新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 昨年末に退院したばかりで、まだまだ本調子とは言えない状況ですが、穏やかな気候に恵まれた正月3日間は、自宅付近を散歩しながら体力回復に努めました。そのときに、さいたま市内にある大規模な市街化調整区域「見沼田んぼ」から、「さいたま新都心」の超高層ビルを撮影。この一角に国土交通省の関東地方整備局も入居しているのですが、正月早々、朝日新聞社会部が過去の大型公共事業のスキャンダル発掘に熱心に取り組んでいるようで…。
◆なぜ、いま建設スキャンダル発掘か?
 
 朝日新聞にとって羽田空港再拡張工事の談合疑惑はなかなか諦めきれない取材テーマのようだ。すでに95年3月に入札が実施され、鹿島を中心とするJV(共同事業体)が落札している案件。朝日はその約1カ月後の5月10日付け紙面で「造船業界と組むな―ゼネコン幹部指示、受注独占狙う?」の記事をすでに一度掲載している。このときは、4月20日に改正独禁法が成立し、橋梁談合事件の立件が本格化する時期だったので、記事掲載の意図も判りやすかった。
 
 しかし、2007年の年明け早々に建設スキャンダルの記事を連発する朝日新聞の意図はどこにあるのか―。独禁法施行後1年の”記念キャンペーン”で、改めて総ざらいをかけているのか?水面下で大型建設スキャンダルの摘発に向けた動きがあるのか?地方での談合事件が相次ぐなか、談合決別を宣言して安値受注を展開する大手ゼネコンに一矢報いようと、大型案件でスキャンダル化を狙った情報が飛び交っているのか?今ひとつ、はっきりしないが、公共工事を中心に建設産業が抱える問題を精力的に取材しているのは確かなようだ。
 
 私自身も中部国際空港や羽田空港再拡張で、いろいろな話を聞かないわけではない。中部国際空港で、議員秘書や暴力団関係者に不明朗な資金が流れたかどうかは知らないが、そもそも同プロジェクトは90年代前半の日米構造協議のなかで外資系企業の参入を意図的に促進する、いわゆるMPAプロジェクトに指定された案件。ある意味、米国政府までも加わって国際的な入札談合が行われたようなもので、単なる公共工事の域を超えた政治色の強いプロジェクトだった。
 
 羽田空港再拡張も似たような側面がある。当初は「埋め立て方式」のゼネコン業界と、「メガフロート方式」の造船・鉄鋼業界で激しい技術提案合戦が展開されたものの、最終的には両方を折衷したような工法が採用され、いつの間にか両業界の代表企業が大同団結したJVが結成された。しかも、漁業補償交渉も手付かずで、いつ工事が始まるのか見通しも立っていない時期に入札を実施。その後、本格化した橋梁談合事件で、JVに参加している大手橋梁メーカーが受注辞退せずに済むように入札が早まったとの見方がもっぱらだった。
 
◆造る意識から脱皮できない公共発注者
 
 なぜ公共工事において、透明性の高い発注システムを構築できないのか―。
 
 以前から指摘されていることだが、「建設行政と発注行政が明確に分離されていない」との問題点に行き着かざるを得ない。明治から昭和にかけて、公共工事は優秀な建設技術官僚が自ら計画し、直接指揮して実施されてきた。現在でも前例のない大型プロジェクトを実施する場合は、土木研究所など国の研究機関と民間が協力して技術開発するケースも少なくない。公共発注者も「自ら建設構造物を造っている」という意識・思い入れが強くなるのも仕方がないところだ。
 
 ただ、発注者自らが造る意識が強いと、何か問題が生じた場合も、建設業者との「連帯責任」意識が生じやすくなる。設計や施工で問題が生じたり、追加費用が発生したりした場合も、最後は公共発注者が尻拭いする。建設業者が公共工事で儲けたという話は聞いても、失敗して大赤字になった話はほとんど聞かないのも、結局は税金で穴埋めされてきたからではないのか。
 
 民間工事でもバブル期までは、有名建築家や大手ゼネコンに特命で工事を発注するケースも少なくなかった。民間発注者にも、より良い建物を造ろうとする意識が強かったのだろう。しかし、バブル崩壊後は、投資と収益のバランスを考慮した収益還元的な考え方が発注者に浸透。「悪くないものを造る」(東京電力幹部)との発想へと転換、建設業者にも厳しい価格競争を求めるようになった。
 
 最近では、建物だけでなく、その中の生産・研究設備や内装家具なども含めたフルターンキー(スイッチを入れればすぐに使える状態で引き渡すこと)での仕上げを求める発注者も増え、総合商社などを元請けにしてプロジェクト全体の費用を厳しく管理させるケースも出ている。企業としても、株主に対する「説明責任」を果たしていくには、建設業者との関係も従来の出入り業者という感覚を捨て、ドライにならざるを得ないというわけだ。
 
 発注者と建設業者が力を合わせてより良い建設構造物を造る―私自身も、それが建設生産システムの本来のあるべき姿だと考えてきた。しかし、公共工事でも、納税者である国民に対する説明責任が強く求められるようになり、透明性を高める必要に迫られているのは確か。公共発注者も従来の考え方を変えざるを得ない立場に追い込まれているのである。
 
◆なぜ、発注者が予定価格を積算するのか?
 
