【住宅】住宅産業とは何ぞや?―業界研究本の記事を脱稿(2008-02-25)

 今年1月中旬から取り掛かって忙殺されてきた業界研究の本の執筆から、ようやく脱出できた。住宅産業新聞の池上博史社長に勧められて「住宅産業」に関する業界研究本の執筆を昨年夏に引き受けていたのだが、本格的に書き始めたのは1月15日から。「年度内発行を!」とのプレッシャーがかかるなかで、何とか40日間で書き上げたが、正直しんどかった。中身的には業界紹介の本なので、目新しい話を書いたわけではないが、自分なりに戦後の住宅政策の変遷を判りやすくまとめたつもりなので、ぜひご覧いただければ幸いである。

 記事執筆を依頼されたのは、埼玉県で手広く学習塾経営を展開している栄光グループの出版社、産学社というところだ。業界研究本は、日経新聞や東洋経済、日本実業出版など多くの出版社が手がけているが、産学社でもシリーズ展開を始めている。当初は池上さんに執筆の依頼があったようだが、すでに日本実業出版社や東洋経済からも本を出しており、さすがに引き受けるわけにはいかなかったのだろう。私にお鉢が回ってきた。

 私自身、住宅政策や住宅問題には関心があったが、ハウスメーカーを中心とした住宅業界には正直言って、あまり興味がなかった。そのことは出版社の編集担当者にも最初に説明したが、先方も書き手を探すのが大変だったのかもしれない。私が考える住宅産業像を描いても良いという話だったので、引き受けた。

 結果的に、学生向けの業界研究本の内容をかなり逸脱した記事に仕上がってしまったようにも思う。また、かなりの短期間で書き上げたこともあり、十分に調べ尽くしていない部分もあったと思うが、何かの機会に調べられたらと思っている。

 記事を脱稿したあと、編集者から「本の最初に『はじめに』を掲載するので好きに書いてください」というので、本を執筆しているときに考えたことを簡単にまとめてみた。

 昨年10月からIT関連メディアのC-NETで経済産業省商務情報政策局の情報経済企画調査官で、私も親しくさせてもらっている村上敬亮氏がブログを書き始めていて、シャープの液晶パネルの生産拠点である亀山工場でのものづくりと、米アップル社の音楽・映像携帯端末「iPod」のものづくりを比較した「亀山」型か「iPod」型かという面白い産業論を展開している。『はじめに』では、この村上理論に便乗して「これから目指すべき住宅産業は「iPod」型住宅市場を形成していく産業ではないか?」と書いてみたが、果たして真意が伝わるか?

 最後に本の宣伝を兼ねて『はじめに』から抜粋を掲載する。

【はじめに】

 住宅産業の全体像を本にまとめてほしいと依頼されたときには正直、戸惑った。第一章の冒頭で書いたように、もともと住宅産業という産業分類は存在せず、最初に「住宅産業とは何ぞや!」から定義しなければならないと思ったからだ。

 しかも「住宅産業」という言葉を最初に使い始めた経済産業省が、07年4月から「新しい住宅産業のあり方」を検討する研究会を立ち上げて、住宅産業の”定義”を見直す作業を始めていた。その結論も出ていない段階で、専門家でもない筆者が住宅産業の全体像を本にまとめるのは無謀な行為と言われても仕方がないと思われた。

 最初に断っておくと、今回まとめた住宅産業の全体像は、筆者の個人的な見解がかなり含まれており、プレハブメーカーを中心に描かれている従来の住宅産業像とは趣がかなり異なっている。筆者自身、住宅問題については関心を持って多くの記事や原稿を執筆してきたが、新設住宅着工戸数のシェアが15%に満たないプレハブメーカーを住宅産業の中心に位置付けることに疑問を感じてきた。確かに大企業ではあるが、住宅に関わるプレーヤーはさまざまであり、それらを含めて全体を捕えなければ、住宅産業を理解することはできないのではないだろうか。

 プレハブメーカーの大量生産大量供給のビジネスモデルは、戦後から高度成長期の住宅不足を解消するうえでは確かに有効ではあった。しかし、日本が成熟社会を迎え、いずれストック中心の市場へと転換して行かざるを得ない状況で、ビジネスモデルの変革も時間の問題であると考えていた。

 しかもプレハブメーカーは、それぞれ独自に開発したクローズド工法をメーンにビジネスを展開している。本来、工業化はコスト低減が大きな目的であるはずなのに、いつの間にかプレハブ住宅が価格の高い高級住宅となってしまう矛盾を抱えるようになっていた。

 日本は戦後、ものづくりの分野で大きな成功を収めてきた。創意工夫を発揮し独自の技術を開発することで高性能・高品質でかつ低コストの競争力のある製品を生み出し続けたからである。その考え方はプレハブメーカーにも共通していただろう。

 しかし、より低コストでものづくりが可能な中国やインドなどの国が台頭するなかで、日本のものづくりの優位性が薄れてきたのは確か。何とか日本の優位性を維持しようとするアプローチが、シャープの液晶パネルの生産拠点、亀山工場に代表される完全クローズドな生産システムだ。ものづくりそのものをブラックボックス化することで、他社の追随を許さないようにする手法である。

 その一方で、汎用部品を使って組み立てた製品でありながら、世界市場を席巻してしまった製品もある。米アップル社の携帯音楽プレーヤーの「iPod」がその代表だ。製品はオープンな手法で生産しながら、誰もがほしいときにほしい音楽や映像コンテンツを手に入れることができる仕組みを構築することで、圧倒的なシェアの獲得に成功した。

 市場のデファクトスタンダード(事実上の標準)やインフラを抑えることで、製品シェアを獲得する戦略は、パソコンや携帯電話から最近話題となった次世代DVD、さらに鉄道などの交通システムと、様々な市場で取り組まれてきたものだ。今回、住宅産業の歴史と市場の変遷を調べるなかで、この10年間、住宅市場でもクローズド工法であるプレハブ工法のシェアが低下し、オープン工法である木造在来工法やツーバイフォー工法がシェアを拡大していることを確認できた。それは偶然に起きた事象ではないと思われる。

 これからの少子高齢化社会において求められる住宅市場は、5000万戸以上の住宅ストックを有効に活用して、簡単に住み替えたり、二地域居住したりと、好きなときに好きな住宅に住むことができる「iPod」型の住宅市場と言えるかもしれない。そうした新たな住宅市場の仕組みを構築する企業が、これからの新しい住宅産業をリードしていくことになるになるのではないだろうか。

2008年2月