だれしも、組織と人事の話題には関心がある。昨年の衆議院選挙のあとマスコミの興味は「ポスト小泉」に絞られてきたが、この5年間で日本の政治スタイルも大きく変わってきた。
 いわゆる族議員と官僚が担ってきた政策立案プロセスが、経済財政諮問会議などの直轄組織を活用した官邸主導へとシフト。閣僚人事も、派閥から推薦を受けるのではなく、田中真紀子衆議院議員を外相に起用したり、当初は民間人だった竹中平蔵参議院議員を登用したりするなどの”サプライズ人事”を断行。「自民党をぶっ壊す!」との言葉通りに、これまでの組織と人事を刷新してみせただけに、後継人事に注目が集まるのも当然だろう。
 小泉首相の政治手法を可能にしたのは、国民からの高い支持率と、テレビやメールマガジンなどのメディアを巧みに使った情報戦略だ。テレビそのものは50年前からあるメディアだが、以前は新聞と同じで情報仲介者である記者が情報を流すだけの道具に過ぎなかった。しかし、テレビを不特定多数に情報を流すITツールと捕えれば、情報発信者が主体的に利用可能なメディアと言える。すでに民間では、企業などがテレビやインターネットを戦略的に利用する手法は当たり前だが、それを政治の世界に持ち込んで見事に使いこなしたわけだ。
情報発信者がメディアを持てる時代へ
 昨年、新興IT企業が放送局の株式買収を乗り出したことで「通信と放送の融合」が大きな話題となった。その潮流は、すでに20年前の通信自由化によって始まっていた。NTT民営化と前後してデジタル通信サービスが始まり、パソコン通信での電子メール利用がスタート。90年代半ばからインターネット時代に突入して、企業などの情報発信者はホームページによって自らメディアを持つようになり、いまやブログやSNSによって個人でも自由に情報発信できる時代である。
 筆者自身が電子メールを利用し始めたのは16年前の1990年。「私のメールアドレスを教えるから、君もパソコン通信を始めてみてはどうか」と、ある大手ITベンダー社長に勧められたのがきっかけだった。その言葉通りに、筆者が送付したメールに社長自ら返信してくれたので「取材するにも便利な道具ができた」と感激したのを覚えている。
 電子メールの最大の特徴は、世界中どこへでも、多くの人に情報を手軽に発信できること。組織内の情報伝達手段として活用すれば、トップから直接、メンバー全員に情報発信することが容易になり、あらゆる情報がトップに集中しやすくなる。当時から「電子メールは企業などの組織のあり方に大きな変えていく」との見方はあったが、いわゆる”中抜き現象”が進み、ピラミッド型構造の組織をフラット化しやすくしたのは確か。情報がトップに集まりやすくなったことで、組織運営も、日本的なボトムアップ型から、トップダウントップ型が強まった。
 ちょうどバブル経済が崩壊し、企業が不良債権処理などの構造改革に乗り出した時期は、インターネットの本格普及期に重なった。金融・証券や自動車などの製造業では、ITを積極的に導入し、リストラによって生産性向上を図り、大規模な業界再編へと繋がっていく。同時に、人事制度も年功序列・終身雇用が崩れ、能力主義や成果主義が急速に拡大。民間部門では、ITはリストラするための道具として絶大な効果を発揮してきた。
官の人材活用をどう進めるか
 公共部門でも、2001年にスタートした国家IT戦略「e-Japan戦略」とほぼ同じタイミングで組織の再編が始まった。2001年の中央省庁再編を最初に、郵政民営化や道路4公団などの特殊法人改革、そして市町村の平成大合併と続き、道州制の議論も進んでいる。これらの組織再編も、民間では不良債権処理がきっかけだったように、財政問題が根底にある点で構図も似ている。
 ただし、これまでは電子政府・電子自治体による行政のIT化と、公共部門の組織再編は一見、無関係であるように扱われてきた。しかし、今国会で行政改革推進法が成立し、国家公務員の削減や政府系金融機関の統合なども決まった。否応無しに、組織のスリム化や人員の合理化に取り組まざるを得ない状況で、公共部門ではITをどのように活用しようとしているのだろうか。
 談合との決別を打ち出し始めた建設業界で、産官学が連携した人材活用機関の創設構想が浮上している。発案者は、道路関連4公団の民営化委員会の委員も務めた武蔵工業大学の中村英夫学長(東京大学名誉教授)で、民間業界団体である日本土木工業協会が4月に公表した提言に盛り込まれた。
 「いまや民間よりも公務員の方が給与が高いぐらい。談合に関係なく、役に立つ人材でなければ天下りなんていらないよ」(大手ゼネコン首脳)。もとは役所で抱えられなくなった人材をお土産(談合)付きで民間に引き取らせていたのが天下りの基本的な構図。今回の提案では、民間が役所からヒモ付きで天下りを受け入れるのではなく、都道府県単位で設置する人材活用機関に一度プールしてから、民間が必要な人材だけを受け入れる。「民間も優秀な人材であれは欲しい。役人も自分の能力を高める努力が求められる」(中村氏)。”天下りの透明化”を図ることで、長い間、官側の人事制度に組み入れらてきた仕組みを変えるのが狙いだ。
 少子高齢化が急速に進むなかで、10年後を見通して行政サービスの水準をどのように維持・向上していくのか。公共部門に必要な優秀な人材をいかに確保していくのか。せっかくITを導入しても、将来の行政のあり方に対するビジョンもなく、新たなサービスや雇用を生み出していく仕組みもなければ、ITは単なるリストラのための道具でしかない。

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