 これまでの公共工事は、公共発注者が実施すべきプロジェクトを決めて必要な予算を確保。建設構造物の詳細な仕様も発注者が決め、出来上がった設計図を基に、工事予定価格も自ら積算。現場の工事監督も発注者が行い、実行予算を含めてプロジェクト管理も自ら行っている。しかも、その回りは国会議員やら、地方公共団体の首長・議員、さらに建設関係業界団体など公共工事推進の応援団ばかり。「必要な公共工事を実施するのに必要な予算を確保するのは当然」との発想しかなかったと言える。
 
 これからの公共工事に求められるのは「限られた予算のなかで、必要な公共工事をいかに多く実施できるか」。ハコモノ行政で財政破たんした北海道夕張市の例を持ち出すまでもなく、予算が確保できなければ、何とか”遣り繰り上手”で乗り切るしかない。もはや公共発注者が、工事に必要な費用(予定価格)を詳細に積算する時代ではなくなたのではあるまいか。
 
 公共発注者自らが造る意識があるから、建設業者と同じ積み上げ方式の発想で予定価格が積算されてきた。民間工事なら「坪50万円で10建てマンションを造ってくれ!」と発注すれば、それに合わせて建設業者が実行予算を組むわけで、その予算を第三者の専門家にチェックさせることはあっても、発注者自らが積算することなど一般的にはあり得ないだろう。
 
 国土交通省でも、すでに2004年度から建築の坪単価の考え方に相当するユニットプライス型積算方式の導入に踏み切っている。過去の工事実績を調査し、そのデータから坪単価の考え方で予定価格を導く方式で、民間工事に一歩近づいた発想だ。しかし、同方式は工事費削減につながりやすいとの反発が強く、なかなか普及していないとも聞く。工事ごとに積み上げ方式で予定価格を積算する従来のやり方が、公共工事関係者にとってやはり何かと都合が良いかもしれない。
 
◆「予定価格」から「希望価格」へ
 
 この際、思い切って、入札前に詳細な「予定価格」を積算する制度は廃止してはどうだろうか―。発注者側が最初に提示するのは、埼玉県草加市が93年に実施した市立病院建設プロジェクトで採用した「希望価格」とし、その代わりに建設業界が廃止が求めている「予定価格」を下回らなければ落札を認めない「上限拘束性」は撤廃する。
 
 発注者は、ユニットプライス型積算方式の工事実績データをベースに発注者側のコスト削減目標などを加味して設定した「希望価格」を示した上で、総合評価方式による一般競争入札を実施。まずは「希望価格」を下回って総合評価の最も高い業者と、実際にその価格で実行予算を組めるのか、ここで詳細な積算を行う。さらなるコスト削減の余地がないかどうかを検証したうえで、双方が合意すれば正式契約。一方でダンピング(不当廉売)受注と認定せざるを得ないケースでは、交渉を打ち切って罰則金を課し、2番手の業者と交渉に入る。
 
 「希望価格」を下回る落札者がいなかった場合でも、評価点の高い業者と交渉。新たな技術提案や仕様変更などで「希望価格」を下回れば正式契約。どうしても下回らない場合は、計画そのものの見直しを行うか、これ以上のコスト削減が難しいと判断した場合は「希望価格」を上回っての契約も認める。最も重要なのは「希望価格」の決定プロセスを透明にして判りやすくすることである。
 
 公共工事の入札制度改革では、現在導入が進められている「総合評価方式」に対する期待が建設業界からも大きい。価格だけでなく、技術力も評価される点で、「良いものを適正な価格で」調達する方式と考えられているからだ。ただ、総合評価方式でも「予定価格」が積算されるのは同じで、落札率98%でも総合評価点が高ければ落札できることに変わりはない。
 
 公共発注者=技術官僚の権力の源泉は、「予定価格」の決定権を握り続けているところにある。私自身、落札率だけで談合が行われていると決め付けるつもりはないが、「部外者立ち入り禁止」の紙が張られた工事事務所などの一室で積算されている「予定価格」の精度が、どの程度のものなのか―。それを客観的に評価するのが難しい以上、公共工事の発注システムの透明性を確保するのは困難なように思えるのである。

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