改正建設基準法が施行されて約4カ月―。混乱が続く建築現場のなかで「良い影響が出てきた」という話を民間の建築確認検査機関から聞いた。法改正の影響が軽微だった戸建住宅の工事現場が「非常にキレイになって検査が行いやすくなった」というのだ。これによって工事検査の質が向上すれば、中間検査、完了検査に合格したあとに発行される検査済証の信頼性もアップするはず。消費者にとって重要なのは、完了検査済証が建物の安全・安心を担保できるかどうかである。

 今年6月20日に改正建築基準法が施行されたあと、この問題について3本の原稿を書いた。毎度、同じような話で申し訳ないが、建設生産システムのあり方を考える良い機会なのでしつこく書くことにする。

 原稿の1本目は、7月5日付けの日経BP社の総合サイトニュース解説に掲載した『姉歯事件が生んだ改正建築基準法に「役人が焼け太りするだけ」との声』。見出しこそ過激だが、制度見直しによって消費者や社会にどのような影響が出そうなのかを判りやすく解説するのが狙いだった。少々(?)、批判的な論調になったのは、消費者への影響が避けられそうにない状況にも関わらず、そのことを国民に全く説明してこなかった国交省の対応振りに問題があると思ったからである。

 2本目は、9月2日付けでこのブログに書いた「改正建築基準法を巡る混乱は本当に3か月で収束するのか?」。品質確保のための仕組みは、ものづくりの特性に合わせて構築されるべきもので、とくに建設の場合は建築確認検査制度のチェック機能を強化しただけで、あとは建設業界に任せておけば自助努力で必要な対応が素早く講じられる産業構造にはなっていないことを指摘した。

 3本目は、10月4日付けでブログに書いた「日本の建設技術は劣化し始めているのか?」。いま日本の建設業界が直面している最大の問題である工事現場の監理・施工能力の低下に対して、建築確認の書類審査ばかりを強化して図面通りに作らせるだけでは、現場の能力低下に拍車がかけるのではないかとの懸念を書いた。

 バブル崩壊後、建設現場において施工図作成の外注化や派遣技術者の活用を行うゼネコンが続出。施工図も読めないような施工管理能力が低い現場管理者が増え続けているとの話は枚挙に暇がない。国交省としては、その現実を踏まえて現場の裁量を狭めようとしているのかもしれないが、それは建設業者自身が解決しなければならない問題である。

 冒頭の話に戻ろう。今回の改正建築基準法で、私が最も注目していたのは完了検査済証の有無を登録してデータベース化する制度を導入するとした点だった。1本目の原稿では、完了検査済証の発行を消費者が重視するようになることを前提に、工務店からの視点でその問題に触れた。要は「完了検査済証が交付された建物に欠陥住宅はない」という状況が生まれれば、消費者は安心して住宅を購入できるようになるはずである。

 完了検査済証の有無がデータベース化してあれば、建物に重大な欠陥が見つかった場合に完了検査の有無がすぐに確認できる。もし建売住宅などで検査に通っていなければ、販売時に完了検査済証がないことを告知していたかどうかなど責任の所在を問いやすくなる。もし検査を通っていれば、確認検査機関の工事検査の質が問題となるわけで、検査員もいい加減な検査はできなくなる。

 さらに完了検査済証と住宅の瑕疵情報を紐付けしたデータベースもできれば、どの確認検査機関(検査員)の工事検査が信頼できるかも明らかにできる。今後導入される予定の住宅瑕疵担保責任保険の料率査定に反映することもできるかもしれない。

 この制度を有効に機能させていくつもりならば、まず消費者に工事検査の重要性を認識してもらわなくてはならないし、工事検査の品質そのものも高めていく必要がある。その点が今回の改正建築基準法ではまだほとんど語られていない。書類審査の手続きをいくら厳格化したところで、完成した建物の安全・安心が確保されるわけではないのである。

 冒頭の確認検査機関によると、これまでは工事検査の依頼があって現場に行っても、予定の工事が終わっていなかったり、現場が片付いていなくて十分に見れなかったり、現場管理者の対応が要領を得ていなかったり、とトラブルが少なくなかったという。

 今回の制度見直しで、書類審査とともに検査も厳格化されるという情報が広く伝わったこともあり、「現場に行っても、すぐに検査に入れる状況になっていて、検査しやすいように現場もきれいになっている」と、目に見える変化が表れているというのだ。

 ものづくりの品質は現場に表れるものである。工程管理がしっかりしていて、資材搬入もジャストインタイムで、ゴミもきちんと分別されている建設現場は、現場管理者の注意がすみずみに行き届いている証拠。改正建築基準法が現場の緊張感を高めているのなら良いことである。

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