いよいよ団塊の世代約700万人の大量定年退職が始まる2007年を迎えた。今後3年間に日本の総人口の5%以上に当たる世代が動くことで、いわゆる「2007年問題」と呼ばれ、様々な社会現象を引き起こだろうと予測されている。住宅市場でも、定年退職を機に住み替え需要が発生すると熱い視線が注がれているところだ。
 先日、ある雑誌社に依頼されて、立命館大学大学院教授の大垣尚志氏を取材した。住宅金融公庫が提供する長期固定金利の民間住宅ローン「フラット35」の取り扱い件数第1位の住宅ローン専門会社(モーゲージバンク)「日本住宅ローン」の創立者の顔も持つ実践派の研究者である。
 私も、同社が設立される以前から、日本になかった新しい形態の金融機関であるモーゲージバンクに注目。その必要性を強調する記事を執筆することで、既存の金融機関からの抵抗で苦戦していた同社を応援してきた。大垣氏とも取材を通じて面識があり、久しぶりの訪問を大いに歓迎してくれた。
 取材の目的は、日本住宅ローンのビジネスモデルについて改めて話を聞くことで、事前にそのことは伝えてあった。しかし、椅子に座るや否や、大垣氏が新たに設立した有限責任中間責任法人、移住・住みかえ支援機構(略称・JTI)のことを、堰を切ったように話し始めてしまった。話題を本筋に戻すのに、1時間もかかってしまい、結局、2時間以上も話し込むことになった。
住み替えで地方にも大きな経済効果
 大垣氏がモーゲージバンクの次に導入をめざしている新しい社会システムは、シニア層が抱える住宅資産を活用して住み替えを支援するとともに、子育て世代に良質な賃貸住宅を提供しようという仕組みである。具体的にはシニア層が保有しているマイホームを、JTIが借り上げて、3年の定期借家契約で賃貸事業を行うというものだ。
 海外赴任のサラリーマンなどが期間中、自宅を貸し出すハウスロケーション事業と類似しているが、対象を50歳以上のシニア層に限定。希望すれば最長で終身に渡って住宅を借り上げて家賃保証するほか、3年ごとに自由に解約して自宅に戻ることもできる。民間ではリスクが大きすぎるため、政策的に住み替え促進を打ち出している国土交通省が支援することになった。
 「日本の個人資産の大半を60歳以上が保有していると言われるが、その6割以上を不動産資産であるのが実情。これを上手く活用して現金を生み出すことができれば、シニア層も新しいことにチャレンジできる」
 日本でも、住宅を担保に老後の生活資金を融資するリバースモーゲージ商品が提供され始めているが、資産価値の5割程度しか融資されない商品も多い。しかも、長生きすると融資資金が底を着く懸念もあって、あまり普及していないのが実情だ。
 「60代といえば、まだまだ元気。都心のマイホームを貸して、地方に移り住めば、当然、新しい活動を始め、カネも使う。交付税で配分するよりも、地域の活性化につながるのではないか?」
 退職金で新たに家を建て、年金などで月20万円、家賃収入月10万円で新しい生活を始めてくれれば、地元にかなりのカネが落ちることが計算できる。しかも、マイホームは残したままなので、介護が必要な状態になれば、医療施設が充実した大都市圏に戻る可能性も高い。地方にとっては、かなりの経済効果が見込めるビジネスモデルと言えそうである。
地域SNSで住み替え情報の発信を
 問題は、いかにシニア層にアピールして移住してもらうか―。地方自治体にとっては、頭が痛い問題かもしれない。早くも人口増加が始まっていると言われる沖縄県のような有名リゾート地に対抗するにはどのようにしたら良いのか?
 そう考えていたところに、1997年の会社設立当初から注目しているベンチャー経営者、ネクストの井上高志氏から、10月に東証マザーズに上場するとの挨拶メールが飛び込んできた。あわせて同月から地域・生活者コミュニティサイト「Lococom(ロココム)」のサービスを新たに開始したとある。アクセスすると、総務省が推進している地域SNSの民間版とも呼べるサービスであることが判った。
 ネクストは、インターネットで不動産物件情報を提供する日本最大級のポータルサイト「ホームズ」を運営している。そのネクストが立ち上げたロココムは、自分の居住地を登録すると、自動的にその地域に住む人たちが集まるコミュニティに集まる仕組みで、地図情報も取り扱えるなど地域SNSの基本的な機能を備えている。
 面白いのは、自分が住む地域だけでなく、通勤・通学先の地域や、自分が興味のある地域も登録することができる点だ。現在の地域SNSは、地域コミュニティ内での情報交流ツールとの色彩が強く、それぞれの地域で独立して運営されている。居住地と通勤・通学地域が異なれば、別々の地域SNSに登録する必要があり、私自身も不便さを感じていた。
 勤め先の命令で転勤する場合は、自らの意思で居住地を選ぶことはできなかったが、定年退職後は自由に好きな場所を選択できるようになる。当然、移住候補先の地域情報を懸命に収集しようとするはずで、実際にその地域に住む人たちの生の声を聞くことができる地域SNSは、最も信頼される情報源として活用される可能性は高い。そのときに、地域SNSに相互連携できる機能があれば、利用者にとって非常に便利である。
 総務省が地域SNSの導入促進策を打ち出し、東京都千代田区と新潟県長岡市で地域SNSが開設され1年が経過した。その後、導入する自治体も徐々に増えているが、まだ地域SNSの可能性について半信半疑の自治体も、まだ多いかもしれない。しかし、民間企業もすでに動き出した。地域SNSを地域の「情報発信メディア」としても活用することが、住み替え需要の開拓など地域戦略を進めるうえで重要になると考えられる。

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