小泉政権の5年間で公共工事の量は激減した。安倍政権もこの方針を継続する。十分な供給がなければ談合は成立しない。日本中に張り巡らされてきた談合システムが崩壊するのは、もはや時間の問題だろう。
○旧表題「談合システムは直に崩壊する、次は発注者の淘汰を考えよ」

地方の公共工事談合は、地方ゼネコンの供給過剰が原因

  福島県、和歌山県、宮崎県などの談合事件が注目を集めている。

  東京地検特捜部による捜査が2006年春から本格化していた福島県の談合事件は、5期18年もの間、県政に君臨してきた佐藤栄佐久・前知事の逮捕・起訴にまで発展。和歌山県が発注元の官製談合事件でも、10月15日に、木村良樹・前知事が大阪地検特捜部に逮捕された。贈収賄事件として立件される可能性が高まっている。“改革派”と呼ばれてきた県知事の相次ぐ逮捕は、談合システムがいかに根深く存在してきたかを証明するものと言える。

  2005年暮れに談合決別宣言を行った大手ゼネコン・大成建設の首脳は「地方のことは分からないが、中央の談合システムは完全に解体されたからねえ」と語る。福島県・和歌山県・宮崎県の事件も高みの見物といった様子だ。

 別の大手ゼネコン幹部も「そもそも地方ゼネコンは、供給過剰状態だから。談合システムを解体して淘汰(とうた)を進めるべきでしょう」と反応は冷ややかだ。今後、地方で談合システムの解体が進み、大手ゼネコンに飛び火して逮捕者が出るようなことがあるとしても、「供給過剰に陥っているゼネコンの構造を是正する方を優先すべき」との思惑が見える。

 小泉政権の5年間で公共工事は4割減、地方ゼネコンの淘汰は避けられない

  談合システムの維持で最も重要なのは、“仕切り役”が清廉潔白で公正中立であること、と言われてきた。偏りが生じれば、必ず不満が出る。それが内部告発へと発展するからだ。さらに言えば、公正中立に配分するのに十分な工事量が確保されていることが大前提となる。

 しかし、小泉政権の5年間で公共工事の量は激減した。小泉首相が就任する前の2000年度には、全国の公共工事は年間30兆円あった。それが、2005年度には19.9兆円に減った。2006年度も18.2兆円へと縮小する見通しだ。安倍政権も、メンバーを一新した財政経済諮問会議が「引き続き年率3%程度ずつ公共事業予算の削減を進める」考えを打ち出している。

  不良債権処理問題を契機に、1997年から、準大手クラスの上場ゼネコンの再編淘汰が進んだ。これに比べて地方ゼネコンの淘汰は、ほとんど進んで来なかった。公共工事が激減したしわ寄せは、主に建設労働者に集中。農村部の建設労働者の年収は200万円台まで低下したと言われる。

 「兼業農家なら辛うじて生活できるかもしれないが、子供を生み育てるのは不可能な所得水準だ」(準大手ゼネコン幹部)と、少子化問題に拍車をかける懸念があると指摘する声もあるほど。地方ゼネコンの淘汰は、もはや避けては通れない状況となっている。

落札者の質を問う仕組みが浸透しない

  地方ゼネコンの供給過剰構造を改善し、技術力の高い優秀なゼネコンが勝ち残れるようにするには、福島県や和歌山県、宮崎県のような談合システムを解体するとともに、発注者である地方自治体の体制を改めることが欠かせない。例えば、透明性の高い「総合評価方式」などの公共工事発注システムが不可欠となる。価格だけでなく技術力などを含めて総合的に評価して落札者を決定する仕組みだ。しかし、その導入は進んでいない。

  現在は、価格だけを競う競争入札制度が主流。このため、談合システムを解体すれば、一気に価格競争が激化する。予定価格を大きく下回った値段で落札されるケースが急増し、新聞などでも大きく報道されているのはこのためだ。これを「低価格入札」と呼ぶ。

 ゼネコン各社の2007年3月期の9月中間決算を見ると、工事進行基準(工期が長い工事について、途中段階で売り上げ・利益の見込み額を計上する方式)を採用している鹿島や大成建設では、土木工事の粗利益率に早くも影響が出始めている。かつては14〜15%だった粗利が、10%前後まで落ちているのだ。鹿島の首脳は「低価格入札競争の影響が出てきている。いつまでも続かないとは思うが、まだ先行きは見えない」と語る。我慢比べが続いているわけだ。地方のゼネコンでは、さらに大きな影響が出ていると推測できる。

 国土交通省は、「総合評価方式」の導入を目指してきた。だが、昨年の橋梁談合事件のあとの調査では、「地方自治体の6割が同方式を理解していない」という結果となった。裏を返せば、そうした自治体では談合システムがいまだに機能している疑いが否定できないのである。

 発注予定価格の透明性をどう確保するのか?

