電子投票を普及させるための新たな取り組みが動き出した。総務省は、地方自治体が電子投票を導入・実施するうえでの留意点を整理した「電子投票導入の手引き」を作成し、5月に公表。国政選挙も、選挙制度調査会で2007年に予定される参議院選挙での導入に向けた検討が進みだしている。果たして電子投票を社会に定着させることはできるのか?システム障害などで混乱を招いた日本のIT企業の実力が改めて問われている。
 2003年7月に岐阜県可児市で富士通・ムサシが担当した電子投票での事故発生から、来月で丸2年を迎える。その2カ月半後の11月には神奈川県海老名市でNTT東日本が担当した電子投票でもトラブルが発生、2件の事故で、電子投票を導入する動きに急ブレーキがかかったのは間違いない。さらに今年3月、可児市の事故に対して名古屋高裁で「選挙無効」の判決が下され、関係者に大きな衝撃を与えた。メディアの関心も薄れ、電子投票そのものの導入を疑問視する見方もある。
 しかし、電子投票はその後も5自治体で6回実施され、大きな成果を挙げてきた。うち5回は電子投票のパイオニアである電子投票普及協業組合(EVS)、残り1件は2回目の受注となる東芝が担当。EVSでは、電子投票の対象有権者数が過去最大の約23万人となった昨年11月の三重県四日市市の市長・市議補欠選挙を含めて全ての電子投票を成功させている。過去13回の実施例のうち8回をEVSが担当し、東芝を含めてスタンドアローン型電子投票機を使用した場合の電子投票における管理執行のやり方やトラブル回避方法などのノウハウが体系的に蓄積されてきたと言える。
 一方で、02年2月の「電子投票特例法」施行に合わせて、総務省の自治行政局選挙部では、電子投票機の技術ガイドライン作成と補助金制度の導入を行ったものの、その後は追加の普及促進策をほとんど講じてこなかった。以前に何度か取材したときにも「電子投票はともとも地方自治体の要求に応じて基盤整備を進めてきたもの」との姿勢で、2件の事故後も地方自治体の動向を静観してきた。
 しかし、ここに来て総務省の対応は大きく転換したようだ。今回、電子投票導入の手引きが公表されたあとで取材すると、「e−Japan重点計画にも電子投票の普及促進が明記されてきた。当然、普及を図る立場にある」(佐藤茂・選挙部管理課電子投票係長)と、前向きな姿勢を強調。昨年度で廃止が決まっていた補助金制度も、急きょ特別交付税措置でカバーすることを決め、電子投票の普及に消極的とのイメージを払拭しようと躍起だ。
 今回作成した導入の手引きでは、蓄積されてきたノウハウを幅広く公開することで本格的にテコ入れを図ろうとの狙いがみえる。過去のトラブル事例も示したうえで、機器仕様の決定のチェックポイントでは、「過去の事例を参考に機器仕様を検討すること」と明記した。さらに「障害発生時の技術的な対応策は重要」であるとも強調したが、2件の事故を起こしたクライアント・サーバー方式はトラブル時の対応がスタンドアローン方式に比べて難しいのは確かだろう。
 手引きの“トラブル時の対応”の項では「発生したトラブルに迅速に対応し、誤った復旧作業等による二次被害を防ぐ必要がある」とも書かれている。“誤った復旧作業”が起こった背景には「フリーズしても再起動させれば機械は正常に戻る」というIT技術者の安易な発想があったのではないだろうか?フリーズして仕方なく再起動すると、途中まで書いていた原稿が消えていた―そんな不便さを消費者に未だに強いている現状を考えると、1票1票を大切に扱わなければならない電子投票システムをIT企業に本当に構築できるのか、と不安にならざるを得ない。
 今月12日に行われた青森県六戸町の町長選挙では、2度目の電子投票がEVSのシステムで実施され、トラブル「ゼロ」で無事に成功した。そこには、08年に国政選挙への電子投票導入をめざす韓国からの視察団も訪れていた。「このままでは電子投票でも韓国のIT企業に日本は追い抜かれてしまうのではないか?」(宮川隆義EVS理事長)。佐賀市役所の情報システムを韓国ベンダーが受注して衝撃を与えたように、電子投票もこのままでは韓国など国外から導入される時代がくるかもしれない。

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