【取材日誌】森ビルのアカデミーヒルズで「これからの東京」像を聞く(2007-05-16)

moribiru 森ビルが運営する教育事業「アカデミーヒルズ」(理事長・竹中平蔵・慶大教授、前総務相)が16日に六本木ヒルズで開催したアーク都市塾セミナー「これからの東京〜ビジネスと感性が融合する都市像〜」を聞きに行った。パネリストは、建築家の隈研吾氏、アカデミーヒルズ理事長の竹中平蔵氏、モデレーターはアーク都市塾長の米倉誠一郎氏(一橋大学教授)という顔ぶれ。どなたも口達者な方々なので、セミナーを聞いている分には十分に楽しめたのだが…。

 アカデミーヒルズのセミナーは、面白そうなものがあると参加させてもらっていたのだが、ここしばらくはご無沙汰だった。

 昨年9月に竹中先生が参議院議員を辞職すると聞いたときには、「また、森ビルのアカデミーヒルズにお世話になるんだろうなあ」とは思ってはいたが、今度は理事長に就任すると聞いて「さすが、商売上手!」と感服した次第。それだけにアカデミーヒルズのコンテンツも充実だろうと期待して、今回のセミナーに参加した。

 冒頭に、社会人教育の場であるアーク都市塾について米倉先生から一頻りPRを聞かされたあと、ビデオ出演で森稔・森ビル社長の挨拶があった。

 森社長は、スイスの国際機関が公表した国際競争力ランキングで、日本が昨年の16位から24位に順位を下げ、中国が18位から15位にランクアップして日本を抜いた話を引用し、国際的な都市間競争で東京の地盤沈下が続いていることを強調した。「相変わらず、同じことを言い続けているなあ…」とは思いつつ、久しぶりに元気そうな顔を見ることができた。

日本の都市政策は護送船団方式?

 さて、お待ちかねのパネルでは、竹中先生は得意の自由化・民営化論を展開した。セミナーが開催された日に、政府が発表したアジア・ゲートウェイ構想の中に盛り込まれた「オープン・エア」(航空の自由化)が「役人の抵抗で内容的に不十分となった。東京と上海が日帰り圏となるぐらい思い切った改革を進める必要がある」と主張。世界の大学ラインキングで40位に停滞している「東京大学の民営化」を実現する必要性も訴えた。

 内容的にはとくに目新しい印象は受けなかったが、竹中先生が次に何を狙っているのかを伺わせる話だった。一方、興味深い発言をしたのが、建築家の隈先生。

 「日本では競争力の低下した街をすぐに何とかしようとするが、それは『都市の護送船団方式』。米国じゃ、ダメになったらしばらく放っておく」とか。この発言には、米倉先生も大うけ。世界中で都市再生への活発な取り組みが進んでいることを紹介した。

民間に国有地を払い下げたら緑は残らない!

 パネルは2時間近くに及んだが、それ以上に面白かったのは質疑応答の時間だった。都市計画の権威でアーク都市塾名誉塾長の伊藤滋早大教授がマイクを取って突然、国有地の民間払い下げ批判を展開し始めたからだ。

 「一度、民間に払い下げられたら最後、緑は残らない!」。かつて都心に残っていた緑の土地が次々に民間に払い下げたことが、現在の過密都市・東京を生んだと分析。最後は戦後に財政的に行き詰まった旧・宮家から都心の土地を次々に買収してプリンスホテルを建設した西武鉄道の故・堤康次郎氏に対する痛烈な批判まで飛び出した。

 残念なことに、伊藤先生は言いたいことだけ言って会場から退席してしまった。もちろん、財政再建を大義名分に、国有財産の民間売却を主張してきた竹中先生が黙っているはずがない。

 「財務省が保有している土地は、日本全土に九州、中国、四国を合わせたぐらいの面積がある。民間に売却して有効活用を図るべきだ」と発言。米倉先生に「この場に伊藤先生がいたら…」と悔しがらせた。

本当に国有地は余っているのか?

 竹中先生の発言からは、日本は財務省が保有する国有地だらけのような印象を受けるが、本当にそうなのだろうか?

 財務省のホームページを見ると、国有地は877万ヘクタールと、確かに国土の約4分の1を占めている。これは国道や高速道路、一級河川などの海岸を除いた土地だが、その大部分は国有林や国立公園などが占めているとある。

 伊勢神宮が20年ごとに遷宮する(建て替える)ときに必要な膨大な木材を確保するためにも広大な国有林が保有されていると聞く。皇室の御用邸や仁徳天皇陵など陵墓も皇室の私有地ではなく、国有地のはずである。自衛隊の基地や演習場などもほとんどは国有地だろう。土地の名義は国の資産を管理する財務省理財局が全てを保有することになっている。

 国有地と言っても、森林・公園や皇室関連用地、自衛隊基地などを除いて、一般国民が本当に自由に利用できる土地がどれぐらいあるのか?それには全く触れずに、国有地が九州、四国、中国の広さぐらいあるから、少々民間に売却しても問題ないかのような巧妙(?)なロジックは、さすが竹中先生である。

これからの東京―ゲートウェイ国家とは?

 「2010年から日本の総人口は毎年100万人以上減少するんですよ。青森県1県と同じ人口が…」―セミナーでは米倉先生が盛んにそう強調する場面があった。そこが先生方(森ビルも含む?)が最も危惧するところなのだろう。

 急激な人口減少が進めば、当然、土地・不動産に対する需要は衰える。「ダメになる都市はしばらく放っておく」という考え方で、可能な限り、地方から東京へと人を引っ張ってくるにしても、毎年、青森県1県をなくなるなかでは限界がある。

 これを打開するのが、オープン・エア政策。アジア(とくに中国)から人を呼び込むようにしようというわけだ。しかし、不動産投資のためのカネはいくらでも世界中からかき集めることはできるが、旧国鉄跡地や防衛施設庁などの再開発も一巡して東京都心部で売れる土地もなくなってきた。そこで、国に国有地を放出させ、超高層ビルと建て外国人投資家などに売り抜ける。

 セミナーの話をつなげていくと、そんなシナリオが浮かび上がってくるのだが…。

 東京湾岸エリアに、超高層ビルが林立して海風が都心部に吹き込まなくなったことで、東京のヒートアイランド現象はますます深刻化したとの調査もある。その対策として、数年前から政府は打ち水を行うキャンペーンを展開しているが、まさに焼けアスファルトに水。都市に暮らす住民は、不自由を強いられても打ち水程度で我慢しろ!というらしい。

やはり選んだ国民が悪いのかなあ…

 会場からは「オープン・エアも役人の抵抗で中途半端な内容になった」との竹中先生の発言に対して、「どうしたら役人の抵抗を抑えて、構造改革を推進できるのか?」と、竹中先生を励ますような質問も出た。

 「役人を抑える方法はただひとつ。政治家がそれをやればいいんです。それをやらない政治家を選んでいるのは、国民の皆さんですから…」

 確かに、せっかく選んでも任期途中で仕事を放り出して辞任してしまうような政治家を見抜けずに選んでしまうような国民ですから。それに見合った政治しか行われないのも仕方がないということなのだろう。

 それにしても「東京大学の民営化」が実現すると、どのような教育が可能になると言うのだろうか―。アカデミーヒルズで行われているように、竹中先生や米倉先生が得意とする経済=カネ儲けに直結する教育カリキュラムが充実して、カネにならない学問は切り捨てられるってこと?大学教授も、教育者よりもビジネスマンにならなければ生き残りが難しい時代になってしまったようで…。