  発注者である地方自治体が抱える問題は、応札者を評価する力の不足だけではない。「地方自治体に発注責任能力が備わっていない」という指摘もある。2000年に東京都港区の前区長に就任した原田敬美氏は、建築家として初めて地方自治体のトップに立った。同氏は「発注者が決定する予定価格が正しく積算されているかどうか、疑わしいケースが少なくない」と見る。

 原田氏が区長として乗り込んだときには、港区でも談合システムが機能していた。4年の間に担当幹部を4人も交代させて、透明性の高い入札を実現した。その過程で、「予定価格の算出に関する書類を自らが精査して、積算をやり直した」という。これは原田氏が技術者だからできたもの。他の自治体では不可能な方法である。公共工事の発注をはじめとする行政の透明性を高めるために監査委員会の機能強化に力を入れて、効果も得た。

  区長を1期で退いた原田氏は、この経験を生かして、2005年にNPO法人「地域と行政を支える技術フォーラム」を立ち上げた。そして、公共工事を発注する際に、技術者がその内容と価格を事前に監査することを、各自治体向けに提案し始めたのである。

 原田氏は「今年10月に発覚した東京都江戸川区の官製談合事件は、民間業者に予定価格を積算させていたと聞いている。どのような形で予定価格を算出しているのかを第三者が事前にチェックしていれば、そうした事態を防止できたはず」と語り、事前監査の重要性を強調する。しかし、なかなか導入が進まないのが実情のようだ。一度議会を通過した公共事業計画を、改めて第三者がチェックすることに対する役所・議会の抵抗は強い。

  マスコミは、予定価格に対する落札率が「95%だから談合だ」とか、「50%以下だからダンピング(不当廉売)だ」と評価することが少なくない。しかし、そもそも予定価格を厳しく積算していれば、落札率が100%を超えることもあり得る。落札率よりも予定価格そのものを厳しくチェックする方が重要なのである。

 発注者は今のままでよいのか?

  地方のゼネコンの淘汰をいかに進め、談合をなくすのか? 応札者を評価する力や、予定価格を厳しく算出する公共工事発注者としての能力を、地方自治体はいかに高めていくのか?

  これらの点に関して、筆者は楽観的な展望を持っている。平成の大合併で市町村の統合が進展、三位一体による地方分権が進められている。道州制の導入に向けた動きも活発化している。道州制を導入して、新たに設置する道や州に発注者権限を集約するとなれば、既存の都道府県をベースとした談合システムは遅かれ早かれ解体する。

  ピーク時の1995年度には35兆円に達していた公共事業が、今年は18兆円とほぼ半減する。この規模ならば、中央・地方を合わせて優秀な技術官僚を集約して、公共工事を効率的に発注する体制を整えることができるだろう。必然的に発注能力は高まるはずである。

  ただし、課題もある。地方ゼネコンの淘汰が進むとして、発注する側の淘汰は必要ないのだろうか?既得権益を握った役所は、その権限をなかなか離そうとしない。

 ある都道府県の幹部は「政府が進めようとしている道州制は地方分権になっていない。モデルケースとして議論されている北海道を見ても、なぜ旧・北海道開発庁(現・国土交通省北海道開発局)をそのまま残すのか?」と苛立ちを隠さない。道州制の基本的な考え方は、権限を地方に移譲すること。であるにもかかわらず、国土交通省などの中央官庁に、公共工事の発注権限を地方に委譲する様子が全く見えないからだ。

 公共工事が減るにつれて、日本中に張り巡らされてきた談合システムが崩壊するのは、もはや時間の問題だろう。これを機に、効率的で透明性の高い発注システムをいかに構築するのか。そこが問われる時期が来ている。

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