東証一部に上場していた中堅ゼネコン「東海興業」が1997年7月4日に会社更生法を申請して、ちょうど10年目を迎えた。東海興業のメーンバンクだった北海道拓殖銀行、そして山一證券が11月に経営破たんして、金融機関の不良債権処理が本格化。ゼネコン業界にも再編淘汰の嵐が吹き荒れ、この10年に上場ゼネコンを対象に実施された債権放棄、金融支援などの総額は8兆円近くに達する。それだけのカネを費やして建設業の構造改革はどこまで進んだのか?
上場ゼネコンの不良債権問題への対応(表)を掲載しました。
 国土交通省が2006年6月に立ち上げた「建設産業政策研究会」の最終会合が6月29日に開催され、最終報告を取りまとめた。その後、最終会合で出された意見を反映した形で、7月6日に「建設産業政策2007〜大転換期の構造改革〜」として正式発表された。
 
 さらに7月1日付けで新たに局長級ポストとして大臣官房に「建設流通政策審議官」を設置。7月10日付けで都市・地域整備局長だった中島正弘氏が就任した。中島氏は、私が建設省記者クラブに在籍していた97年当時の建設業課長で、その後も総合政策局官房審議官(建設業担当)を歴任し、ある意味、ゼネコン問題をもっとも良く知る人物である。
 
 国土交通省が新たに局長級ポストを設置した狙いはどこにあるのか―。その話は、改めて聞きにいくつもりだが、その前に「この10年」を振り返っておく必要はあるだろう。
 
 「金融機関が不良債権処理に奔走するなかで、経営危機が表面化したゼネコンを救済するだけに追われ続けた」―この10年を表現するなら、そんな印象は否めない。上場ゼネコンの不良債権処理の過程を改めて表にまとめてみた。私が切り取って保存している日経新聞、朝日新聞の記事スクラップから抜き出したので、主要なゼネコンは網羅されていると思う。
 
上場ゼネコンの不良債権問題への対応
企業名 支援内容 金額(億円)
1997年 7月 飛島建設 債務免除 6400
    東海興業 会社更生 5110
    多田建設 会社更生 1714
  8月 大都工業 会社更生 1592
1998年 7月 淺川組 会社更生 603
  12月 日本国土開発 会社更生 4067
1999年 3月 フジタ 債務免除 1200
    青木建設 債務免除 2049
  5月 佐藤工業 債務免除 1109
    長谷工コーポ 債務免除 3546
2000年 9月 ハザマ 債務免除 1050
  11月 大末建設 債務免除 630
  12月 熊谷組 債務免除 4300
2001年 3月 三井建設 債務免除 1420
    冨士工 民事再生 831
  12月 青木建設 民事再生 3900
2002年 2月 長谷工コーポ 債務株式化 1500
    東急建設 増資 500
  3月 佐藤工業 会社更生 4499
    飛島建設 債務免除 772
    日産建設 会社更生 1146
  4月 住友建設 金融支援 600
  7月 藤木工務店 民事再生 631
  8月 新井組 債務免除 640
    大日本土木 民事再生 2712
  10月 フジタ 会社分割 6000
  11月 古久根建設 民事再生 430
2003年 4月 飛島建設 債務株式化 300
  5月 フジタ 優先株 300
  9月 鴻池組 増資 400
  10月 ハザマ 会社分割 2260
    東急建設 会社分割他 2200
    熊谷組 債務免除他 3000
    大和建設 民事再生 230
    森本組 民事再生 2153
2004年 3月 三井住友建設 増資 800
    松村組 増資他 260
    大木建設 民事再生 767
    三平建設  債務免除  242
  6月 佐藤秀 民事再生 428
  10月 佐田建設 分割・債務免除 240
2005年 3月 長谷工コーポ 優先株発行 700
  5月 松村組 民事再生 800
  9月 勝村建設 民事再生 316
  10月 三井住友建設 分割・債務免除 1840
      増資 600
    フジタ 分割・債務免除 989
      増資 410
        78186
 表の内容は、いくつかの抜けや新聞報道の段階で確定していない数字も含まれているほか、飛島建設の支援内容は債務免除ではなく、債務保証免除だし、会社分割の数字も不動産会社に分割した有利子負債額をそのまま記入しており、正確性に欠ける点もあるかもしれない。その点はご指摘があれば訂正するので、ご連絡願いたい。
 
 改めて表を見ると、10年前に会社更生法を申請した東海興業も、2005年3月には会社更生法手続きを完了。建設工事受注高も、05年度、06年度と2期連続で拡大、1000億円近くまで規模を回復させている。日本国土開発も03年9月に更生手続きを完了し、売上高は06年5月期は900億円を超えている。マンション需要の追い風に乗って業績を急回復させた長谷工コーポレーションを筆頭に、他の各社も規模縮小は余儀なくされているものの、しっかりと生き残っている。
 
 「むかし、むかし、建設県ゼネコン村に”不良債権”という鬼がやってきて村人たちを苦しめた。それを救おうと建設県から”国交省”桃太郎が”債権放棄”やら”公共工事”やらの家来を連れてきて、鬼を退治。村人たちは皆、何とか生き残ることができたとさ、めでたし、めでたし…」
 
 これが昔話であれば「めでたし、めでたし…」で終わるところだが、”ゼネコン村”の話はこれで終わったわけではない。確かに経営危機に陥っているゼネコンを黙って見殺しにすることはできないし、支援して復活できるのなら救済するのは当然かもしれないが、それが建設業界全体にとって良かったのかどうかは別問題である。
 
 国交省でも、ゼネコンの過剰供給構造を是正しようと、ゼネコン救済に当たっては再編を促進する施策を講じてきた。確かにそれによってゼネコンの数が多少は減少したものの、建設業界の産業構造が大きく変革するまでには至らなかった。8兆円近いカネが投入して、業界全体にとってどれほどの成果があったのかは冷静に判断する必要があるだろう。
 
 なぜなら、ゼネコン村も建設県全体の状況も決して良くはなっていないからだ。建設県の将来を考えれば、無理な価格競争の蔓延、深刻な技術者・技能者の不足など、むしろ事態は深刻になっているとも考えられる。「そのことを公共工事発注を担っている技術官僚たちは全く理解していない」―そう痛烈に批判したのは国土交通省のある幹部OB。自然災害の多い日本の国土整備に力を合わせてきた公共発注者と民間建設事業者との関係にも心理的なズレが生じてきたのも気になるところである。
 
 とりあえず、この10年でゼネコンの不良債権処理はほぼ完了したが、問題はこれからである。どうしたら建設業界全体を住み良くすることができるのだろうか―。今こそ未来を計画する構想力が求められている。

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