを迎えた。まさに80年代バブル期と同じ失敗を繰り返したわけで、これほど短期間に地価が乱高下するような状況では、消費者も安心して住宅投資を行えないのではないだろうか。

地域活性化のための不動産投資に投資マネーは活用できるのか?

 国土交通省が今年10月28日に開催した第15回国際土地政策フォーラムは、「不動産投資が地域の活性化に果たすべき役割」がテーマとなった。不動産証券化手法を使って地方に不動産投資を呼び込むことで、少しでも地域格差の是正につなげようとの思惑でテーマを設定したのだろう。

 その成功事例として招待された英国リバプール市のまちづくり開発会社の責任者は、活性化しつつあったリバプール市でも、金融危機によって「後退が始まった」と証言。「地方の不動産市場も世界の経済要因から切り離すことはできない。長期的な持続可能性(サステナビリティ)という難関を突破するのは難しい」との認識を示した。不動産証券化手法を駆使して地方に不動産投資を呼び込んでも、今回のような事態になれば簡単に投資マネーは逃げていく。

再び過度なな資金の提供でバブルを演出した金融機関

 「本来、不動産開発を行うための資金を集めるのが不動産証券化の目的であるはずだが、カネ儲けが目的になってしまった」―同フォーラムでは、東洋大学大学院の根本祐二教授の発言が印象的だった。私自身も以前から不動産ファンドの急成長には違和感を感じていた。そのことは3年前に日経BPnetに掲載したコラムに書いたが、いくら「収益性に基づいて取引を行っている」と言われても、やっていることは80年代バブル期とあまり違わないように思えたからである。

 本来なら投資商品にならないような不動産物件でも、過度なレバレッジをかけることで、高利回りの金融商品に仕立てて投資家に売りまくる。冒頭の発言も、バブル期に不動産を担保に金融機関が過剰な資金を提供して土地転がしが行われたのを彷彿させるという意味なのだろう。

不動産不況はいつまで続くのか?

 今年9月11、12日、リーマンブラザーズが経営破たん(9月15日)する直前という絶妙のタイミングで、ARES(不動産証券化協会)不動産投資国際フォーラムが東京・六本木の東京ミッドタウンで開催された。出席した岩沙弘道ARES理事長(三井不動産社長)は、記者たちのぶら下がり取材で、「日本の不動産市場のファンダメンタルズは悪くない」ことを盛んに強調していたが、金融危機の影響で東証リート指数は10月6日にはついに1000ポイントを割り込み、その後も700ポイント台を低迷している。

 冒頭の「底を打つ」との発言も、明確な根拠があるかどうかは判らない。バブル崩壊後も、下落し続ける地価について、不動産業界ではGDP成長のグラフを重ねあわせるなどして、盛んに「地価が下がりすぎている」とのキャンペーンを展開したが、結局のところ地価は下げ止まらなかった。9月26日に日本不動産ジャーナリスト会議(REJA)で講演したリクルート創業者の江副浩正氏は「今回の不動産不況は10年以上続き、バブル後より厳しくなる」と述べた。果たしてどちらの予想が当るだろうか。

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