【取材日誌】建設現場の生産性が高いって、本当なの?(2007-04-23)

 国土交通省が昨年6月に立ち上げた建設産業政策研究会の会合が4月23日に開かれた。今回は生産性とITがテーマだと聞いていたが、何ともお座成りな議論で拍子抜けする内容だった。その一方で「現場作業員の給与水準を上げなければ優秀な人材を確保できない」と危機感を募らせる声が相次いだ。建設産業全体の生産性を上げずに、どうやって建設就業者の給与水準を上げていこうというのか?ダンピング受注の減少など建設費が上昇に転じたことに安心したのか、すっかり危機感も薄らいでしまったようで…。

 研究会も回を重ねて、予定では残すところあと2回。報告書作成に向けて大詰めを迎えている段階のはずなのだが、全く議論は盛り上がっていない。談合問題やら、耐震強度偽装事件やらで、これだけ国民の信頼を失っているにも関わらず、議論の中身は相変わらず業界内の論理ばかり。これほど危機感に乏しい業界も珍しいのではないだろうか。

 冒頭に国土交通省の事務局が、建設産業の生産性に関するデータを示し、製造業と比較して7割程度、全産業と比較しても大きく劣っている実態を説明した。そのうえで建設業におけるIT化の取り組みについて駆け足で振り返ったが、そのあとの討議を聞いて驚いた。

 「建設現場の労働生産性はかなり高い水準にあり、これ以上は議論しても難しい」とか、「そもそも製造業と生産性を比較すること自体、意味がない」とか、「労働生産性を比較するのなら、同じ建設業で諸外国と比較すべきである」とか、最後には「設計変更などを繰り返す発注者側にも責任がある」といった声まで飛び出す始末。どうやら建設業界には生産性の考え方そのものが通用しないらしい。

 一方で、技能者や職人不足の問題では「年収300万円に満たないようでは、優秀な人材が集まらない」、「トビはまだ給与が高いので若い人材も集まっているが、コンクリート打設は60歳を過ぎた職人ばかり。これではコンクリートを現場で打てなくなる」といった深刻な声も。

 一見すると、現場の技能者や職人の待遇を心配しているようにも聞こえるが、そんな意識があるようにも思えない。そもそも生産性を向上しないままに、賃金アップの原資をどこで確保するつもりなのか?結局は、技能者・職人が集まらなければ、自分たちの商売も従来のやり方のままで続けられないから困るというだけの話なのだろう。

 建設産業においてゼネコン再編やIT化などによる労働生産性向上が必要な理由を、私自身は技術者、技能者、職人など直接「ものづくり」に携わる人たちの雇用確保と待遇改善のためと考えてきた。国内建設投資が減少するなか、地方ごとに優秀な技術系人材を確保したいのなら、彼らの給与を下げるのでなく、過剰なゼネコンの経営者や間接部門をリストラするのが先決だと思うからだ。いくら「現場の生産性は高い」と言ったところで、産業全体として低ければ、給与水準を上げることもできないはずなのだが…。

 少子高齢化が進む中で、日本の労働市場で他産業と競争して優秀な人材を獲得しなければならないのに「生産性を製造業と比べても意味がない」というのも、私の理解を超えた発想。海外から安い労働者をじゃんじゃん連れてくるということか…。

 さらに建設業界の不透明な体質を放置したまま「生産性の低さは発注者にも責任がある」と平気で言える神経もさすがである。

 それにしても、ここに来て建設費はかなり上昇してきているようだ。「社内決裁が下りているプロジェクトの建設費が、着工直前に1割、2割アップなんて話も出てきた」(大手不動産建設担当者)。現在はファンドバブルが続いているので、建設費アップを不動産会社もある程度受け入れざるを得ない様子。加えて、公共工事のダンピング受注も随分減ってきたようだ。

 まさか業界挙げて建設費の値上げキャンペーンを展開しているわけではないだろうが、果たして価格上昇がいつまで続くのか?足元、危機感が薄らいだからと言って何もしなければ、2−3年後にはもっと手痛いしっぺ返しが待っているように思うのだが…。