利害が一致せずにバラバラな建設業界
建設業界を取材していると「公共事業費を増やして社会資本整備の充実を!」といった要望やお願い事は良く聞くのだが、建設業の健全な発展のために「競争の促進を!」といった提言をほとんど聞いたことがない。「公共事業費を増やす」ことでは業界全体の利害が一致しても、それ以外の問題となると業界がバラバラでまとまらないからだ。
建設業は、大手ゼネコンから中堅、中小の建設業者、専門工事業者、設計・コンサルタント会社など様々な業態の企業で構成されている。元請業者として建設工事を請け負うには、建設業許可業者の登録が必要となるが、その種類は特定建設業許可業者か、一般建設業許可業者の2つしかなく、元請となってしまえば大手も中小も関係ない。地場の中小業者が元請になって、大手が下請けで工事を行うことも珍しくない業界である。
なぜ、建設業許可業者は50万社にも増えてしまったのか?
なぜ、設計・コンサルタント会社への設計と施工の分離発注が行われてきたのか?
なぜ、下請け業者の重層化が進んでしまったのか?
これらの問題は、これまでも業界内で散々、議論されてきた。例えば、建設業者の数が増えたのは、中小業者の保護のため官公需法によって中小業者への発注量が維持されてきたのが最大の要因だろう。大手・中堅ゼネコンは、効率的な社会資本整備を推進するためには官公需法の過度な運用を是正すべき!と主張するが、中小業者は官公需法の堅持を主張して一歩も譲らない。自ら設計部隊を抱える大手ゼネコンは、設計と施工の分離発注についても一括で発注するデザインビルド方式の拡大を主張するが、もちろん設計・コンサルタント会社は透明性確保の重要性を訴えて猛反発する。
最後はお上が登場してお裁きを下すのだが…
専門工事業者は、下請け業者の重層化を防止するために、着工前に工事に参加する下請け業者を確定するオープンブック方式(施工体制事前提出方式)の導入を求めているが、ゼネコン側は全く相手にしない。理由はおそらく下請け叩きがやりにくくなるからだろう。労務費の支払いも、発注者から元請業者ではなく、作業員を提供した下請け業者に直接支払う方が労働者の保護になると言われているが、ほとんど議論にならない。
経営事項審査の評価や入札制度改革のあり方などを含めて、いずれの論点とも私が建設業界を取材し始めた10年以上前から繰り返し指摘されているものばかりである。しかし、建設業界の誰も真剣になって解決しようとしない。自らの利益を主張するばかりで、ゼネコン経営者が建設業の将来のあるべき姿を語ったなど聞いたことがないのである。
結局はお上が登場してきて、業界全体に配慮したような”お裁き”を下して、お茶を濁す。名奉行・大岡越前のテレビドラマのような三方一両損ならまだ良いのだが、何やら二方損一方得になることも…。
ギリギリまで改革を先送りした産業の行く末はどうなるのか?
「もう一切構わずに、潰れるだけ潰してしまえば、正常な状態に戻る」―先日、ある有識者からそんな突き放した意見を聞いた。地方経済が混乱すると猛烈な反発があるだろうが、需要があって儲かる思えば、新たに商売を始める起業家は必ず出てくるもの。確かにそれほど心配する必要もないのかもしれない。
ただ、往々にして政治や役所は自分たちの権益を維持・強化しようと余計なことをしたがる。お節介にも、私が「お上に頼らずに、建設業の再生は自ら成し遂げるしかない」と言い続けるのは、お上に頼ろうとすると、改正建築基準法のように余計な法律によって企業活動が規制されたり、業界全体への配慮から出る杭は打たれたりすることを心配するからである。
建設業はバブル崩壊後、必要な改革を先送りしてサボタージュし続けてきた。その間に建設業を取り巻く環境は大きく変化し、国内建設市場は4割も縮小した。今回の不動産不況が2年ぐらい続き、その間に余計なことをしなければ、かなりの数の建設業者が淘汰されていくことになるだろう。ギリギリまで改革を先送りしてきた結末がどうなるのか―。その象徴的な産業に建設業はなるかもしれない。
改革にリスクがあるのは当たり前―どう成功させるかが重要に
最近は、改革という言葉が政治の世界ではタブーになっているようだが、このブログでも書いたように”小泉改革”ではまず破壊することを優先してきた。あとは役人に丸投げして外側だけ変えただけで、それを”改革”と言われても困る。本当に必要な改革を先送りしたまま急激な少子高齢化社会に突入すれば、財政破たんした夕張のような自治体や、働く人が希望を持てない建設業のような産業が日本中に広がっていくことになるだろう。
1年半前にこのブログで、2010年頃に大手ゼネコンを含む業界再編が起こるかもしれないと書いた。その可能性は徐々に高まってきているのではあるまいか。
大成建設は9月25日、2009年3月期の業績予想を大幅に下方修正した。営業利益で500億円悪化し、最終利益は170億円の黒字から、130億円の赤字に転落する。海外の建設工事の採算悪化が原因と説明しているが、海外工事が日本のゼネコンにとってリスクが高いことは当初から判っていたことである。どの工事で採算が悪化したかは明らかではないが、2004年に着工して2009年に完成予定のトルコ・ボスポラス海峡トンネル工事は当初から大成建設の落札額では400億円程度の赤字は免れないと業界内では言われてきた。
最初からリスクが高いと判っていて海外事業を拡大しているのならば、「当然、それなりの勝算と秘策があるのだろう」と株主は期待していたかもしれない。そうした人たちからは今回の大幅赤字で経営陣への批判が出てくるだろうが、大企業が自らを変革していくには思い切った取り組みが不可欠である。それがすんなりと成功するほど甘いものではないことは覚悟の上だろう。
日本の大手ゼネコンにとって、海外事業の拡大が避けては通れない課題であるならば、それを石に噛り付いても成功させるためにどうするかである。単独での海外事業の拡大が難しいのであれば、以前から業務提携関係にある米ベクテルとの合併といった思い切った戦略も考えられる。いずれにしても今後2年間が建設業にとって大きな正念場となるのは間違いない。