福島、和歌山、宮崎県などの地方公共団体で官製談合事件が発覚し、首長が相次いで辞任に追い込まれた。中央省庁でも、国土交通省が発注するダムなどの水門工事で官製談合が行われてきたことが明らかとなり、国、地方ともに官製談合によって公共工事の発注が行われてきた実態が改めて浮き彫りになっている。
 なぜ、官製談合は行われてきたのか―。背景には政治的な圧力や役人の天下り問題などが指摘されるが、役人が自らの保身や利権確保のためだけに官製談合に手を染めてきたわけではないだろう。道路や鉄道などの社会インフラを役人自らが「つくる」という公共工事発注システムそのものに、官製談合に陥りやすい問題が潜んでいたのではあるまいか。
 モノづくりを発注するのに、技術力が確かで信頼できる企業や人に仕事を依頼したいと思うのは誰も同じはず。発注先を選別するのは当たり前の行為だが、公共工事の契約は会計法で原則、一般競争入札によると定められている。基本的に最安値で応札した業者が落札する仕組みだ。
 いくら事前の資格審査を厳密に行っても、落札業者の技術力が不十分だったり、暴力団系の問題業者だったら、どうするのか。役人が自ら「つくる」立場にある以上は、そうした落札業者を使ってでも計画通りの品質・工期で工事を仕上げる責任を負わざるを得ない。信頼できる業者に安心して工事を発注しようとすれば、入札を指名制にして受注調整するしかない。ある意味、官製談合は「必要悪」として機能し、そこに政治的な圧力や天下り癒着が入り込む余地があったと言える。
「つくる」と「買う」の違いとは?
 90年代に入ると、公共工事を取り巻く環境は大きく変化した。90年の日米構造協議では公共工事への外資系企業の参入問題が焦点のひとつとなり、93年には宮城、茨城、埼玉でゼネコン汚職事件が発覚。95年のWTO(世界貿易機構)発足で政府調達問題への外圧も強まった。ようやく政府も入札制度改革に重い腰を上げ、国が発注する公共工事での「一般競争入札」の導入に踏み切った。加えて、98年の中央建設業審議会の最終報告を受けて旧・建設省(国土交通省)が画期的(?)な方針転換を打ち出そうとしたことがあった。
 「つくる」から「買う」へ―公共発注者の役割そのものを見直し、役人自ら「つくる」のではなく、民間が造ったものを「買う」という発想で発注方式を見直そうというのである。自ら「つくる」から、少々高くても良いものをつくりたくなるし、発注者としての仕事がなくなっても困るから、借金までして無駄な道路や建物をつくろうとする。建設業者寄りの「つくる」発想から、出来るだけ無駄を省く納税者寄りの「買う」発想への転換が実現すれば、まさに画期的な出来事だった。
 しかし、残念ながら、この方針はすぐに立ち消えてしまった。「つくる」から「買う」へと公共発注者の役割を見直せば、必然的にこれまで「つくる」に携わってきた多くの技術官僚が不要になってしまう。自ら「つくる」ことで政治力を拡大してきた彼らにとって、死活問題になりかねないことに気が付いたのだろう。半年もしないうちに、完全に棚上げされてしまった。
情報システムよりも、中身の情報が大事!
 国が発展し、国民が豊かな生活を送るのに社会インフラが不可欠であるのは間違いない。しかし、いくら必要だからと言って、何から何まで「つくる」必要があったのか―。
 本州四国連絡橋を3本もかけ、都道府県ごとに空港ができ、新幹線、高速道路も北海道から九州まで張り巡らせる。文化施設、スポーツ施設、観光施設などのハコモノも一通り揃えなければ気が済まない。地元の景気・雇用対策の大義名分も加わり、「つくる」ことが目的化した印象は否めない。
 自ら「つくる」=所有したがる傾向は、情報システムにも共通しているのではないだろうか?e-Japan戦略も、ITバブル崩壊後の景気対策だった側面もあり、ITベンダーの言うままに情報システムへの投資が続けられてきた。2004年になって業務・システム最適化計画の策定する方針が打ち出されたが、相変わらず業務改革よりも情報システムを「つくる」ことに重点が置かれているように思える。
 「ITは単なるツール。重要なのは情報の中身ですよ」―北海道江別市役所と協力して「江別ブランド事典」を開発した札幌学院大学商学部の渡邊愼哉教授はそう指摘する。7000世帯以上の市民にアンケート調査を実施して、江別ブランドの特産品、お店、場所、イベント、人物などの情報を収集してインターネットで検索できるようにしたシステムで、「市民に江別ブランドの意識が芽生え、様々な経済波及効果が表れている」(江別市経済部・大川直久主査)と、いまや江別市のまちづくりに欠かせないシステムとなっている。
 いくら立派な情報システムをつくったところで、中身の情報が乏しければ、自動車がほとんど走っていない高速道路をつくっているのと同じこと。まずは情報の充実を図り、どのように政策に活用するかを考えることが重要であって、ITツールは最後に考えれば良い話である。
 2007年度からは、団塊世代の大量定年退職が始まり、役所でも来年3月には一斉退職の大波が訪れる。しかし、財政事情の厳しい地方公共団体の多くは、人員補充をほとんど実施せずに、生産性向上で乗り切る計画と聞く。ある意味、これからが電子自治体の本番である。
 役所の生産性向上に寄与するのは、政策決定に役立つ精度の高い情報であり、社会の変化に迅速に対応できる組織・体制の構築である。効果的・効率的なカネの使い方ができるかどうかは、その点にかかっていると言って過言ではないだろう。情報システムを「つくる」ことははあくまでも手段であって、目的ではない。当たり前のことではあるが、電子自治体が本番を迎えるに当たって、改めて認識する必要があるだろう。

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