三井不動産が9日、新しいグループ長期経営計画「新チャレンジ ・プラン2016」(07―16年度)を発表した。03年度にスタートした長期経営計画「チャレンジ・プラン2008」の目標を2年前倒しで達成したことから、新たに10年計画を策定。09年度までの具体的な定量指標を示したうえで、岩沙弘道社長は記者会見の席上で「はっきり言って(目標を)達成する自信はある」とキッパリ。1998年に社長に就任して来年で5期10年―。そろそろ最後の仕上げの段階ということか?
 会見が終わったあと、日本不動産ジャーナリスト会議のメンバーと、5年前に行われた「チャレンジ・プラン2008」の記者会見の時とは様変わりしたように見えた岩沙社長の自信に満ちた態度が話題となった。
 5年前と言えば、まだ資産デフレに歯止めがかからず、不動産市場を取り巻く環境は不透明感があった時期。業界の注目も、2002年に完成した三菱地所の丸ビルに集中し、03年には森ビルの六本木ヒルズがオープンして話題を独占。03年は、団体設立40年で初めて不動産協会理事長の椅子を三井から住友不動産に譲ることになり、三井の存在感が薄らいだとの印象は否めなかった。
 しかし、それからの三井不動産の攻勢は凄まじかった。日本橋東急百貨店跡の「日本橋一丁目ビル」、三井本館横の「日本橋三井タワー」、そして六本木防衛庁跡地の「東京ミッドタウン」を次々に完成させ、商業施設も「ららぽーと」ブランドを中心に一気に拡大。改めて業界トップの三井不動産の底力を示した。
 その間に不動産市場を取り巻く環境が大きく変化したのも確かだ。5年前には岩沙社長もこれほどまでに不動産市場が活況を呈することになるとは予想していなかったのではあるまいか。前回の長期経営計画を2年前倒しで達成したのも、予想以上の追い風が吹いたからではあるだろう。
 企業トップにとってツキも実力のうちである。前任の田中順一郎社長(現・会長)の時代に苦労しながら不良債権を処理し、不動産証券化市場の整備を進められていたとの環境にも恵まれた。しかし、何事も好事魔多しである。むしろ、難しいのはこれからかもしれない。
企業のトップ交代の難しさ
 93年から3年間、私が担当した自動車業界では当時、三菱自動車工業に勢いがあった。バブル崩壊で国内自動車需要が低迷するなかで、三菱はRV(レクリエーショナル・ヴィークル)ブームに乗って発売する新車もことごとくヒット。一時は国内2位の日産自動車を捕らえたこともあった。
 しかし、三菱自動車のつまづきは、95年に中村裕一社長(当時)が後継に塚原氏(1年で社長を退任)を選んだことだったと私は考えている。企業トップの権力交代がスムーズに進まないなかで、米国子会社でのセクハラ事件、国内でのリコール事件など次々に問題が表面化。一気に転落が始まってしまった。
 同じ95年にトヨタ自動車では、豊田章一郎名誉会長の実弟である豊田達郎社長(当時)が任期途中で病に倒れ、国内販売シェアも13年ぶりに40%の大台を割り込む危機に直面していた。日米自動車摩擦の激化でグローバル化を迫られる厳しい状況のなかで、奥田碩氏が社長に就任する。
 その後のことは改めて説明する必要もないだろう。奥田氏のあと、社長は張富士夫氏、渡辺捷昭氏へとバトンタッチしてきたが、その間も事業は順調に拡大し、07年3月期決算では日本企業で初めて営業利益2兆円を達成。今年は米GMを抜いて自動車生産世界トップの座を獲得するのは確実な情勢だ。
2010年以降の布石をどう打つのか
 さて、三井不動産でも、そろそろ社長交代が視野に入ってくる時期だ。不動産会社のトップは10年以上の長期政権が珍しくはないが、岩沙社長も来年で5期10年を迎える。来年から新チャレンジ・プラン2016で定量目標を掲げた09年度が終わる2010年までがトップ交代のタイミングと予想される。
 岩沙社長がどのタイミングで誰を後継指名するかは別にして、やはり重要なのは三井不動産の今の勢いが、トヨタ自動車のようにトップ交代後も続くかどうかである。そのための布石として、岩沙社長が今回、2016年までの長期経営計画を策定したと考えるのが妥当なところだろう。
 「09年度までの収益はほぼ見えている」―今回示した定量指標を達成できるかどうかはあまり注目する必要もなさそうだ。むしろ2010年以降、日本の人口が毎年100万人以上減少する時代を見据えながら、今後3年間に三井不動産が発展し続けるための戦略をどう打ち出してくるのか―。興味深いところである。

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