新しい不動産登記法が7日に施行され、オンライン登記が22日、さいたま地方法務局上尾出張所から導入されることになった。法務省では05年度中に、全国50の法務局・地方法務局が、それぞれの管轄する本局、支局、出張所のうち最低1カ所をオンライン庁(オンライン申請が可能な登記所)とすることで、全国に100程度のオンライン庁を展開する計画だ。IT戦略本部が策定したIT政策パッケージ―2005には商業・法人登記、不動産登記ともに「08年度の出来るだけ早期に」に全国でオンライン化を実現することを明記しており、今後は民間側のオンライン化対応が焦点となる。
 行政手続きのオンライン化は、従来の紙で行われていた繁雑な手続きを簡素化・合理化することで、行政の効率化を図るともに、民間側もオンライン手続きを積極的に活用して業務効率を上げ、コスト削減、サービス向上を実現するのが本来の目的。行政側をいくらIT化しても、民間が有効に活用しなければ意味がないのだが、不動産登記でも、登記手続の95%を代行している司法書士は紙の登記済書が廃止されるオンライン化そのものに消極的な人も多く、不動産業界は全く関心を示さないという状況が続いてきた。
オンライン登記を前提にした不動産登記法の改正作業が数年前から始まって昨年6月に成立したが、「新しい法律に関する相談が大手不動産会社などから個別に寄せられるようになったのは昨年秋ぐらいから」(小宮山秀史・法務省民事局民事第二課補佐官)。オンライン登記の全国展開が進む08年に向けて民間側の対応は始まったばかりだ。
 民間側の課題は、オンライン登記を利用する場合に不動産取引の業務フローをどうするのかである。例えば個人がローンを組んで住居用土地を購入する場合、従来はローンを借りる金融機関の応接室などに、買主、売主、仲介業者、融資担当者、司法書士が一堂に会して売買・決済が行われてきた。仲介業者が作成した売買契約書に売主、買主が署名捺印し、金融機関が融資を実行して決済を行ったあと、司法書士が登記所に出頭して登記移転や抵当権設定を申請するというのが大まかな流れ。オンライン登記が利用できるようになれば、その場にインターネットに接続したパソコンや紙の売買契約書を電子化するスキャナーなどが揃っていれば決済と同時に登記申請ができるようになるわけだ。
 しかし、従来の業務フローのまま、登記申請だけをオンライン化しても大きな効果があるとは考えにくい。せいぜい司法書士の手数料が多少安くなることが期待できる程度だろう。むしろオンライン登記導入をキッカケに不動産取引の業務全体を見直して売買コストを引き下げ、不動産市場を活性化するという発想が求められる。日本でも4月のペイオフ解禁を前にして株式や不動産への投資が活発化しており、地方に住む個人投資家が都心の収益物件をネットオークションなどで購入するケースも増えてきている。
 不動産業界では、不動産の保有コストを下げるために固定資産税の低減などを政府に要望してきたが、投資物件を短期間に売買する場合は売買コストの低減の方がむしろ利回りに効いてくるはず。個人が一生の買い物である住宅を購入する場合なら、関係者が一堂に顔を会わせるような“イベント”も意味があるが、収益物件のようなケースなら電子契約書を含めて売買手続きを全てネット化しても問題はないと考えられる。
 法務省では今後、オンライン登記が可能なオンライン庁を順次増やしていく一方で、24時間365日受け付けるノンストップサービス導入の検討や、本人確認手段として新たに導入される登記識別情報の有効性確認請求システムの改修などを進め、より使い勝手の良いサービスを実現していこうとしている。「司法書士の事務所もこれまでは法務局の近くと相場が決まっていたが、オンライン化されれば顧客に便利な駅前などに移っていく可能性もあるだろう」(小宮山氏)。オンライン登記制度を民間ビジネスにどのように活用していくのか?そこにITベンダーにとっても新しいビジネスチャンスが潜んでいるはずである。

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