地方自治情報化推進フェア2006(主催・(財)地方自治情報センター=LASDIC、(社)行政情報システムセンター)が5、6日に東京・池袋のサンシャインシティで開催された。5日のシンポジウムには参加できなかったが、大荒れの天候のなかで6日午後にITベンダー40社による展示会を見学。今年3月に三菱電機が打ち出した自治体向けアプリケーションのオープンソースソフトウェア(OSS)化に注目してみたが、残念ながら他社で興味を引く展示は見当たらなかった。
 地方自治体の情報化では、総務省が共同アウトソーシング事業を通じてOSS化を推進してきた。これまでは国がITベンダーからシステムパッケージを買い取ってLASDICのライブラリに登録・公開してきたが、今年になって三菱電機が自前で開発した文書管理システムを無償でLASDICのライブラリに提供することを決断。すでにライブラリには富士電機システムズの文書管理システムが登録済みだが、三菱電機が加わることで、利用者にとって選択できる環境が整うことになる。
 従来のITベンダーのビジネスモデルは、システム開発の初期投資として?パッケージ使用料と?カスタマイズ費用を負担させ、稼動後には維持・運営に必要な?メンテナンス費用を徴収するという仕組みが一般的だった。三菱電機は?のパッケージ使用料を無償にしようというわけで、ある意味、画期的なビジネスモデルの転換と評価できる(残念ながら、他社からはほとんど無視されている印象もあるが…)。
 筆者が詳しい不動産賃貸事業のビジネスモデルと比較してみると、三菱電機の考え方は十分に納得できるものである。不動産会社が賃貸オフィスビルを建設する場合、その建設費用をテナント側が全額負担させることは基本的にあり得ない。関西方面などでは賃貸住宅でいまだに高額な礼金敷金を負担させる慣習が残っているが、テナントが入居時に負担するのは自分の仕様に合わせて内装や家具などを整える費用(カスタマイズ費用に相当)だけ。ビル建設費などの初期投資は、賃料収入と管理費用(メンテナンス費用に相当)で回収していくのが当たり前であり、三菱電機のような考え方は決しておかしくはない。
 しかし、フェアの展示会場で、三菱電機の取り組みについて他のベンダーの説明員に話を聞いてみたのだが、評判はかなり悪い。従来の収益モデルをぶち壊す可能性もあるだけに、当然といえば当然の反応か。
 「国土交通省の電子入札コアシステムは、役所が責任を持ってシステムを開発しサポートしているが、総務省の共同アウトソーシング事業では、ライブラリーに登録したあとは放ったらかし。結局、ほとんど普及していないわけで、無責任だ」(某システムインテグレータの説明員)―OSS化したパッケージをいかに自治体に売り込むかは、国の役割ではなくITベンダーの仕事であるはず。LASDICのライブラリがなかなか普及していないというのは、ITベンダー側が売る気がないからではないのか?
 国土交通省が電子入札コアシステムの普及に力が入っているのは、売れれば売れるほど開発した外郭団体のJACICにライセンスフィーが入って、自分たちの天下り先が潤うからだろう。今年1月から日立情報システムが電子コアシステムのASPサービスを開始したが、これを利用する場合にも各自治体は個別にJACICにライセンスフィーを支払う仕組みだとか。
 国民の税金を使って開発したシステムを、無償で自治体に配って「割り勘」効果を発揮させようという仕組みと、買取でもASPでも売れれば売れるほど外郭団体に落ちるお金が増えるという仕組み―。どちらがあるべき姿なのか、ITベンダーももう少し考えてみるべきではないのか。
 フェアの会場では、西宮市役所の吉田稔情報推進担当理事が元気に動き回っていた。LASDICのライブラリに自治体が開発したシステムとして初めて登録された「被災者支援システム」を展示していたからだ。
 「このシステムは阪神大震災を通じて業務に精通した職員が開発し、使われているもの。業務のことを知らないITベンダーが開発した”使えないシステム”じゃないからね」と自信たっぷり。ライブラリのなかでも、同システムを利用する自治体は順調に増えてきていると強調していた。
 確かにITベンダーにとってOSS化は、多くのユーザーを獲得して、かつ長く使い続けてくれなければ初期投資の回収も難しい、リスクの大きなビジネスモデルである。しかし、利用者の立場から見れば、吉田理事が言う”使えないシステム”が自然淘汰されて、利用しやすい環境が整備されていくことが期待できるのではないだろうか。

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