新たな耐震偽装事件が発覚した。改正建築基準法に対して高まってきた批判を打ち消すようにである。しかし、偽装を発見したのは建築主の積水ハウス。国土交通省指定の確認検査機関は見逃しても、建築主がきちんと対応すれば偽装は発見できることが証明された。改正建築基準法で国交省指定のピアチェック機関での二重チェックを義務付けなければならない根拠はどこにあるのか?
前日のコラムは、改正建築基準法の良い面も捕らえた上で、現場の実情や実体経済への影響にも配慮しながら、「どうしたら適切な運用を図っていくことができるのか」という思いで書いた。
すでに中小業者には深刻な影響が出始めており、ゼネコンや資材メーカーなど実体経済にも影響が出始めている。その影響を最小限に食い止めながら、耐震偽装を防ぐ方策を考えるべき時期に来ているはずである。そんな時期に、なぜ新たな耐震偽装事件を大々的に公表する必要があったのか?
確かに今回の事件は、姉歯事件がこれだけ世間を騒がせ、そのための防止策が講じられようとしている時期にも関わらず、偽装が行われた点においては悪質と言わざるを得ない。元請けだった大手の構造計画研究所でも偽装を見抜けなかったわけで、建築確認検査で厳格に審査しなければならないという理屈にはなる。だからこそ、今回の法改正が適切なものであると国土交通省ではアピールしたかったのだろう。
しかし、その偽装を発見したのは積水ハウスである。元請である積水ハウスが二重チェックすることで事前に偽装を発見することができた。つまり、建築確認検査機関で2重チェックしなくても、建築主や元請けがしっかり対応していれば、データ偽装も見抜けることが証明されたわけである。
悪いことする人間は、年金など公金を着服する役所、医療過誤を隠蔽する病院、不正経理を見逃す監査法人など、どこにでもいる話である。だからと言って、年金の支払いが滞ったり、病院での診療が制限されたりすることが許されるわけではない。「角を矯めて牛を殺す」ことになってはならないはずである。
なぜ、建築指導主事経験者が在籍しなければならない役所指定の確認検査機関において二重チェックを義務付ける必要があるのか?私が今回の改正建築基準法が役人の”焼け太り”と指摘してきた最大のポイントである。二重チェックを義務付けるなら、建築主の責任において適切な機関に二重チェックを行わせれば良いわけで、何も国交省の指定機関でなければ信用できないわけではあるまい。
もし、今回の耐震偽装事件の大々的な公表が、改正建築基準法の正当性をアピールし、自らの保身を図る意図があってなされたのであれば、その対応振りには失望せざるを得ない。