国政選挙での電子投票を解禁するための法案が、今月召集される臨時国会に提出される見通しとなった。電子投票条例を制定している地方自治体を対象に国政選挙での実施を認めるというもので、法案が順調に成立すれば、来年春の統一地方選挙のあとに予定されている夏の参議員選挙から導入される見込み。2002年7月に日本初の電子投票が岡山県新見市で実施されて、すでに4年以上が経過した。国政選挙への導入を起爆剤に、電子投票の本格普及が期待される。
情報セキュリティ大学院大学(学長・辻井重男教授)が、中央大学と協力して、今年7月から「電子投票・アンケートシステムに関する勉強会」を立ち上げた。今年5月に自民党選挙制度調査会(会長・鳩山邦夫氏)が、国政選挙での電子投票を解禁する制度改革案をまとめ、国政選挙への電子投票解禁が動き出したタイミングである。
勉強会に電子投票普及協業組合(EVS)の宮川隆義理事長=
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=が講師として出席すると聞き、9月上旬に開催された第3回の勉強会に出席し、電子投票をめぐる最近の国際情勢について話を聞いた。
世界の選挙制度をみても、候補者の氏名を選挙民に文字で書かせる「自署式投票」は日本だけであるという。このため、選挙のたびにかなりの数の「無効票」が発生し、市町村議会選挙などの場合、当落を左右する問題となって、しばしば裁判にまでもつれ込む原因にもなっている。
日本以外の国では、投票用紙に候補者の名前が書かれていて、それに印を付ける選択式投票が一般的だ。候補者を選んでチェックするだけなので間違いが少なく、自署式に比べて有権者の投票行動を正確に選挙結果に反映できる。有権者にとって、簡単で便利な投票方法があるのなら、自署式にこだわる理由はなく、積極的に新しい方法を導入することが民主主義の基本だろう。
日本に電子投票を導入する最大のポイントは、自署式投票からの脱却にあると言って過言ではない。世界標準である選択式投票を、電子投票の形で導入しようというわけだ。そう考えると、電子投票による選択式投票と自署式投票が並存するのは、有権者に対する公平性の面では問題があるかもしれない。
しかし、新見市での電子投票からすでに4年が経っても、電子投票の導入を進めてこなかった国や地方自治体の対応にも問題があったと言わざるを得ない。今後は、有権者の立場から、電子投票による選択式投票を行なう権利を積極的に主張し、電子投票の普及を早く実現することに力を注ぐべきだろう。
国家戦略として2001年からスタートした「e-Japan戦略?&?」、今年度から始まった「IT新改革戦略」において、医療、教育、行政などの重要分野でIT戦略が立案され、様々な施策が推進されてきた。
しかし、なぜかしら、すっぽりと抜け落ちている重要分野が2つあった。1つが、経済の血液循環を担っている「金融」のIT化に関する戦略が欠落していること。もう1つが「政治」のIT化を推進するビジョンが描かれてこなかったことである。
「金融」に関しては、IT化によって世界の金融マーケットを支配しつつある米国と、今さら競争しようとしても勝ち目は薄いということかもしれない。ただ、「政治」については日本でも積極的にIT化を進めていく必要はある。目的は、カネのかからない選挙と政治を実現することだ。
2003年にインタビューした北川正恭早稲田大学大学院教授(元・衆議院議員、前・三重県知事)も「衆議院選挙に立候補するだけで、勤め先も辞め、選挙資金に1000万円以上かかるのでは、リスクが大きすぎる」と指摘。こうしたカネのかかる選挙制度が「いまや、衆議院議員の6割以上が二世議員」(宮川EVS理事長)という状況を生んだのは間違いない。
日本でも格差社会が大きくクローズアップされるなかで、いかにIT化によってカネのかからない選挙と政治を実現するか。その第一歩が電子投票の導入なのである。