【不動産】不動産業界から初めて日本経団連の副会長が選出される意義とは?(2008-04-30)

 「経団連の会長・副会長には、株屋(証券会社)、土建屋(建設会社)、地上げ屋(不動産会社)から選ばれることはない」―バブル時代に先輩記者からそう教わっていた不動産業界から初めて三井不動産の岩沙弘道社長が、日本経済団体連合会の副会長に5月28日付けで就任することになった。財界総本山の威光もかつてほどではなくなったと言え、岩沙さんが副会長に選ばれたのは不動産業が日本経済のリーディング産業の1つに認められた証明でもあるだろう。その重みを岩沙さんと三井不動産は当然、承知していると思うが、果たして不動産業界全体がどこまで認識しているだろうか。

 新聞社に入社した80年代当時、経済関係だけでなかりの数の記者クラブがあった。記者は、業界別、分野別に担当が決められ、該当する記者クラブに配属されて、そこを拠点に取材活動で行っていた。私も、今は廃止された経団連機械クラブを最初に、日銀クラブ、自動車産業記者クラブ、建設省クラブ(現・国土交通記者会)と渡り歩いたが、なかでもユニークだったのが財界クラブだった。 (文章末に参考までに主な経済系の記者クラブの一覧表を掲載)

 財界クラブには、どの新聞社でも編集委員クラスのベテラン記者を配置していた。日本を代表する企業のトップが集まる経団連の取材は、若手記者では務まらないということなのだろう。日本不動産ジャーナリスト会議(REJA)代表幹事でお世話になっている元・朝日新聞の阿部和義さんも、しばらく財界クラブに在籍していたと聞く。私は残念ながら財界クラブの経験はなかったが、それでも財界関連の取材をする機会は少なくなかった。

 80年代に担当した電機・情報通信業界には、東芝会長の佐波正一さんや青井舒一さん、NEC社長の関本忠弘さん、ソニー会長の盛田昭夫さんがいたし、バブル崩壊直後の金融業界でも三菱銀行会長の伊夫伎一雄さん、住友銀行最高顧問の伊部恭之助さん、富士銀行相談役の岩佐凱実さん、日本興業銀行会長の中村金夫さんらの経済人を取材した。

 93〜96年の自動車担当では、トヨタ自動車会長の豊田章一郎さんが経団連会長に就任した時(94年5月)に居合わせた。のちに経団連と日経連(日本経営者団体連盟)が統合した日本経団連の初代会長になる奥田碩さんはそのとき副社長で、章一郎さんをサポートして政界、官界とのパイプ役として忙しく走り回っていた。記者会見やパーティなどで奥田さんと会っても話題は永田町や霞ヶ関などが多かったと記憶している。

 それまで自動車業界で主に財界活動を担ってきたのは日産自動車だった。すでに事業規模ではトヨタは日産を圧倒していたが、閉鎖的な風土で自らの利益を優先する”三河モンロー主義”と揶揄する声も残っていた。そのトヨタが経団連会長に就任して大きく変身して徐々に評価も高まった。95年の日米自動車貿易摩擦の乗り越えて、グローバル企業として大きく飛躍する転機だったと言えるだろう。

 96年に自動車担当から旧建設省担当になると、パタッと財界の話題とは縁がなくなってしまった。住宅、不動産、建設業界には、業界人ではなく「経済人」として発言力のある人物がほとんどいなかったからである。ただ一人だけ、鹿島建設会長の石川六郎さんが日本商工会議所会頭に就任したことがあったが、93年のゼネコン汚職事件で鹿島副社長が逮捕されたあと辞任した(辞任理由として事件との関係は認めなかったと言われるが…)。

 90年に東京電力会長の平岩外四さんが経団連会長に就任したあと、証券業界から初めて野村証券会長の田淵節也さんを副会長に選任したことがあった。このときも就任して1年も経たずに損失補てん問題が発覚して辞任に追い込まれた。REJA代表幹事の阿部さんは、自らのブログで平岩さんに「株屋さんから副会長を選ぶのは危険だから止めた方が良い」とアドバイスしたと書いているが、その勘が当たってしまった。

 日本経団連は、2006年にキヤノン会長の御手洗富士夫さんが会長に就任。2007年7月に実に16年ぶりに野村ホールディングス会長の氏家純一さんを日本経団連副会長に選んだ。もう大きな不祥事は起こらないと思ったのかもしれないが、つい先日もM&Aに関する情報でインサイダー取引を行ったとして野村証券の社員が逮捕された。どの企業にも不心得者はいるもので、組織ぐるみの電力会社のデータ改ざん問題、生損保会社の保険金不払い問題、製造業の偽装請負問題よりはまだましと言えるかもしれないが…。

 そして今回、御手洗さんは不動産業界から初の副会長を選んだ。かつての野村証券や鹿島建設の二の舞となるようなことにはならないとは思うが、何かとトラブルが多いのが不動産ビジネスの宿命でもある。総会屋事件(97年)、回転ドア死亡事故(04年)、土壌汚染マンション問題(05年)、耐震強度偽装事件(05年)、そして全国で頻発するマンション建設を巡る景観問題など、あちらこちらで問題が生じている。

 三井不動産自身がこうしたトラブルとは無縁であっても、たまたま下請けで使った業者がトラブルを起こすなど、どこで足元を掬われるかは判らない。「だから地上げ屋は…」などと後ろ指を差されるような業界のままでは、これからの活躍が期待される岩沙さんとしてもやりにくかろう。

 ある不動産会社の仕事に携わるようになった私の友人が、世界58カ国の不動産業者の団体で組織する世界不動産連盟の世界会議に参加して、こんな感想をもらした。
 「海外の不動産会社の経営者は、都市計画の博士号を持つような超インテリ揃いで、プレゼンテーションの内容も素晴らしい。日本からの参加者は物見遊山で遊びにいく経営者ばかり。デベロッパーと地上げ屋の違いかなあ…」

 日本経団連の副会長に岩沙さんが選ばれたのを機に、不動産業が日本経済のリーディング産業として認知される業界へと飛躍していくことを期待したい。

【主な経済系記者クラブ一覧】
・名称(所在場所)主な担当分野
<経済政策全般>
・財政研究会(財務省)マクロ経済
・経済産業記者会(経産省)産業通商政策
・国土交通記者会(国交省)国土政策、公共投資
・厚生労働記者会(厚労省)労働政策
<金融政策・貿易関係>
・日銀クラブ(日銀)金融政策/銀行・保険
・兜倶楽部(東証)証券市場/証券会社
・貿易記者クラブ(ジェトロ)総合商社、貿易商社など
<産業別記者クラブ>
・農政クラブ(農林水産省)食料品
・国土交通記者会(国交省)建設、不動産、住宅、鉄道・運輸、観光
・総務省記者クラブ(総務省)通信、放送
・東商記者クラブ(東京商工会議所)卸・小売業、中小企業
・重工記者クラブ(鉄鋼会館)金属、化学、繊維、ゴム、紙、ガラス、化粧品、日用品、医薬品、アパレルなど
・エネルギー記者会(経団連会館)電力など
・経団連記者会財界クラブ(経団連会館)財界
・経団連機械クラブ=廃止(経団連会館)機械、電機、自動車、造船ほか
・自動車産業記者会(日本自動車会館)自動車
・情報通信記者会(西新橋)情報・通信
・ときわクラブ(JR東日本本社)旧国鉄クラブ
・葵クラブ=廃止(日比谷NTTビル)旧電電公社クラブ