インターネットにつながる環境さえあれば、今やどこでも仕事はできる。自宅に仕事を持ち帰るのも容易になって”隠れ残業”が増えたとの指摘もあるが、仕事先との連絡でも、電子メールを使えば気兼ねすることなく、いつでも簡単に取れるようになった。そのためか「連絡」に対する考え方が以前とは違ってきたと感じることがある。
 連絡を相手に伝える責任は、情報の送り手側にあると考えるのが一般的だろう。送り手側として、間違いなく相手に正しく内容が伝わるように気を使ってきた。ところが、電子メールだと、送信しただけで連絡の責任を果たしたような気分になる。もし連絡が伝わっていないと「メールぐらいチェックして読んでくれよ…」と内心、思ってしまう。
 「出張先でもメールチェックするのは当然のこと。海外だから連絡が取れないというのでは困る」―3年ほど前にインタビューした県知事からも、幹部職員の電子メール利用について、そんな要望を聞かされた。電子メールも携帯電話もない時代なら、出張前には連絡方法を双方で事前に打ち合わせしていたが、いまや相手が何処に居ようと連絡が取れるのが当たり前。おかげで「連絡」の責任も送り手側から受け手側に移ってしまった感がある(私が、そう思い込んでいるだけかもしれないが…)。
 仕方なく、外出時にはB5サイズのモバイルパソコンを持ち歩かざるを得なくなってしまった。まだ全てのメールを携帯電話に転送して常時チェックするほどではないが、”インターネット依存症”とも言うべき症状は重くなるばかりである。
インターネットにつながっていない人たち―広がる情報格差
 そんな私が年に2回、インターネット無しの生活を余儀なくされている。お盆と正月の時期に、70歳を過ぎた両親が2人暮らしをしている札幌市と安曇野市の実家に戻るためだ。自分の両親も女房の両親も、パソコンとは無縁の生活を送ってきた。通信回線も昔の電話回線のまま。メールチェックするだけなら、ダイアルアップで接続すれば良いのだが、常時接続のブロードバンド環境に一度慣れた人間にとっては苦痛この上ない。とは言え、年に数日のために実家にADSLやFTTHを引くのももったいないので、これまで我慢してきた。
 ところが、今年のお盆休みに安曇野に帰省すると、義父が「パソコンを買いたい」と切り出してきた。自治会の組長として必要書類ぐらいはパソコンを使って自分で作成しようと考えたらしい。渡りに船とばかり「折角ですから、インターネットも始めましょうよ」と勧めて、いざパソコンショップへ。実際にパソコンに触れてもらいながら購入を検討したのだが、残念ながら今回は準備不足で、延期することにした。
 帰宅後、改めて「パソコンを使った経験は?」と尋ねると、e-Japan戦略で政府が推進してきた「550万人IT講習事業」には一応出席したものの、「途中から二人とも寝てしまった…」とか。確かにテレビとビデオの配線ですら覚束なくなっているのに、いきなりパソコンではハードルが高い。最近は、こうした高齢者のインターネット利用の難しさを実感する出来事にしばしば出会う。
 先日も、自分が所属する自治会の班でゴミ集積所を新設することになった。隣に住む班長さんに同行して自治会長さんのところに相談しにいくと、早急に清掃事業所に届出を出して許可をもらってほしいという。「申請用紙はどこに取り行けば良いのか」と、高齢のお二人が相談を始めたので、慌てて「ネットで調べられますよ」とアドバイス。申請用紙と添付書類用の周辺地図、手続き方法をダウンロードして届けただけで、大いに感謝された。
つながっている人のための電子自治体でよいのか?
 義父にしても、隣の班長さんにしても、自治会など公の仕事を担っている人の多くは、高齢者の方たちである。少子高齢化の進展に加え、公務員数の削減も迫られるなか、今後ますます元気な高齢者の方に公の仕事を担ってもらわなくてはならなくなるだろう。
 義父は自治会のほかに、保護司の仕事も10年以上前から引き受けている。月に1度は受け持っている保護観察対象者に面接し、報告書を作成して保護監察官に提出する仕事を無報酬で続けてきた。ようやく最近になって保護司の高齢化や後継者不足が大きな社会問題として認識されるようになってきたが、義父が所定の報告用紙に細かな字で観察記録を書いている姿を見るたびに、「こうした仕事こそ真っ先にIT化して負担を軽減できるようにすべきではないか」と考えてしまう。
 保護司は全国で約5万人。パソコンを無償で貸与するのは財政的に厳しいかもしれないが、保護観察報告の作成ソフトを開発して配布すことぐらいはできるだろう。保護観察のように時系列で様子を記録していく作業では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のような仕組みが有効かもしれない。高齢者の方に公の仕事を担ってもらいながら、ITスキルも同時に身に付けてもらう。まさに一石二鳥の方策ではないだろうか。
 そのときに、出来れば通信料金を優遇する制度がほしいところ。義父が支払っている1カ月の電話代は約4000円で、NHKの受信料を加えると6000円を超える。いくら世界で最低と言われるブロードバンド料金でもプロバイダー費用を含めると、通信費は月8000円以上になる。年金だけで生活している高齢者にとって負担は重い。
 つながる環境さえあれば様々な恩恵をもたらしてくれるインターネットも、つながっていなければ、何の恩恵ももたらしてはくれない。「つながっているのにサービスを利用しない人」に対してオンライン利用促進策を講じることも必要だが、「つながっていないからサービスを利用できない人」はどうするのか。行政手続のオンライン化ばかりに重点を置いた電子自治体では、インターネットの恩恵を最も必要としている高齢者や身障者が置き去りにされるのではないかと危惧するのである。

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